第23話 初めてなんだ

「おつかれ二十日はつか~!」

「……世麗せれいもおつかれさん」


 全国1位と2位の直接対決として注目を浴び、大盛り上がりとなったオフコラボ配信も、ようやく終わりを迎えた。


「……それにしても、大敗も大敗だな」


 今日の戦績は2対3、0対3、1対3の計3対9。3試合して0勝という結果に終わった。相手が相手だけど、まじで笑えねぇ。


「1試合目凄かったね~!1、2セット目犠牲にしてなきゃ私勝てなかったかもだし!ハジキも焦った!」


 やっぱり、最初の違和感はそれだったのか。碧木あおきは俺の立ち回りを探る為にじっくり時間を掛けてたんだ。まぁそれは、自分の実力に絶対的な自信を持ってないと出来ない芸当だよな。


「わわ!もうこんな時間!お腹空いた!」


 碧木の言葉通り、すっごいお腹空いた。多分母親も帰ってきて夕飯の支度してるだろうし、とりあえず1階に降りよう。てか、同居人とゲームして配信してご飯用意されてるとかなんて贅沢な暮らししてるんだ俺。


相花あいかさんおかえりなさい!」

「……おかえり」

「お〜!世麗ちゃん、それに二十日!ただいま!ご飯用意してるから食べちゃいな〜!」


 やっぱり帰ってきてた。今日はご飯と味噌汁と、それに刺身と小さな小鉢だ。綺麗に盛り付けられた刺身はほんと的確に食欲を刺激してくる。

 まじで、母親はなんで料理人にならなかったのか不思議なレベルだ。


「いっただっきま〜す!」

「……いただきます」


 目を輝かせて箸の先陣を切ったのは碧木だった。俺が座って、「いただきます」って言うまで待てたの偉いぞ。


「ん〜!やっぱり美味しすぎるって〜!」


 めちゃくちゃ幸福を表情と声に出しながら食べ進める碧木。これお世辞じゃなくて、ガチの素で出てるっぽいから凄いよな。母親もにこにこして対面に座ってるし、幸せの連鎖を見つけた気がした。


「んで、どうだった二十日?美少女とのファーストキスは」

「……んぐっ!?」


 あっぶな、お茶飲むタイミングでそれ聞くか普通。てか、


「……な、なんで知ってるんだよ」

「え?帰ってきて静かに扉開けたら『わぁお♡』だったから」


 なんだよ「わぁお♡」って。結構序盤に帰ってきてたんかい。そんで、見られたのとんでもなく恥ずいんだが。


「ごめんな〜世麗ちゃん、二十日がファーストキスで!」


 なんであんたが謝る。まぁでも、実際ほんとにごめんなさいだし、俺も全力で頭を下げたい。


「いえいえ!こちらこそごめんね?ファーストキス?奪っちゃって!」

「俺は全然大丈夫だよ。逆にありがと、ファーストキス奪ってくれて」


 また頬をほんのり赤く染めた碧木が、俺に対して謝ってきた。てか、俺の返事大丈夫だろうか。

 どちらかと言うとご褒美だから大丈夫なんて、口が裂けても言えない。


「……そっか、二十日……ファー……なんだ」


 碧木は顔を隠しながらぼそっと何かを呟いたけど、聞き取れなかったし、聞き返すのもあれだし辞めといた。


 とにかく、同居人とのオフコラボ配信はプチ事故を起こしながら終わりを迎えた。

 ちなみに、まだ心臓はバックバクだ。さすが陰キャ、耐性が無さすぎるぜ。


 ◇◆


 2人が同居している場所から、遠く離れたとある家。夜の始めの暗さとカーテンが閉まっているのも相俟って、薄暗くなった部屋をパソコンの灯りが照らしている。


「……ZERO、……牡丹ぼたん!」


 そう呟いたのは、ヘッドフォンを装着したこの部屋の主だ。その人物は立ち上がり、部屋を出て行く。

 残ったパソコンの画面には、ヴィクロのプロフィールが映され、「全国リーディング3位」という文字が浮かんでいた。


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