第34話 〇〇の行方

光穂みつほちゃんと二十日はつかが幼馴染とは思わなかった〜!」


 碧木あおきはかき氷片手に、幸せそうな表情でそう言った。安心して、こんな陰キャと人気女優が幼馴染だなんて誰も思ってない。なんなら、自分でも疑っちゃうもん。


「……てか、さっきから屋台見てるけど、買いたいのあったら遠慮しないでいいんだよ?」


 もうかき氷を買ってるのに言うのはあれだが、結構屋台を見て回っている割に、かき氷以外何も買ってない碧木。誘惑する食べ物なんて山ほどあるのに、珍しい。


「ん?あ、食べ物は後でちゃんと買うよ!その前にちょっと探してる店があってね〜!」

「……探してる店?」


 視線を左右に動かしながらそう言った碧木。なんだ?今日限定のグルメ屋台とかか?碧木と言えばそれくらいしか思いつかねぇ。


「違う違う!射的屋!昔ちょっとお世話になったの!」

「……へぇ、ん?射的?あれ、たしかになんか見覚えあるな」


 そう呟きながら、財布に付けてる例の御守りを見る。これってなんかのおまけで貰ったやつだけど、そういや射的屋だったような……?


「え!?なんか思い出した!?」


 食べ物を目の前にした時よりも凄い勢いで、こっちに顔を近づけそう叫んだ碧木。あれ?これはもしかして……


「俺らさ、射的屋で出会った感じ?」

「……!」


 すんごい表情になってる顔を手で覆った碧木を見れば分かる。正解だな、めちゃくちゃ分かりやすい。


(……ん?その射的屋を探してるってことは?)


 そうか、ここは多分俺たちが1番最初に会った場所なんだ多分。偶然にしては出来すぎだし、碧木はその事を知ってて俺に思い出して欲しくて連れてきたんだ。


「それくらいしか思い出せないけどごめんね?」

「いいのいいの!ちょっとだけでも思い出してくれれば!」


 残念ながらこれ以上思い出せないのは事実だし、俺から言えるのはこれくらいしかない。

 それにしても、なんで碧木は昔のことを思い出して欲しいんだろ。しかも、色々と知ってそうなのに直接は言ってこないし、それも気になる。


(……また今度色々調べないとな)


 ここで深追いするのはなんだし、今は素直に祭りを楽しもう。


 ◇◆


「あれって、碧木じゃね?……隣のやつ、誰?」

「え〜?え!?あれってさ、うちのクラスのい、池添くん?だっけ?じゃない!?」


 後方で二十日はつかと碧木が2人きりで歩いているのを発見したのは、同じクラスの同級生だ。


「……なんであの2人?」


 2人を見つけた男女は、不思議そうにその光景を眺めて考えていた。


 ◇◆


「はーくんさ、髪切らないの?」

「……え?」


 祭りの時間もあっという間に過ぎ、家に帰ってる途中に光穂からそう言われた。あれ?なんで君着いてきてるの?


「……いや、別に切らなくても誰も迷惑かけないからよくね?って思ってさ」

「あーでもたしかに、切ったらキュン死する女子居すぎて後の対応がはーくんじゃ無理かもね〜」


 そうは言っても、こんな陰キャに構うやつなんて居ないぞ。ちなみに碧木はというと、光穂の意見に無言で何度も頷いていた。なんだこれ。


「ねぇねぇ、もしよければさ、私の実験台になってくれない?」


 光穂の言葉は、俺と碧木の言葉を封じた。まじでそう言われても反応に困るんだが。何をする気だよ俺の体で。


「私の練習の成果を見てほしい!一応、美容師志望の現役学生だよ?」


 あぁ、そういやそうだった。光穂はアイドルしながら美容師関係の専門学校に通ってるんだ。


「失敗したらごめん!」


 こうして、こんな軽い感じに俺の前髪は最期を迎えることとなる。念の為に言うが、禿げてはないからな。それと光穂、出来れば失敗だけは避けてくれ。

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