第4話 名前の呼び方
「
「……だったら、それを早く言って欲しかったです」
俺はがっくり肩を落としてそう呟いた。ダメだ、今日もこの人のテンションに付いていけない。俺に陰の部分を全部投げ付けたんじゃないかってくらい、俺の母親は陽キャすぎるのだ。
ちなみに今は、あの後すぐに帰宅してきた母親と、俺と
「本当に、お世話になります!」
「いいのいいの、気にしないで!どうせこの家基本的には
「……あはは。そうですね」
色々と起こりすぎてもう思考回路がとんでもない事になっている俺は、適当に返事をする。まじで住むんだ、碧木。
好きとかそういう感情は無いけど、少なくとも可愛いとは思える同級生が俺の家に住むという事に、まじでびっくりだ。ラノベくらいだぞ、本当にそんな事になるのは。
「時間も時間だし、私買い物行ってくるね!家の案内は二十日!あんたに任命する!」
「へいへい」
そう言い残した母親は、颯爽と近所のスーパーへ旅立って行った。まじで台風みたいな人だな。
「面白いお母さんだね、二十日くんのお母さん」
「……あはは、逆に疲れるよ。毎日あれだし」
流石に碧木も苦笑いを浮かべているが、どこか愉しそうだ。てか、しれっと名前呼びになってるの凄い。陽キャ美少女凄い。
「……と、言うことで。ちょっと着いてきて貰える?家ん中、案内するからさ」
「おっけ〜!わーい、探検だ〜!」
その自然と溢れる笑顔やめてください。距離も相俟って可愛すぎます。
気を取り直して、碧木を連れて風呂とかトイレの場所とか色んな事を教えた。
因みに、家の中だと陰キャ特有の噛みまくりというデバフは解除されるため、スムーズに、そしてキモがられずに終えることが出来た。後者のキモいは思われたかもしれない。
(……一応、2階も行っとくか)
嫌な予感が心中に渦巻いてはいるが、これはもう仕方が無い。部屋を見られなきゃいい話だ。
こうして、俺の家探検隊(部員2人)は、遂に2階に繰り出した。
「……ここが、俺の部屋っす」
「ふむふむ……」
チラッと背後を見る。興味津々という表情で、特に何も無い俺の部屋の扉を見詰める碧木。あ、これはやっぱり。
「入っていい?」
ほら来た。
「絶対だめです」
もちろん俺も断る。きっぱりと。
パソコンとか配信機材とか見られたら、まじでやばい。身バレする。いつかはカミングアウトしようとは思うが、間違いなく今日じゃねぇ。
「あ〜!やっぱえっちなものある?」
「一切無いでございます」
噛んで逆に怪しまれそうな返事になってしまったが、まじでエロゲーとかエロ本とかは置いてない。礼紋が拾ってふざけて置いていったやつも、もう捨てたし。
「……とにかく、また今度見せるよ。碧木さんの部屋はこの隣らしいよ」
普段は使っていない俺の部屋の隣。ここに碧木は寝泊まりすることになる。
「碧木さんもこっちに荷物置いてゆっくり……」
「……世麗でいい!」
俺が言い終わる前に、碧木は珍しく声を大にして話し始めた。
「……え?」
「だから、名前の呼び方。同居するんだからさ、しかも隣の部屋だよ!?なのに碧木さんとか堅苦しいよ!だから世麗でいい!」
いや分からん。隣の部屋だから名前呼びでいいっていう原理が分からん。大体、今日初めて話し始めたのに名前呼びは早くないか?そうでも無い?ここはお言葉に甘えていいのか?
「……ほんとにいいの?」
「私が望んでるんだもん!いいよ」
腰に手を当て、何故か誇らしげに名前を呼ばれる瞬間を待っている碧木。やっぱり陽キャ女子には敵いそうにない。
「……よ、よろしく。……世麗」
「うん、よろしくお願いします!二十日!」
同居人となる彼女の顔全体に広がる華やかな笑顔は、陰キャの心をぶち抜くには十分すぎる威力だった。ぐはぁ。
「ただいま帰宅〜!今日の夕飯はちょっとだけ豪華だぞ〜!」
その余韻は、母親の帰宅の号令と共に消え去った。帰ってくるの早くねぇか?あの人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます