第12話 2017(前編)
――2017年 夏祭り
「え、無い。……無い!?」
少女は背負っていたバッグに普段付いている、御守りが無いことに今気付いた。バッグを両手に持ち、全方向から見てみるがやはり無い。
「……なんで?」
焦りによって冷や汗を垂らしながら、とりあえず周囲を見回した。まだお祭りは始まったばかりであり、人は少ない。
「……あの子との約束が!」
失くした御守りは、数年前に少女がとある少年と共にゲットしたものだ。またいつか会うと言って既に4年が経過したが、少女は未だにその事を忘れず毎年祭りに訪れているが、未だにあの少年には会えていない。
再会した時には「合言葉」として、この御守りを見せるという約束がある。だからこそ、とても焦っているのだ。
「……探さなきゃ!」
両親と待ち合わせ場所を決めた後、少女は駆け出した。来た道を辿ってみたり、出店付近を見てみたが、やはり御守りは見つかることは無かった。
◇◆
「……」
人並み外れた場所、池の傍で少女は黙って座り込んでいる。池に浮かんでないかなと謎の期待をしていたが無かった。暗い表情を浮かべる少女は、御守りが無いことに相当ショックを受けているのだ。
「暗い顔してたから、一瞬誰かわからなかったぞ?」
突如背後から聞こえた声。少女はすぐに振り返った。
「久しぶりだね、射的ちゃん」
「……名前違うし、遅いよ!4年ぶりだよ!?……でも、やっと会えた!」
4年前より少し低くなった声と、目元のほくろ。そして変わらない雰囲気。間違いなく、射的屋で共闘した少年だった。
「……うお!?」
「何その反応〜!」
嬉しくなった少女は、涙目で少年に抱きついた。当然、少年は顔を赤くしながらその状況に恥ずかしがっているようだ。
「ごめんな。父さんに連れられて海外行ってたから、去年までは祭り行けなかった」
「なんだ、私嫌われたかと思った!」
少年が祭りに姿を現さなかった理由を聞き、少女は安堵の表情を浮かべた。彼女の言葉を、嫌うわけない!と、少年が苦笑いをしつつ否定する。
「御守り失くしたから、この世の終わりみたいな顔してたんだ」
「……え、なんで分かったの!?」
少女が少年をハグから解放し、驚いた様子で聞くと、彼は彼女が背負っていたバッグを指差した。
「そのバッグに付けてたの思い出してさ。財布とかに付けてた方がいいぞ?」
「たしかに!次はそうする!」
「じゃあ、その『次』を作りに行こうぜ」
少年は、「次」がイマイチピンと来ていない彼女の手を握り、屋台が並ぶ方へ向かって歩き出した。
「あのおっさんの所行くんだよ。リベンジだ」
「……あ!」
屋台の文字を見て、ようやく気付いた少女。「射的」と書かれた屋台には、4年前と同じ店主が居るのだ。
「お!お嬢ちゃんは毎年来てくれてるけど、君は久しぶりだなぁ。遂にリベンジに来たか!」
以前と変わらない元気な声と、にかっとした豪快な笑顔で迎えてくれた店主。その通り、4年越しのリベンジが行われようとしているのだ。
「君ら2人やったら、これを出さんとなぁ!」
「あ!あのぬいぐるみ!」
「……まじかよ」
店主のにやりとした表情と共に台に置かれたのは、4年前と同じ小熊のぬいぐるみだった。それをみた2人もまた、にやりと笑みを浮かべ射的銃を取った。
「4年前と同じ形で。覚えてる?」
「もちろん覚えてる!私はど真ん中!」
構え方から歴戦の強者感が漂っている2人。
「いつでもいい?掛け声いる?」
「いつでもいい。要らない」
簡潔に会話を済ませ、ぬいぐるみに標準を合わせた。少年の前回と違う所は、少女の方を一切見ていない事だ。彼女のタイミングを雰囲気と勘だけで掴み取り、射撃を行うつもりなのだ。
(……ちらって見た瞬間打ったから反応が遅れた。コンマ1秒でもズレたらだめ)
心の中で思い出すように振り返った少年は、短く息を吐き出す。何度も言っているから分かるとは思うが、これは射的だ。人を撃つ訳では無いからご安心を。
パァンッ!
2つの射撃音がぴたりと重なり響いた。
「あたったよ!?」
少女は4年前と変わらない喜び方で少年の方を見る。
「……うん。リベンジ成功だ」
だいぶ落ち着いた様子でぬいぐるみを見ていた少年も、少女の声に微笑み返す。
――それと同時に、揺れていた小熊のぬいぐるみは後ろへ倒れ込み、そのまま落下した。
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