第28話 思い出した?

「妹ちゃん!?二十日はつかの!?」

「やっぱりさきちゃんか、卒業式以来じゃん」


 碧木あおきのリアクションと共に、礼紋れもんが懐かしそうに俺の妹に声を掛けた。


「礼紋くん?久しぶり!」


 そうか、礼紋は幼馴染だから昔は仲良く遊んだりもしてたけど、俺らが高校に入ってからは会ったことないんだ。


「あ、もしかして!二十日の同居人って……」

「……!?」

「やっべ……」


 俺と礼紋は、妹が話そうとしている内容に、敏感に反応し即座に行動に移す。妹が言い切る前に俺は急いで口を塞ぎ、礼紋はわざとらしく咳払いで声をかき消した。


(……碧木が同居してるってことバレたらやばい!)


 そう焦りながら妹を少し離れた場所に連れて行く。てか、母親は誰が住んでるかは言ってなかったのか。


「あ、ここに居る女子陣は私と二十日が同居してること知ってるよ~!?」

「……え?」

「え?は!?」


 笑みを浮かべながら叫んだ碧木の言葉に、2種類の驚きの声が響いた。そうだったの?という表情を浮かべた俺と礼紋、そして、初耳の大岡おおおか達だ。


 ◇◆


 夕方になりかけ、プールサイドに座り足だけ浸かってゆっくりしているのは俺と碧木。他のみんなはどっか行ったし、2人きりだ。どうせ大岡あたりの策略だろうけども。


「めちゃくちゃリアクション良かったね」

「……そりゃ、びっくりするよ」


 いつも良いリアクションする碧木が言ってもなと思ったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 とにかく、大岡たちには全ての経緯を話し、妹にも同居人である碧木を紹介した。当然驚いてはいたが、すぐに事情を理解してくれたし大丈夫だろう。あんまり周りに言わないでねと、念押して言っといたし。


「なんかさ、今の私達の状態カップルみたいじゃない?」

「……そうだね。……ん?……え!?」


 碧木は言葉を聞いた俺の焦り具合を見て、腹を抱えて笑っていた。さては、俺の反応楽しむために言ったな?


「ね、二十日!折角だからさ!最高の夏休みにしてみない!?」


 急に気合いを入れ、顔を近付けてそう提案してきた碧木。あの、まじで色々と近いです。やっぱり効果抜群すぎて、ぐはぁ。


「……そうだね、とりあえずゲーム以外の楽しみが出来たことは成長かも」


 俺が今言った事が1番の収穫だろう。夏休みなんてゲームをする為の時間でしかなかったのに、今はこうやってみんなでプールに来てる。俺の心の何かが変わったんだろうな。


 ……きっかけは、もう言わないでも分かるか。


「ありがとね、世麗せれい

「ん~?うん!こちらこそだよ?」


 自然と出た声に微笑み言葉を返してくれた碧木。ほんとに、この人には感謝しかない。


「まだまだ思い出作るよ!これからも!」

「……うん、楽しみに……しと……く?」


 何気ない碧木の一言は、何故か俺の脳内に強烈に響いた。あれ?なんだっけ、前にも同じようなこと誰かが言ってたような。


「二十日?どしたの、大丈夫?」


 俺が急に黙り込んで何か考えてるから、碧木が心配そうに顔を覗き込んで来た。ごめんな、もうちょっとだけ考えさせて。


 ――昔の記憶が、失われてた記憶が、脳内に流れ込んで来るような感覚を覚えた。


「楽しみにしとく!」

「またここで……」

「俺が1番になったら……」


 誰かとの会話の記憶だった。


 ――あぁ、そっか。俺は、


「……1番に、1位にならないと」

「……へ?」

「……え?」


 俺のちょっとした呟きに、2種類のはてなの声が聞こえた。隣で聞いていた碧木と、自分の声だ。


 うん、自分でもなんでそう呟いたか分からない。



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