第3話 お近づきの印
数千万稼ぐVTuberとはいえ、俺の本職は学生だ。当然、平日は高校に通っている。
「おはよー!」
「昨日のドラマ見た?」
「見た見た!主演のさ〜!」
クラスの陽キャ達が既に輪を作り、世間話に花を咲かせている。
「……」
俺はその輪に入る……なんて事は当然無く、黙って静かに自分の席に付くと、少し年季の入ったノートを広げペンを持った。うん、いつも通り。
ヴィクロの戦略を練ったり、配信の事についてメモったりするのが朝の日課だ。
暫くすると、俺の存在に気付き、何人かの男子生徒が集まっている所から、1人の男がこちらに向かって来た。
「うい!おはよ
「……ういっす。今日は早いな
「犬の散歩してきたからさ、早起きだった!」
こいつは、茶髪が良く似合うこの高身長イケメンは、俺の幼馴染である
あ、このイケメンが来たからどうでもいいと思うが、「二十日」というのは俺の名前だ。フルネームで言うと、
(……まじでこの人と俺が幼馴染で仲良いって、誰が信じるんだろうか)
心の中で苦笑いしながらそう思った。多分、俺が言っても信じないだろうな。そんな事言えるような友達も居ないけど。
「……お、うちの学校のアイドル登場だ」
少し話していると、礼紋はとある生徒の姿を見つけ、苦笑いを浮かべつつ前方の扉の方へ視線を移した。
「
「やっぱボブ可愛すぎる!」
「お、
教室に入った途端、クラスメイト達がすぐにその子の元へ集まった。俺が教室に入ってきた時の熱量とは大違いだ。当たり前か。
「やっほ〜みんな、照れるけど嬉しい!」
明るさ満開の声でそう答えた彼女は、うちのクラスの碧木 世麗。彼女もまた、陽キャの代表格とも言える人物だ。
その愛嬌と嫌味の無いフレンドリーな性格、なんと言っても、可愛すぎると話題のあの顔。160センチ前半の身長に抜群のスタイルを兼ね備え、校内1、いや日本1可愛い女子高生として有名だ。
部活のインタビューかなんかでテレビ番組に出た時、ネットが騒然としたらしい。
最近は、あの桜色の長髪をばっさり切ってボブになった事で、ちょっとした話題となっている。俺なんかが髪切っても気付きもされないのに。
――というか、それよりも俺はとある事が引っ掛かっていた。
「……なんか、聞いた事あるなあの声」
「何言ってんだ当然だろ。仮にも同じクラスだぞ?」
可笑しそうに笑いながらツッコミを入れる礼紋。いや、まぁそれはそうなんだけどさ。
どこか別の場所で聞いた事あるような彼女の声に、疑問を浮かべたが結局ピンと来なかった。
「出席確認するぞ〜。自分の席に座りな〜」
チャイムが鳴り、担任の松原先生が全体に声を掛ける。
「おっと、また後でな」
「……お、おう」
そのまま授業が進み、何事も無く1日が過ぎる。そう思っていた。
――だが、とある事件はその日の夕方に起きた。
「……あっつ」
俺は放課後、すぐに家には帰らず、昨日もお世話になった家電量販店に立ち寄った。
今日はあの女の子と対戦しに来た訳では無い。イヤホンの調子が悪かったから、どんなものがあるかちょっと見に来ただけだ。
(……まぁ別に壊れた訳じゃないし、また今度でいいや)
そう思い、何も購入せずにそのまま帰宅しようとした。
「もう帰るの?」
「うわぁぁぁ!?」
建物の影から急に声を掛けられ、多分今年1の声量で叫んだ。
「あはは、ごめんごめん。大丈夫?」
「……な、な、え?あ、碧木さん?」
聞き覚えのある声が響き、声の主の姿を見た時にはさすがに驚いた。我が
「もしかして池添くんかな〜?とか思ってさ、ちょっと待ってみたんだ!」
「……あ、そ、そうなんだ。……あはは」
俺を待ってた?なんで?いや、まじでなんで?てか、初めて話したわ君と。
「池添くん、帰り道どっち?」
「……え?あ、えと、あ、あっちだけど」
「一緒だね!」
「あ、うん?そ、そうなんだ……」
……なぜだ!?なんでこの人と帰り道一緒なんだよ。やばい、気まずい。かなり碧木のトークスキルに助けれてる。てか俺、さっきから噛みすぎだろ。
(……でも、なんか楽しいんだよなぁ)
不思議な感覚だった。久しぶりに礼紋以外の同級生と話したからか、なぜか楽しいと思えてしまった。まぁ、これも碧木の優しさなんだろうが。
(……女子と2人きり、しかも碧木ととか……ファンか誰かに暗殺されねぇか?俺)
俺にしてはどんどん話が続いていく珍しい状況になっていた中、我が家の目の前まで辿り着いた。てか、結局ほぼ最後まで帰り道一緒だったじゃねぇか。
「……れ、礼紋とはそれで仲良いんです……あ、俺家ここなんで」
「あ、そうなんだ!やっぱり池添くんの家だったんだ!私がお世話になる家って!」
「……それじゃ、ありがとうございまし……、え?」
碧木、今なんて言った?
「……お、お世話になるって?」
「あれ、聞いてないんだ?」
嫌な予感というか、まさかと思っていた事が頭を過ぎった。
「色々事情があって、池添くんのお家に住ませて頂くことになりました!碧木 世麗です」
天使のような愛嬌良い笑顔を見せた碧木。もちろん俺は混乱する一方だ。
――この子が?家に住む?そんな事親から聞いてないぞ!?
学校を代表する陰キャの俺の家に、学校を代表する陽キャ美少女が住むらしい。この話をするだけで、俺は学校で暗殺されそうだ。そもそも、冗談抜かすな陰キャ、キモい。とか言われて相手にされないか。あれ?俺の被害妄想酷くなってね?
「お近づきの印に!ちょっとしたお菓子と、欲しそうにしてたイヤホン!あ、イヤホン要らなかった?」
「……あ、ど、どうも。……ありがとう、ございます。……貰うよ」
こうして、碧木からちょっと高そうなスイーツセットと、さっき俺が物色していたイヤホンを受け取り、碧木との同居生活がドタバタと幕を開けた。ははは、今日の夜は母親に問い詰めないとなこれは。
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