VTuberとして数千万稼ぐ陰キャ学生の俺が、最強ゲーマーとして名高い陽キャ美少女と同居を始めた話。

にいな

【season.1】

はじまりの御守り編

第1話 家電量販店の出会い

 今日の夕方は最悪の幕開けだった。


「……なんでこのタイミングに壊れるんだよ」


 自分が通う、桜川さくらかわ高校を代表する帰宅部として早々に帰宅した俺は、本日発売の新作ゲームをプレイしようとしていた。そんな中、長年愛用してきたコントローラーが遂におかしくなり、とうとう故障してしまったのだ。

 しかも、他のコントローラーは全て妹に貸しているので、手元に無いというおまけ付き。


(……ほんとに、タイミング悪すぎだろ)


 こうして俺は、新作ゲームからの誘惑と新しい相棒コントローラーを買いたいという欲望に負け、家電量販店へ向かっていた。


 ――まぁ、どうしてもコントローラーが欲しいのにはもう1つ訳があるのだが、それはまた後で話そう。


 それにしても、自転車を漕ぐだけで息切れするとは。中々深刻な運動不足に冷や汗をかきながら、ようやく目的地に辿り着いた。


「この後どうする〜?」

「ファミレス寄ってこーぜ!」

「めっちゃあり!」


 店内に入ると見覚えしか無い制服を着た、いかにも陽キャって感じの男女とすれ違う。


「てか見た!?碧木あおきのボブ!」

「え見た見た!可愛すぎるっしょあれは!」

「反則だよなぁ〜!」


 その後もゲームセンターの方角から歩いてくる、同じ学校の陽キャ達数組とすれ違った。


「……結構学生多いな」


 同じ場所に通っているというのに、まとうオーラの差が違いすぎる。ま、別に気にしてないけどさ。特別気にかけず、更に奥へと進んだ。


「……さてさて。お、結構いいやつじゃん」


 ゲーム機やゲームソフトがずらりと並ぶコーナーの最前列に、お試しプレイ用のゲームとコントローラーが置いてある。俺はそのコントローラーを手に取り、慣れた手つきで操作を始めた。


 プレイするのは、ゲーム界でトップクラスの人気を誇るオンラインバトルアクションゲーム・VICTORY ROAD、通称・ヴィクロ。今すぐにでも、このゲームをお試しゲームにチョイスした店員さんを褒め讃えたい。


「どうせ後でレート戦やるし、準備体操だな」


 ヴィクロはマルチプレイも可能だが、この場には俺しか居ない。当然、CPU対戦(1人プレイ)を選択する。何だろう、とっても悲しくなった。


「まず1匹……」


 プレイ開始後、次々と現れるCPUをノーミスで、順調に倒していく。

 それもそのはず、ヴィクロは発売初日から今日まで、研究を重ね徹底的にやりこんだ。その努力が徐々に結果に現れ、全国リーディングで第2位に付ける俺が、CPUごときに負けるはずがないのだ。

 そこまでして1位じゃないの?と思ったそこのあなた!はい、自分も同じ気持ちです。さすが俺、詰めが甘いぜ。


「あの〜」

「……うわミスった」

「君だよ君!」

「……まじ?それ跳ね返すのか」

「……」


 気のせいかな?慣れ親しんだゲームから聞き慣れない音というか、声が響くんだけども。まぁ、気にせずプレイを再開する。


「あのっ!ちょっといいですか!」


 やっぱり、気のせいじゃなかった。耳元で何故か聞き覚えのある声が響き、ゲームに熱中していた俺は慌てて横を向く。


「あの!君のプレイ見てて上手だなって思ったから、良ければ対戦してくれないかな?」


 視線を移すと、黒マスクを付け黒帽子を深く被った女の子が立っていた。顔はよく見えないが、肩上まで伸びた髪と雰囲気的に、男では無いだろうと判断した。


 てか、今この子なんて言った?


「……え、お、俺と?」

「そう!君と!」


 まじか。人から声を掛けられるという経験が無く、増してはこんな所で「他人からゲームを誘われる」という事は人生で1度もない。


「……ま、まぁ。……い、いいけど」


 陰キャ感溢れる甘噛みを連発しつつ、物好きな子も居るもんだなと思いながら了承した。


「私アリスでいい?」

「え?あ、……お、おっけ。なら俺はブラックメアで」


 キャラ選択で彼女が選んだのは、ヴィクロ内で最弱と言われているアリスだった。

 困惑したが、もちろん助言する勇気は無い。この際自分も普段使わないキャラを試してみる事にした。


 正直、実力差はこちらの方が上だろうし、丁度いい。


(余裕勝ちはなんか気まずくなりそうだし、5セットマッチにして3対2くらいで勝つようにしとこ)


 そのくらいの力のコントロールは出来る。


 ――はずだった。


「……!」


 試合開始後すぐに、その考えは打ち砕かれた。手加減する余裕を無くすくらい、俺は追い込まれていた。慣れないキャラを使ってるからとか関係無い。この子が上手すぎるのだ。


(……なんでアリスを使って、その動きが出来るんだよ!?)


 成功率が低いコンボ技も余裕で決めてくるし、攻撃と防御共に全くと言っていいほど隙が無い。


「あ、遠慮とか無くていいからね〜!」

「……あ、うん」


 残念ながら遠慮は一切してないし、彼女のプレイとスキルに圧倒され、実力の八割程度しか出せていない。兎に角、自分のプレイに全く集中出来ていないのだ。逆に悔しい。


「あ〜!まじかぁ」


(……あ、あっぶな)


 苦しい展開が続いたが、なんとか2対2で最終セットに持ち込んだ。


(……つか、この子絶対、全国リーディング入りしてるよな?)


 最終第5セットに入った時、ふと思った。100位以内、50位以内……いや、もっと上だろうな。10位以内も有り得る。ベスト8、4、――あるいは。


「……ちょっと待てよ?」


 思わず心の声が漏れるほど、気付いた事があった。全国リーディング入りをしている俺だが、それでも2位までだ。


 ――そう、上が居るのだ。


 少し思い出してみると、ヴィクロ発売後、少し時間が経った頃から今現在に至るまで、全国リーディング不動の1位に輝くプレイヤーが居る。プレイヤー名「_ZERO」だ。


 _ZEROとの直接対決は過去に1度しか無い。俺の記憶が正しければ、あの人が使っていたキャラはたしか……


「……アリス?」


「気付いた?」


 自分の呟きに続いた彼女の言葉に反応し、横を見る。一瞬のまばたきの後に見えたのは、マスクを取り意味深な笑みを浮かべる彼女と、画面内でHPが0になった自分の操作キャラ、ブラックメアの姿だった。

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