第13話 2017(後編)

「おぉ!遂に撃ち落としたか!」

「や、や、やったぁ!」

「……!?」


 店主の豪快な笑い声と共に、少女は飛び跳ねるように喜びを爆発させた。ハイタッチしようと手を挙げた少年に、彼女は飛び込むように抱きついたのだ。


 もちろん、少年はまた混乱している。


「また照れてる~!」

「そりゃそーだろ!」


 ニヤニヤとそう言った少女に、照れながらツッコミを入れる少年。その様子を見て、周りの客たちも微笑んでいた。

 因みに、撃ち落としたぬいぐるみは2人共譲り合ったが、じゃんけんに勝った方が貰うという勝負で少女が勝利しぬいぐるみを手に入れた。


「なんだ、結局射的してたんだ」

「お、ここに居たか!」


 背後から少年少女の母親が同時に並んで現れ、2人は驚きと疑問の表情を浮かべた。

 そしてこの後、なんと2人の母親は同級生だった事が判明したのだ。


 ◇◆


 射的でリベンジを果たした後、2人は人混みを避けるように小さな広場に移動した。


「あ!いぇい!」

「……ん?」


 少年の母親がカメラを不意に向ける。気付いた少女がピースをし、少年は不思議そうに振り返った所でシャッター音が鳴り響いた。


「あはは!なにその顔!」

「仕方ないでしょ」


 2人で写真を確認し笑い合う。少し間が空いて、少女が1つ気になっていた事を少年に質問した。


「ね、4年前さ!なんで声掛けてくれたの?」

「あぁ、自分の理想通りに撃てるかなっていう検証しようたしたら、隣で今にも泣きそうな君が居たからほっとけなくて」


 空を見上げ思い出すように話す少年。ラムネ瓶片手に話を続けた。


「あと、最初に見た時こんなに可愛い子居るんだって思ってさ。そんな子に悲しい顔は似合わないからね」


 少年がごく普通に、自然に口にした言葉に、少女は頬を赤らめた。

 そして、しれっと呟いた彼の方を向き、俯き加減でこう言った。


「……わ、私もさ。君のことかっこいいなぁ……とか思ったり?したんだけど」


 自分の気持ちを素直に話すうちに恥ずかしくなった少女は、りんごのように真っ赤になった顔を隠すように、手でパタパタと仰いだ。


「ん?なんでそんな顔赤いの?」

「……!?……馬鹿。鈍感すぎるでしょ!」

「え、なになに!?」


 少女の声量は思ったより小さく、どうやら彼の耳に届いていないようだ。

 顔が真っ赤な少女の姿に不思議がる少年は、急にポカポカと殴られて驚いている。そしてまた、2人で笑い合った。


「……また、いつか会えるといいな」

「え、多分考え一緒かも。来年とかは会えなくていつかバッタリ会う気がする」

「え!?マジでその通りなんですけど!」


 なぜか一致した意見に笑いが止まらなくなった2人。こうして、笑いの絶えない時間はいよいよ終わりを迎えた。


「じゃ、またな」

「……」


 無言で突っ込むように抱きついた少女を、今回こそ動じずに受け止めた少年。


「……絶対、会えるよね?」

「当たり前。今日も4年前の有言実行出来ただろ?」


 微笑みながらそう答えた少年は、悲しそうに胸元に顔をうずめる少女の頭を撫でた。


 ちなみに、少女の母親がその瞬間を撮影していたが2人は気付いていない。


!」

「おう」


 満面の笑みを見せた少女と、少し顔を赤らめた少年。こうして、夏の短い物語は終わりを告げた。


 ◇◆


「まじで脈アリじゃないか!」

「脈アリかどうかは分からないですけど、結構仲良くはなってますね昔に」


 話し終えた彼女が、苦笑いしながらお茶を飲んだ。


二十日はつかがこの祭りのこと覚えてないの、ショック?」


 すると二十日の母が、核心に迫る質問を碧木あおきに投げ掛ける。


「ちょっとだけショックです。でも、これから上書き出来るくらい楽しめばいいです」


 少し考え、今の自分の正直な気持ちを話す碧木。すると二十日の母親は、少し悲しげに話し始めた。


「ごめんな世麗せれいちゃん。あの祭りの事を覚えてないのは、決して忘れたからじゃないと思うんだ。心の中、頭の片隅に絶対残ってるはず。これは世麗ちゃんに話すべきか迷ったんだけど……」


 真剣な表情に切り替わった二十日の母親を見て、碧木も背筋を伸ばす。


「実は二十日、数年前にんだ」

「……え?」


 告げられたその言葉に一瞬理解が追いつかなかった碧木。


 その事実を知らない彼女は言葉を失い、目の前に居る二十日の母親を見つめていた。

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