第16話 見知らぬ来客
「命に別状は無かったけど、記憶を失くした。時間が経つに連れてどんどん取り戻して、今はほぼ全部覚えてるのが不幸中の幸いってとこ」
「……じゃあやっぱり、私の事も覚えてないのかなぁ」
「そういや
「れーくん、それっぽい話聞いたこと無いの?」
「俺も思ったけど全く。つか、ほんとにすげぇ出会いしてんな」
「その部分記憶に残って無いんだ」と礼紋も苦笑いするほど、かなり思い出に残る出会いをしている二十日と碧木。そして、どうやら親友の礼紋でさえも、二十日からその様な事があった話は聞いていないようだ。
「その撮った写真は?見せればいいんじゃない?」
「それがね、いくら探しても無いらしいんだよね。さっきまであったからどっかのアルバムに挟まってるはずとは言ってたけど」
彗星の提案に対し、碧木は今朝、二十日の母からこっそり伝えられた事を言った。
彗星は少し残念がり、礼紋はというと、その言葉に眉をひそめ少し考えている。だが、何事も無かったように腕時計を見て2人に声を掛けた。
「そろそろ時間やばいね。戻ろーぜ、二十日も置いてきてるし」
「うん!また何かあったら連絡する!」
「あいよ」
こうして碧木と彗星は屋上を去り、礼紋はそれを見送った後少しだけ屋上に留まった。
「……二十日だな」
意味深に微笑み不在の人物の名をボソッと呟きながら、誰も居ないはずの階段へ続く扉の方を見る礼紋。彼も暫くして、午後の授業の準備の為に教室へと向かった。
◇◆
――放課後
「なんだなんだ、今日は俺でも勝てそうだぞ?」
「……あたりめーだ、いつもと戦い方変えてんだよ。それに、ギリギリまで追い込まれてからどうなるか確かめてんだ」
俺のベッドに座り、楽しそうにコントローラーでキャラを操作しているのは碧木……じゃなくて今日は礼紋だ。
男子バレー部がオフということで、数日後に迫る碧木との真剣勝負や練習に付き合って貰ってる。
「はぁ!?なんでそれ弾けるんだよ」
「……舐めんな。てか、礼紋まじで上手くなったな」
気持ち悪い程の防御力を見せつけて礼紋の技を弾くと、いい反応をしてくれる。これがまた面白い。
礼紋もヴィクロに関してはそこそこ上手い方だ。初見だとかなり苦戦すると思う。
「なんだその気配の消し方。どっから出てきた今!」
ふっふっふ、これこそ陰キャ特有の「超ぼっち☆存在感ナッシング戦法」だ!……ごめんだけど、泣いていいかな?
「しっかし碧木が『_ZERO』とはねぇ。ゲームとか興味無さそうに見えるけど」
「……それは俺も思ったよ。こんな可愛い子が日本1かよってね」
「二十日、しれっと人が嬉しくなるようこと言うの得意だよな」
なんだそれ。なんか褒めるようなこと言ったか?俺。
とにかく、いつものプレイスタイルにプラスアルファで、細かく修正し動きも増やしていく。
普通にやっても勝てないだろうし、辛うじて接戦になるだろうと予測してやっていく。まず圧勝は有り得ないし、実力の差は努力と戦略でカバーしていくしかない。
(……ほんと俺、たった1人の幼馴染に恵まれたよな)
つくづくそう思う。こんな陰キャの俺にここまでやってくれる奴なんて中々居ないし、練習相手をしてくれと頼んだ時も、まじで快く引き受けてくれた。本当に感謝しかないし、だからこそ碧木に、「_ZERO」に勝ちたいんだ。
「……つーか俺、なんでそんな世麗に勝ちたがるんだろ」
「なんだそれ。二十日がよく言ってる『ゲーマーの本能』ってやつじゃね?」
まぁ多分それだ。でも昔どっかで、1位を取ったらなんとかみたいな約束をしたような?たしかあれは……
――ピンポーン
「ん?17時半にピンポンって事は碧木ちゃんか」
「……母は今日は遅くなるって言ってたし、多分世麗部活早く終わったんだと思う。行ってくる」
碧木が居る女子バスケ部。今日はミーティングだけになったって言ってたし、多分早めに帰ってこれたんだろうな。
「……はーい、おつか……」
「え?」
おかえりを言いながら玄関のドアを開けた時、俺は言葉が詰まり体がガチっと固まった感覚を覚えた。そこに居たのは碧木では無く、同じ桜川高校の制服を着た女の子が立っていた。
「なんで?昨日の夜、世麗ちゃんが入っていった家に……」
やば、まじか。まさかの碧木が見られてたタイプか。てか、誰だこの子。まじで分からん。
でも多分、「なんで世麗ちゃんの家に居るのよこの陰キャ!変態!」とか言われるんだろうな。待て、想像で自分をここまで傷付けてどうする。
「どしたー?」
礼紋も階段を降りながら、声を掛けてきた。
「……なんで、二十日くんが居るの?」
遂に女の子が続きを言った。良かった、俺の想像よりはだいぶ優しいぞ。
――ん?ちょっと待てよ?
「……なんで、俺の名前知ってんの?」
突然家にやって来た見知らぬ女の子が、なんと自分の名前を知っていた。軽く事件だぞこれ。
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