第15話 過去の記憶

「呼び出し方怖すぎじゃね?」


 昼休みの屋上に集まった3人。礼紋れもんが声を掛けたのは、彼女である彗星すいせいと、自分を呼び出した碧木あおきだ。

 礼紋のスマホの画面には、昨夜碧木から屋上に来るように言われたLINEが映し出されている。


「明日の昼休み!」

「すぐに屋上!」

「来て!」


 短くも強い言葉で指示された礼紋は、呼び出される理由が分からずとりあえず来てみのだ。

 ちなみに彗星からも一応、「一緒に屋上来てだって~」と連絡があった。


「んで、呼び出して何を話すってんだ?どうせ二十日はつかの事だろ?」

「え?あ、まぁそうだけどさ!」


 なんで分かったんだろうという気持ちを抑えて返事をする碧木。彼女は二十日の記憶喪失の事について切り出した。


「え?そーなん?」

「なるほどね。二十日が言うわけねーし、相花あいかちゃんから聞いたのか」


 彗星は表情こそ変えなかったが驚きながら、礼紋は冷静に状況を分析する。


「たしかに二十日は記憶喪失になった。詳しく話せるっちゃ話せるけど、多分昼休みの時間全部使うよ?」

「いいよ!だから今日早弁したもん!」


 俺は食ってないんだけど、と苦笑いを浮かべながら、礼紋は中学2年の夏の事を話し始めた。


「まず二十日は中学まで、硬式野球やってたんだけどさ」

「あ、だからか!抱きついた時、体しっかりしてるなって思ったんだよ」

「あんた、いつ抱きついたんだよ」

「……あ」


 思わず漏らしてしまった言葉を遮るように、彗星のツッコミが突き刺さった。碧木は口を覆い顔を赤くしている。


「ま、それはあとでじっくり聞くとして続き言うぞ」

「……じっくり聞かないで」


 にやりと表情見せる礼紋。


「まぁ二十日、とんでもなく上手くてさ。チームも強かったからまで行ったのよ」


 ――礼紋が話したのは、二十日の中学2年の夏。全国大会に出場した時の事だった。


 ◇◆


「最後は4番が決めた!神谷小町かみやこまちボーイズ、準決勝進出です!昨年準優勝の宇治里うじさとボーイズを、なんとコールドで下しました!」


 宇治里0ー11‪X‬神谷小町(4回コールド)


 同県の絶対王者・都島みやこじまボーイズを破り、ここまで番狂わせを起こし続けている神谷小町ボーイズ。

 勢いは夏の全国大会でも衰えず、その中心に居たのは、2年生ながら4番エースを務める池添いけぞえ 二十日だった。


「……すっげ」


 応援に駆け付けた幼馴染の礼紋も、二十日の姿を見て思わず声を漏らした。それほど、彼は初の全国の地で輝いていたのだ。


 チームも勢い付き、二十日を温存した次の準決勝でも春の全国大会王者を6対2で破り、初の全国で決勝へと進んだ。


 ――日本少年野球選手権大会 決勝。ここで事件が起こる。


「4番、ピッチャー、池添君」


 やはり決勝戦の先発は二十日だ。背番号1を付けた彼は、マウンドで試合直前の投球練習を行っていた。


 対するは連覇がかかる中京中央ちゅうきょうちゅうおうボーイズ。もちろん彼らも精鋭揃いだが、下克上を果たすだろうと、神谷小町ボーイズに期待する声も少なくなかった。


 1回は両チーム共に3者凡退。2回の表も二十日が完璧に抑え、裏の攻撃に入る。


「4番、池添くん」


 アナウンスによって名前が呼ばれ、バッターボックスに入る二十日。それと共に、大歓声が沸き起こった。


「まじでスターじゃん、二十日」


 観客席で見守る礼紋も、苦笑いしつつも幼馴染の躍動する姿を目に焼き付けている。


「ボール!」


 低めの変化球が外れ、1ボール。続く2球目は、143キロの真っ直ぐがアウトコースいっぱいに決まった。これで1ボール1ストライクだ。


「さぁ、3球目!」


 力強く伸びた直球。それと共に、何かが割れる音が球場内に響いた。


「……な!?」

「……おいおい!」


 観客達がどよめきと悲鳴をあげ騒然としている。


「……二十日?」


 礼紋が目にしたのは、割れたヘルメットを被ったまま頭から血を流し倒れている二十日の姿だった。

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