第2話 ゲーマーの本能

「……き、気付いたって言った?……き、君、ほんとにZE……」

「気付いたでしょ!?実は私めちゃくちゃ強いんだ〜!」

「……え?」


 彼女の話す勢いに、俺は完全に押されてしまった。


「絶対君『手加減しよ』とか思ってたでしょ!むふふ、私にはそんなもん必要ないのです!」


 凄いな。会話の主導権をあっさり握られてしまった。さすが俺、陰キャすぎるぜ。


 ――それにしても、彼女のプレイには驚かされた。


 一瞬の隙を突く研ぎ澄まされた攻撃の上手さに、お手本以上とも言える完璧な防御。どちらも極めるなんて至極の技だ。どう考えても普通のプレイヤーでは無い。これでも全国2位の俺が言っているんだ、間違いない。


 しかし、彼女の恐ろしいところはそれ以外の所にあった。


(……考えてみれば、フルセットになるように俺の動きまでコントロールしてたよな?)


 彼女の実力は相当なもの。3対1、もしくは3対0のストレート負けを喫してもおかしくなかった。

 振り返ってみれば、要所でわざと攻撃を外したり、こちらが攻撃しやすい体勢にわざとなっていたのだ。


(……完璧に操られていたんだ。俺が!)


 俺は、悔しいとか、彼女が恐ろしいという感情はもちろんある。もしかしたら、ほんとに彼女は_ZEROなのかもしれない。


 ――ただそれ以上に、久しぶりに倒してみたいと思える相手が出来たことに、心の底からゲーマーの血が湧いていた。


「あ、ごめん!そろそろ私帰らなきゃ!あと1戦したかったけど、今度出来るしいいか!」


 俺の静かな高揚をよそに、彼女はすたすたと帰っていた。あれ?今の流れはフレンドになってライバル宣言とかどうこうするもんじゃない?


「……まぁいっか、俺もちょっと時間やばいしな」


 ゲーム画面の右上部に小さく表示されている時刻を見て、急いで帰宅の準備をする。俺にも一応、家に居なければならない理由があるのだ。


(……てか、さっきあの子、また会えるからとかなんとか言ってなかったっけ?)


 彼女の最後に残した言葉に疑問を浮かべつつ、急いで店を出る。ちなみに、その間にも同じクラスの陽キャとすれ違ったが、誰にも気付かれなかった。流石俺、影が薄いぜ。


 ◇◆


「……ただいま」


 先程の戦いから数十分後、ようやく帰宅した。もちろん、自転車を漕いだことによって、確実に体力は削られている。


 そして、ただいまとは言うものの、今この家には誰も居ない。


 父親は国内外を飛び回っての仕事のため家にほぼ帰らず、母も珍しく県外への出張の為、明日まで不在だ。1つ歳下には双子の妹と弟も居るが、どちらも寮生活という事で家には帰ってこない。


 つまり、俺はぼっちという訳だ。


「……まぁ、それで困る事は無いしな」


 基本的に家事も出来るし、自由にこの家を使えるのは逆に利点だ。やる事を済ませ、時刻を確認すると部屋へ向かう。


 ――ここからは、俺の趣味というか、もう1つの仕事の始まりだ。


「……やっほ。お待たせしました〜」


 慣れた手つきでパソコンやらを立ち上げ、スピーカーやマイクをセットし話し始める。メインモニターとは別のサイドにある画面を見ながら、いつも通り配信をスタートさせた。


 ――そう。どれだけ自分が陰キャで、学校では空気以下の俺でも輝ける場所。……それが、このVTuberとしての配信だ。正確に言うと、ほぼゲーム実況だが。


 最初は配信アプリでなんとなく始めたゲーム実況が波に乗り、YouTubeに舞台を移しVTuberとして活動し始めた。


 知名度はそこそこながら、今現在登録者数100万人を超える個人VTuberとして、年に数千万稼ぐまでに成長したのだ。稼いだ金は基本、配信系の事につぎ込むか家族に納めている。


「今日もヴィクロです……おぉ、開幕スパチャナイス〜!」


 え?普段の生活よりこっちの方が喋れてるのなんでって?それはな諸君、俺にも分からんのだよ。

 つか、勘のいい人達ならもう気付いたと思うが、コントローラーが壊れて困ってたのはこの配信があるからだ。


「……お疲れ様でしたぁ〜いや、強かった君!」


 いつも通りヴィクロでのオンライン対戦を終え、一息つく。


 ――そんな中、俺はもちろん、チャット欄が騒然とする出来事は突然起こった。


【 _ZERO(¥10000)】「よければ、今度対戦しましょう!」


「……は!?_ZERO!?」


 思わず大声で叫んでしまい、画面越しのリスナー達に謝る。それほど、本物だったら衝撃的な人物がスパチャをしてきたのである。しかも赤スパ、太っ腹。


「……あぁ、もちろんしよう。てか、スパチャ感謝っす」


 リスナー達は偽物なんじゃないか?と疑問を浮かべているが、俺は本能で、この人が本物の_ZEROであることを感じ取った。全国リーディング1位のあいつだと。


 その瞬間、夕方に家電量販店で戦った少女の事が頭に過ぎる。


(……まさかね)


 その日は時間と相手の都合のため、1位と2位の直接対決は叶わなかった。もし実現していたら、ヴィクロ界隈は相当盛り上がっていただろう。


 ――しかし、個人的にそれ以上の事件が、翌日に起こることとなった。

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