第5話 あの時の!

「……はぁ!?碧木あおきちゃんが二十日の家に住み始めた!?」


 電話越しの親友の声が、リビング全体に鳴り響いた。俺の背後では皿洗いをしていた母親が、いい声だと言い腹を抱えて笑っている。

 碧木の入浴中、これまでの色んな経緯を伝えるべく、幼馴染の礼紋れもんにテレビ電話で伝えたのだ。


「……二十日はつかそれ、俺じゃなきゃ誰も信じないぞ?」

「……ははは、自覚してる」


 そりゃそうだ。陰キャの俺の家に、陽キャの代表格であり美少女の碧木が住むなんて、普通はキモイ奴の妄想かラノベぐらいでしか実現しない。

 礼紋以外のクラスメイトに言ったら、「きっも」とか言われて苦笑いを浮かべるだろう。その後、当面の間無視される。あ、俺は自分に対しての評価は辛口だからね。


「誰〜?あ、斉藤さいとうくんだ!」


 突然、背後から母親とは違う声が聞こえた。


「……うお!?いつの間に」

「今来た!」


 変な声を出してしまったが、そこにはやはり風呂上がりの碧木が居た。


「……まじで居るじゃん!?やっほ〜碧木ちゃん。彗星すいせいがお世話になってます〜」

「あ、いえいえ!こちらこそ?」


 そうか、礼紋の彼女は碧木と仲良いんだっけ。

 それにしても碧木、顔が近い。君はテレビ電話の画面を見るためにソファの後ろから覗き込んでるけど、まじで顔が近くて心臓バックバクよ俺。


(……この人、まじで次元違うんじゃない?ってくらい顔整ってるし可愛いよなぁ)


 もう説明は要らないと思うが、碧木はまじで可愛いと思う。今もお風呂上がりだからか、頬が少し紅潮していているのも妙に色っぽい。

 Tシャツにハーフパンツというラフな格好も、普通はまず拝めないはず。これは同居人の特権だ。

 何度も言うけど、恋愛感情は無いが可愛いとは思えるくらいには、俺の心は色が残ってる。可愛い女の子は目の保養だと言うことも当然知っている。あとこの子、まじで肌が綺麗だ。


「おーい二十日。碧木ちゃんに見蕩れてんぞ〜」

「あ!二十日〜?どうした、そんなに私が可愛いか?」


 我に返ると、画面越しと真横からにやにやとした表情が輝いていた。おい、2人して同じ顔すな。


「……何でもね〜よ!」

「ま、仲良くすんだぞ〜?」

「了解!」


 敬礼のポーズをして礼紋に返事をする碧木。言動行動がいちいち可愛い。

 こうして、テレビ電話という名の報告会は終了した。


「ね、二十日?ちょっとさ、ゲームしない?」

「……え?ゲーム?」


 まじで電話が切れた瞬間に提案してきた碧木。最初はなんの事かと思ったけど、2階にドタバタと駆け上がって行ったから、テレビゲームしようって事でいいのか?一応、彼女が転ばないか階段を見ておく。


世麗せれいちゃんは世麗ちゃんで、また違った元気があるなぁ!」

「……なーに人の元気を分析してんだよ」


 なぜか感心しながら呟いていた母親につっこむ。いや、呟くの声量じゃなかったけどね。


「これ!私のマイコントロー……ラァ!?」

「……ちょ!?あぶなっ!?」



 ドサッ……!



 階段を降りてくる碧木が、最後の一段を盛大に踏み外し体勢を崩した。間一髪で俺が抱き留め、事なきを得る。俺が予想してた事が、綺麗に実際に起こったのだ。


 それよりも、


(……勢いで抱き留めたけど。む、胸めっちゃ当たってるって。まずいどうする!?)


 同級生の女子とハグという、俺の人生において初の試みに自分自身が一番困惑している。なぜか碧木は俺の胸元に顔を埋めたまんまだし。母親の顔は今は見えないが、どうせニヤニヤしてるだろうし。


「……わ、私に男子がハグなんてラッキーだよ?二十日!」

「……そりゃどうも。大丈夫?」

「……うん。ありがと」


 赤面を隠しきれずに話す碧木。だから、またそれも可愛いんだって。てのは置いといて、足とか怪我がないか確認し、ようやく俺の胸元から解放した。


「これ!ヴィクロやろうよ!私マイコントローラー持ってきた!」


 いや切り替え早。あんたさっきまで顔赤くしとったろ。


「……凄いね。まぁ、やろう」

「やったぁ!」


 にししと笑い誰より先にテレビの前に移動した碧木。セッティングを済ませ、寝る前のゲーム大会がスタートした。ちなみに今日は配信休みの日だから、大丈夫だ。


「……私アリス使っていい?」

「……え」

「ん?」


 彼女がとあるキャラを選択した事によって、忘れていた記憶と共に脳内がフル回転しているのが分かった。


「……あの時の子、世麗だったんかーい」


 ようやく、家電量販店で戦った少女の正体が分かったのである。声、髪、キャラ、全てが繋がった。


「……やっと気付いたか!」


 碧木も苦笑いを浮かべながら、そして次に微笑みながら対戦の準備をしていた。

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