第17話 見知らぬ来客?

「あれ、すみれさんじゃん。何してんの?」


 俺が同じ制服を着た少女を目の前に固まっていると、背後から礼紋れもんが肩を組んで、その子の名前?を呼んだ。さすが陽キャ、顔みて直ぐに名前が出てくるのがすげぇわ。


「礼紋くんまで!?……ここ、世麗せれいちゃんの家じゃないの?」


 驚いた様子で礼紋の方を見る少女。たしかに、何も事情を知らない人は、碧木あおきが住んでる家に礼紋はともかく、陰キャが居るって時点で大混乱だよな。そうなると、混乱の9割は陰キャ代表格である俺が作ってるな。


 というか俺は、それよりも気になっている事がある。


「……この子、誰?」

「おいおい、一応中学から一緒だぞ?」


 礼紋にこっそり小声で聞くと、予想外の答えが帰ってきた。まさかの同じ神谷小町かみやこまち中学校出身。しかも1、3年の時は同じクラスらしい。


「……まじで覚えてねぇ」


 自分の記憶力に顔面蒼白になる。


「あ、やっぱり覚えてないんだ?一応中学の時は生徒会長だったんだけど」


 苦笑いしながらそう話す少女。ちょっと待て、いくら記憶を失ってたとしても、自分の母校の生徒会長忘れるか?


 ゲームや配信の知識を覚えるのに全振りしてたら、こうなるんだな。反省。


「2年A組の白崎しらさき 菫って言います!……中1以来だよ。二十日はつかくんに自己紹介するの」


 黒い髪をハーフアップにしている彼女の微笑みながらの自己紹介は、多分めちゃくちゃ可愛い。いや、多分じゃなくて可愛い確定。

 え?じゃあなんでそんなに平気そうかって?だって、某同居人の笑顔の破壊力が格上だからね。


「……白崎って、たしか去年の学年統一のテストで1位取った子?」

「え、それは覚えてるんだ〜!そうだよ、一応世麗ちゃんに勝った。今年はまた2位になったけどね」


 やっぱり。苗字を聞いた時にうっすら思い出したのがこれだ。国数英の3教科しか無いがレベルが高い学年統一テスト。年に3回行われるテストであり、1年の時の3学期に碧木が負けたって噂になってたはずだ。俺の記憶力ではこれくらいしか分からん。


「なんなら菫さん、全国模試も上位だからな」

「……まじかよ」


 とんでもない子が、碧木の家と勘違いして俺の家に来たって事だ。そうだ、その弁明をしなければならない。忘れてた。


「あれ?じゃん!」


 聞き慣れた声が白崎の背後から響く。声の主の姿を見て、少し安心した。


「あ、世麗ちゃん!」


 碧木が部活から帰ってきたのだ。まじでナイスタイミング。


 ◇◆


「なるほど、そんな事情があったんだ……!」

「知ってるのほんとに数人だからね〜!すーたんもしーっ!だよ?」


 碧木が経緯を説明し、白崎も納得した様子で声を漏らしている。因みに俺はその間、一言も喋れなかった。現実世界だと、こうも成長が無いものかね。


「良かった、世麗ちゃんがよからぬ事をされてるのかと思って安心した」

「大丈夫大丈夫!二十日にそんな勇気無い!」


 おい、間違っては無いけど。てか白崎も白崎でしょ、さらっととんでもないこと言うわねこの子。


(……てか、俺の家にこんなに人来るの初めてだな)


 世間話に花を咲かせている最中、ふとそう思った。以前なら絶対にありえないし、なんなら1人の方が楽くらいまで思ってた。

 だけど、今は違う。笑い合い、冗談交じりに話しているこの瞬間を、楽しいと思える自分にちょっと驚いていた。


「二十日?生きてる?」

「……え?あ、うん。結構生きた」

「……な、なにそれ!」


 俺の言葉から少し間を置いて、碧木が腹を抱えて笑い始めた。え?今のそんなに笑える言葉だったか?ちらっと白崎の方を見ると、こっちもくすくす笑ってる。分からん、この子達のツボが分からん。


「二十日、ほんとに面白すぎるって!」


 笑いの余韻を残しながら笑顔を向ける碧木。これだよこれ、破壊力抜群の笑顔とはこれの事だよ。


「……ほんと、可愛いなぁ」


 なんかまた変な間を置いて、礼紋がこちらをにやにやしながら見てきた。


「二十日さ、それ無意識で言ってんだったら大したもんだぞ」

「……は?どーゆー事だよ。何も言ってなくね?」


 礼紋の言葉が理解出来ずに隣を見ると、碧木が先程とは違い、表情を隠すように顔を背けている。


「……ん?どした、世麗」


 ちょっと気になって近付き表情を見ると、碧木はすっごい顔を赤くして無言のままもっと顔を背けた。え、俺まじでなんか言ったか!?


(「よからぬ事」って言われた反動が来たのかな?)


 考えれば考えるほど難しい。乙女心を察せるのはまだまだ先のようだ。

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