第9話 全く同じ

「ほら!これ!」


 家庭科教室への移動中、ほんと目の前に財布を提示した碧木あおき。いや、そんなに近付けられると逆に見えないっす。ピントが合わない。


「……まじで一緒だね、たしかに」


 俺の財布についてる小さな勾玉まがたまと御守りと、碧木の財布についているものは全く同じだった。しかも、どちらも御守りの裏に、「2013」という数字が書かれている。


「……同じ祭りに居たとしか考えれないよね。世麗せれい、なんか記憶ある?」

「い、いや?……特には?無いことは無いけどみたいな?とにかく無い!」


 え?何今の言葉の濁し方、碧木にしては珍しいな。「無い」がめっちゃ多かったけど、とにかく無いんだね。となるとますます、全く同じ御守り達の謎と、俺らの昔出会ってるんじゃね?疑惑の謎は深まるばかりだ。


(……なんか知ってんのかな?)


 心の中で碧木の様子はちょっと気になったけど深追いはせず、言ったことを信じることにしよう。ちなみに俺は、正直ほぼ何も覚えてない。


「て、てか二十日はつか、髪切らないの?」


 話題が唐突に切り替わった。

 そして碧木は、遂に目まで覆うようになった俺の前髪を、覗き込むようにして見てきたのだ。だから、それ反則なんだって。顔近いし可愛すぎるのよ。


「暑いし邪魔じゃない?大丈夫?しかも、さっぱりしたら結構モテちゃうかもよ〜?」

「……え、あ、ちょっ!」


 俺の前髪は、不意に伸びてきた碧木の右手によってめくられた。

 この行動をしたのは、礼紋れもんぶり史上2人目だ。困ったもんだ。いや訂正、別に困りはしない。


 てか碧木、めくったまんま微動だにしなくなったんだけど。くぅ、そんなに俺の顔がキモかったか。許せ。


「……暑いけど面倒臭くてさ。別に誰も興味示さないからいいかなって」


 この状況を打開すべく、考えていた言い訳を伝えた。まぁ言い訳というかほぼ正しい答えだけどな。あそれと、誰も興味を示さないって事も正しい。なんだろう、涙込み上げてきそう。


「……あ、え、うん!そうなんだ!あ、家庭科始まるよ!?急ごう二十日!」


 やっと喋ったと思ったら、駆け足で家庭科室へ駆け込んだ碧木。やっぱり、ほんとに俺の顔がキモかったからかなと不安になったが、ほんとに時間がやばかったし、俺も急いで家庭科室内へ駆け込んだ。


 ◇◆


「どーした碧木ちゃん。顔赤ぇけど、なんかあった?」

「……へ?」


 礼紋の指摘によって碧木は、初めて自分の顔が赤い事に気が付いた。暑さも相俟あいまって分かりずらいが、彼女の頬は確かに紅潮している。


「その様子だと前髪めくったかなんかした?」

「……え、なんで分かったの!?」


 ピンポイントで的中してきた事に驚いた碧木。礼紋は当てて当然という様子で、にやりと表情を動かし話を続けた。


「……だって、二十日は」


 ――髪さえどうにかすりゃ、めちゃくちゃイケメンだもん。


 ◇◆


「……あ、あ、あららぎさん。こ、こ、これ見た事ある?」


 自分の噛みっぷりにびっくりしながら、隣の席の彗星すいせいに初めて声を掛ける。家庭科室では席が出席番号順だから、彗星と席が隣なのだ。


「んー?見た事ないな。世麗と同じやつじゃん」

「……や、やっぱりそうか。あ、ありがと」


 やっぱり俺は、礼紋と碧木以外だと、陰キャを存分に発揮出来るようだ。


「んで、美少女と同居してるらしいけどどーだい?」

「……え、あ、あぁ。何とか楽しめてるよ。あはは……」


 頬に手を当てながら話す彗星。話を展開する力が凄い。陽キャってみんなこうなの?


「ま、仲良くしてあげてね。世麗が男子にあんだけ心開いてるなんて珍しいからさ」

「あ、い、いえいえ。こちらこそ」


 多分「こちらこそ」を彗星に言ったところでなんだが、自然と出てしまったからもう仕方が無い。

 てか碧木、男子全員にあんな感じなのかなと思ってたけど違うのか?彗星の言葉的にそうなるよな。


 だとしたら、なんで俺なんかと仲良くしてくれるんだろうか。


(……同居してるからってのもあるか)


 ◇◆


「ま、まぁそれはそうなんだけどさ」


 礼紋の言葉に肯定はしつつ、碧木はちらっと別の場所を見る。視線の先には、やはり二十日が居た。


(……左目の、ほくろ)


 彼の目元は前髪で隠れてよく見えないが、ちらりと見え隠れしているほくろ。

 碧木はそれを、なぜか懐かしむような表情で見つめていた。

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