夏の花火編

第24話 夏休みの予定

「……プールに行く?俺も?」


 いくら礼紋れもんが言ったこととはいえ、耳を疑った。どうやら、クラス内の仲良い男子3、4人でプールに行くから、俺も連れて行こうってなったらしい。


 礼紋は別として、よくその考えに至ったな男達よ。


 礼紋と幼馴染であっても、公表はしていないが碧木あおきと同居を始めても、クラス内で俺の存在感や立ち位置が変わる訳では無い。陰キャは陰キャなのだ。だからこそびっくりした。


「……え、名前間違えたとかじゃなくて?誘うの別の人だったとか?」

「しっかり『 池添いけぞえ 二十日はつか』の名前が出たぞ。ま〜行くのは二十日次第だけどさ」


 礼紋にもう1回聞き返したけど、間違いは無さそうだ。まじで、なんで俺が誘われたんだ?


「あんま難しく考えんでもいいよ、単純に池添と話してみたいって思っただけだから。あと、普通に楽しそうだし」

「……!?」


 突然背後から声が聞こえ、びっくりしながら振り返る。声の主は、クラスメイトではあるが纏うオーラがまるで違う陽キャ男子の1人、大岡おおおか 彩御あざみだった。

 俺は意外と、クラスメイトの名前は結構把握している。陰キャだからって何もかも知らない訳じゃないぞ?


「……ほ、ほん、とに、い、行っていい、の?」

「おう!こっちから誘ってんだから、ダメな訳ないじゃん」


 人と喋る時に噛みまくるというデバフは、未だに持ってるようだ。碧木とか彗星すいせいの前だと大丈夫だから油断してたけど、まだまだ甘かった。

 誘いについては、礼紋が居るなら空気になることは無いし、大岡達もOKって言ってくれてるし、ちょっとだけ考えて行くことにした。


「正直、二十日断るって覚悟してたんだけど。珍しいな」

「うん、前は絶対断ってた。なんだろ、行くって自分から言えた事にびっくり。久しぶりに行ってみたいとか考えたわ」


「あの二十日が行ってみたい……か、しかもゲーム以外で。ほんとに、碧木ちゃんと同居してから変わったよな〜」

「……なんて?」


 なんか礼紋がボソボソ言ってる、しかも感慨深い表情で。なんか俺、聞き取れないこと多くね?聴力落ちた気がする。


 まぁとにかく、夏休みに入ってから初めてプールに行くことが決定した。これは俺の母親もびっくりだぞ多分。つか、俺が1番びっくり。


 ◇◆


「二十日〜? 花火ヶ丘はなびがおかの遊園地まで行くんだったら電車とバスどっちが良いかな?」


 その質問は、自宅にて俺がアイスを食べようとした時に碧木から聞かれた。そういやあったな、ちょっと遠いけど遊園地。


「……あそこはバス停が目の前にあるから、時間掛かるけどバスかな。電車だと駅からちょっと距離あるし」

「そうだようね、ありがとう〜!」

「……うん」


 てか、花火ヶ丘くらいなら俺の親が車で送れるはずだ。あ、でも母親は仕事か。行くの平日みたいだし。


「……あ、待って。それ行くってさ、8月に入ってから?」


 そういえば忘れてたけど、車で送れる人がもう1人居る。


「そうだけど、それがどうしたの?」

「……あ〜、だったら送っていけるよ。俺の親が」


 俺の言葉に、明らかにぱぁっと明るい表情を浮かべた碧木。


「え!?それめちゃくちゃありがたいんだけど、申し訳なくない?相花あいかさんに……」

「……あ〜、あの人じゃないよ」


 やっぱり碧木も、俺の母親が送ってくれるのかもって思ってるんだ。苦笑いしながらそれを否定する。


「え、でも他に誰が……」

「……父親」

「へ?」

「……俺の父親、7月31日の夜に帰ってくるから」

「えぇぇぇぇ!?」


 凄くいいリアクションをしてくれてありがとう。そうだよな、碧木は俺の父親に会ったこと無いんだ。そりゃびっくりするわ。


「お父様!?めっちゃ気になる!二十日に似てる!?」

「……ま、まぁまぁかな。似てるとこと似てないとこあるみたいな?」


 顔はそこまで似てない気がするけど、とりあえずそう答えた。そもそもこんな前髪をしてるのは、うちの家族の中で俺だけだからな。俺が髪切ったら似てるかもしれない。


「……てか、こんな暑い中遊園地行くなんて元気だね」

「ん?あぁ!実は遊園地で遊ぶんじゃなくて、隣にあるプールに行くんだ〜!」


 碧木の言葉と同時に、礼紋からメッセージが届いたという通知が鳴った。その内容を見た俺は、直ぐに碧木の方へ視線を戻した。


「……世麗、プール行くのって何日?」

「え?8月2日だよ!登校日の次の日!」


 まさか……と思ってたことが、直ぐに現実に変わった。


 俺はまた苦笑いしながら、スマホの画面を見せる。そこには、「花火ヶ丘ウォーターパーク、8月2日10時」と書かれていた。


「俺らもその日、花火ヶ丘のプール行くわ」

「えぇぇぇ!?てか、時間も一緒!?」


 またまたいいリアクション。まじか、そんな綺麗に日程と場所と時間が被ることあるんだな。

 こうして、普段は部屋にひきこもってる陰キャの俺が史上初めて、同居人と共にプールへ向かうことが決定した。もちろん、父親の送り迎えでだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る