第25話 生みの親と夏休みイベント

麗奈れなちゃんの娘ちゃんてのは聞いてたけど、改めて見るとほんとに似てるなぁ」


 ミラーを見てにこにこ微笑みながらそう言ったのは、運転中の父親だった。


「めちゃくちゃ言われます!それと、本当にありがとうございます送り迎え!」


 俺の隣に座る碧木あおきが元気よく答え、感謝を述べている。


「可愛い息子とその友達の頼みくらいお易い御用やで!」

「……ははは」


 久しぶりに出掛けるからだろうか、今日父親のテンション高い。可愛い息子とか言っちゃって、ちくしょう、嬉しいぜ。

 予定通り帰宅した俺の父親は、送り迎えを快く引き受けてくれた。今は俺と碧木と送迎担当の父親の3人で、花火ヶ丘町にあるプールへ向かっている。


(……そういや、プールって事は碧木……)


 とある事に気付き、隣に座る同居人の方をちらっと見てみると。


「二十日、プールで世麗せれいちゃんの水着姿に見蕩れんなよ〜?」

「……な!?」

「え〜?二十日はつかのえっち〜」


 こういう所を見透かしてくるあたり、親子なんだなって実感する。あと碧木、見蕩れるだけだからえっちでは無くね?確かに期待はしてるけども。


「いやぁでも、全国リーディング1位の子と出会えるなんて光栄だなぁ」


 出た、この話の切り出し方。父親が碧木に向かってまた話し掛けた。この人、を言うつもりだ。


「え、お父様もヴィクロやってるんですか!?」


 案の定、碧木は直ぐにその話に乗った。ゲームのことになると、ほんとにすっごい笑顔になるんよなこの子。


「……やってるっつーか、この人が……」

「俺が書いたからなぁ」


 俺が碧木に説明しようと話し始めた途端、俺の番だと言わんばかりに言葉を重ねてきた。しかもすんごい圧で。へいへい、どうぞお好きに。


「俺が書いた?」


 頭の上にハテナを浮かべている碧木。そりゃ、何が何だか分からんよな。


「そ!『VICTORY ROAD』の生みの親、俺!」

「……へ?……え、えぇぇぇぇ!?」


 やっぱり良いリアクション。残念ながら、俺の父親が言ったことは事実だ。

 株式会社アイビーの代表取締役であり、「ヴィクロ」を始めとするゲームの開発者だ。本名・池添いけぞえ 耀太ようた。なんか、取扱説明書みたいな感じになったな。


「お父様が生みの親で二十日が全国2位って、凄いヴィクロ家庭!」


 碧木が感動した様子でそう言った。いや、ヴィクロ家庭って何。俺の母親はほぼゲームに関わってないぞ。


 ◇◆


「よし、着いたぞ〜!」


 その後、ヴィクロなどについての話に花を咲かせているうちに、我々が住む宮松市みやまつし 桜川町さくらかわちょうのお隣、花火ヶ丘市はなびがおかしにある目的地に到着した。


「あ!みんな居る〜!」


 車を降りた碧木は、彗星すいせい達を見て笑顔を輝かせた。やっぱ、友達が大好きなんだろうな。


「よ、世麗とその同居人」

「二十日達が最後だぞ〜?ジュース奢りで」

「ふはは、まじで2人で来てんじゃん!」


 おぉ、こうして集まると結構な人数居るな。


 男子陣は礼紋れもん大岡おおおか、そして祭田まつりだ山垣やまがきプラスおまけの俺。陽キャ4人+陰キャの構図。女子陣は碧木、彗星、そしてながれとどろきの4人だ。

 男子5名、女子4名、合計9名という人数は、俺にとっちゃかなりの大人数に思えた。普段は礼紋か碧木かぼっちだからな。


「折角だし楽しもうね!二十日!」

「……うん。なんかいつもより緊張してないし」


 碧木の耳元での囁きに、俺は平然と答えた。ちなみに、人数多いのに緊張はしてない。なぜかは分からないけど、俺が慣れたのかな?


(……俺がこの人数を前に慣れるって、そんな事ある?)


 心の中で疑問を浮かべつつ、入場ゲートへと向かう。


 みんなでプールという、ゲームで言うと夏休みイベント第1弾がいよいよ始まった。中々攻略しがいがあるね。

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