第29話 思い出したこと

「1番になりたいって、ヴィクロのこと?」


 碧木あおきは不思議そうに、俺の顔を覗き込んでそう言った。


「……分からないけど、なんか『1番にならないと』って急に思ったというか、思い出した?っていうか」

「え!?なにか思い出したの!?」

「……い、いや?特には」


 また体と顔をぐいって近付ける碧木。なんか凄い食い付きだね。気のせい?

 まぁとにかく、何かを思い出したというよりかは、昔そんな事言ったような気がするくらいの感覚だ。それが脳みそに、なぜか強烈に響いただけだろう。理由は分からないけどね。


 ――ただ、


(……今、世麗せれいが笑って言った瞬間だったよな?)


 少し気になったのはそれだ。今俺は、碧木が「楽しみにしといて!」と言いい笑顔を見せた瞬間に、色んな事が脳内に入ってきた。


(……世麗が関わってるのか?)


 そう疑ったが、今の碧木とは同居人とはいえ本格的関わり始めたのは2〜3週間くらい前からだ。


 ……となると、やっぱ昔に1回会ってる説が真実味を持ち始めるよな。頭の中に響いた声の主が小さい頃の碧木だとしたら、全く同じ御守りを持ってるって事が証拠になるし。


「……なぁ世麗、俺と会った記憶ある?」

「え、え?いや、無いよ?」

「……だよね、俺の勘違いか」


 いや、違う。反応がいつもと微妙に違った。ちょっとだけ目が泳いでたような気もするし、やっぱり何か知ってるぞこの子は。


(……かと言って、無理やり聞き出すのもあれだしな、やっぱもう1回見ないとな)


「おーい、いつまで2人きりでイチャついてんだ。そろそろ帰るぞ〜」


 どうしたものかと考えてると、礼紋れもんが帰宅の知らせを届けに来てくれた。ちなみに、碧木は礼紋の言葉に敏感に反応して、凄い勢いで俺から離れた。めちゃくちゃ顔が赤い。


「……あ、そういや父さんに迎えの連絡してない」

「親父さんなら俺が呼んどいたぞ。どうせ二十日はつかは忘れると思って」

「……流石でございます」


 まじで礼紋っていう幼馴染、超優秀。てか、俺の父親の連絡先知ってたっけ?もう、ほぼ家族じゃん。


 ◇◆


「どうだった二十日!美少女とのデートは!」


 案の定、家に帰ってからは母親からの質問攻めが始まった。もちろん、楽しかったけども。


「美少女って言われるの恥ずかしいですよ〜!相花あいかさん!」


 俺の隣で恥ずかしそうにそう言ったのは、水着では無く私服に身を包んだ碧木だ。たしかに、毎回美少女って言われてるからな、恥ずかしさはあるよな。


「こら美少女。世麗ちゃんが困ってるでしょ〜?」

「え〜?言ってくれるじゃんマイダーリン」


 でたよこのバカップル。俺の両親はご覧の通り、めちゃくちゃ仲が良い。碧木と実の息子でもある俺が苦笑いを浮かべるほどに。

 なんなら、妹であるさきは寮で生活してるから、あの光景が無くなって寂しいって言ってた。妹よ、たまにならいいけど、毎日これだとほんとに疲れるよこっちが。相変わらず仲良いのはいい事なんだけども。


「え、待って。このハンバーグ美味しすぎる……!」

「でしょ?相花のハンバーグはほんとにギネス記録に載せていいくらいなんだよ!」


 碧木も相変わらず、めちゃくちゃ幸せそうにご飯を食べております。てか父親、美味しいのはほんとだけど、その場合どういう載せ方するんだギネスに。


 まぁ皆さんもうちの食卓が気になってるだろうから、飯テロも含めて紹介しようか。待て待て、皆さんって誰だ。


 まずは今日の主役、ハンバーグだ。焼いてる時から食欲を刺激する匂いを漂わせ、いざ口にするとその丁度いい食感と、溢れる肉汁が幸せを運ぶ。デミグラスソースと絶妙なハーモーニーを奏でており、何杯でもご飯が進む。

 後はバランスよくサラダ、味噌汁、更に今日は父親の好物であるオクラのポン酢和えもある。まじで豪華ですな。


「……ちょっと部屋で休憩したら、風呂入る」

「あ、じゃあ二十日が入った後私も入っていいですか?」

「いいよ!私達はここでゆっくりしとくから、自由にしな〜!」


 母親の言葉に頷いて、俺は部屋へ向かった。


 ◇◆


「で、どうだった世麗ちゃん!二十日といい感じなんだって!?礼紋から聞いたよ!」

「な!?ま、まぁ2人きりの時間が多かった……です」


 二十日の母親から問われた碧木は、恥ずかしそうに喜びながら、今日の出来事を全て話した。もちろん、途中で二十日が何かを思い出したことも伝えた。


「ほんとに!?」

「はい!なんか、『1番にならなきゃ』って言ってました」


 顔を見合わせてはてなを浮かべる二十日の両親。


「1番と言ったら、二十日は中学の頃は全部テスト2位だったよな」

「そうなんですか!?」


 二十日の父親が懐かしそうに言った言葉に、碧木は直ぐに反応した。手掛かりになりそうな事は全て記憶しておくという執念が垣間見える。


「誰だったっけな、菫ちゃん?だったかな、その子がずっと学年1位でね〜」

「あ、そうだったね!白崎 菫ちゃん!覚えてる覚えてる!いっつもまた負けたって言ってた!」


 二十日の母親も思い出し笑っていた。


(なら、すーたんに聞けばなんか分かるかな?)


 そう考えた碧木は、「ごちそうさまでした!」と幸せそうに伝えると、自分の部屋へ向かうために階段を駆け上がった。


 ◇◆


(⚠次回第30話は、碧木 世麗の視点で物語が進みます!)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る