第31話 お誘い

「……ん〜」


 俺は朝の配信後ベッドに寝転び、とある写真を見つめている。数週間前、雨が降ってきたから窓を閉めようとした時、棚のそばに落ちてるのを見つけ拾ったやつだ。

 間違っても、家族や碧木あおきの部屋に入って盗んだやつじゃないぞ?


「……これ、俺だよな?」


 その写真には小学生?の頃の俺と、笑顔を浮かべる少女の姿が写っていた。昔の俺は今より髪が短く、まだこの前髪ほど伸びてない。ん?今の俺、この頃より陰の方に退化してない?


 まぁそれは置いといて、気になるのはやっぱり写真に写ってる少女だ。


 長い桜色の髪をまとうこの子は、雰囲気的にも碧木にしか見えない。よーく見ると、例の御守り握ってるしね。


「……覚えてないから、ほんとになんとも言えないんだよなぁ」


 1番の問題はそれだ。どれだけ記憶を遡っても、この写真の事とかを思い出せない。当時の事を思い出さないと話が進まないんだけど、中々難しい。


 そして、俺にはもう1つ気になる事がある。


 それは、昔会った?時の事を詳しく知ってそうな碧木が、なぜかそれを隠そうとしていることだ。知られて不味いことがあるのか、ただ恥ずかしいだけなのか。そもそも、ほんとに覚えてないだけの可能性もあるし、ほんとに分からん。


「また、母さんとか礼紋れもんにも聞いてみっか」


 頭を抱えていても何も起こらない。この問題の答え合わせは、もう少し先になりそうだ。


 ――ピンポーン


 俺以外不在の家に響いたチャイムの音。あれ、この時間にピンポン?碧木は合鍵持ってるはずだし、誰だろ。


「……はーい」


 階段を下りながら、呼び出しに対して返事をする。多分というか絶対、相手には聞こえてないだろうなと、自分でもびっくりするくらいの小声でだ。流石俺、細かいところで陰キャだぜ。


「……はい。……って、世麗せれいか」

「あ、よかった!鍵忘れちゃってさ、居なかったらどうしよって思ってた!」


 扉を開けると、そこに居たのは同居人である世麗だった。なるほど、そういう事なら安心して。俺ってご存知の通り、世麗と出掛ける時以外は家に居るから。


「……ん?今日は意外と涼しいって思ったんだけど、外はそうでもなさそうだね?」

「ん〜?なんで?いつもよりかは涼しいよ!雨降ったし風強かったから」


 碧木の顔を見て俺はそう言った。え?なんで外は意外と暑いらしいって判断したのかって?いやだって、それは……


「……世麗の顔めっちゃ赤いからさ、てっきり超暑いのかと。あ、部活してきたからか」

「……え?」


 俺がそう言った瞬間、碧木はほっぺに手を当てて固まった。あれ、たしか今日部活だったよな。


「え!?あ、いや、そ、そうだね!部活結構動いたから!」


 そうだよな。それにしても碧木、なんか焦ってない?まぁ別に気にせず、自分の部屋に戻ろう。そういう時もあるさ。


「……あ、あの!二十日はつか!」

「……ん?」


 急に背後から名前を叫ばれて急いで振り返る。


「あ、あのさ!一緒に、今日の祭り行かない!?」

「……え、え?うん、いいよ?」


 突然何を言い出すと思ったら、まさかの祭り一緒に行こうという誘いだった。断る理由無いし、昼の配信早めに済ませばいいしもちろんOKだ。

 そういやあったな、この時期の夏祭り。


「ほ、ほんとにいいの?」

「……うん?うん、他の人から誘われたら断るけど、世麗だし」


 誘ってきたの碧木からなのに、俺の返事にびっくりしてまた固まってそう言った。それに対して俺は、自分の正直な気持ちを言う。ん?なんか碧木こっち来てね?


「……ん!?」

「……」


 碧木が急にこっちに走ってきたと思ったら、俺のシャツの袖掴んだ。なになに、どうした。そんで俺の心臓よ、落ち着け。もう碧木の行動パターンには慣れたはずだぜ。


「すーたんのせいだ!」

「……えぇ!?」


 そう叫んだ後、碧木はほっぺを若干膨らませて恥ずかしそうにしていた。え、いや、まじで分かんねぇ!どうした碧木。


「いや〜いいなぁ。祭りか〜!」

「……は!?」


 急にもう1人の声が響き、リビングからひょこっと顔を出したのは、俺の父親だった。まじで、いつ帰ってきたんだよあんたは。

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