第19話 対戦前日

 今日は日曜日。つまり、「_ZERO」こと碧木あおきとの対戦の前日を迎えているのだ。

 俺は1日中部屋に籠り、ヴィクロの猛練習を行っている。……訳では無く、明日の対戦相手に連れられ、普段の自分とは無縁な空間に来ていた。


「うー……、めっちゃ迷う。どれにしよっかな〜」


 メニュー表に載るスイーツ達を、目を輝かせ悩みの声を漏らす碧木。てか、それ言うの5回目だぞ。この子さっきから、ずっとメニュー表と睨めっこしてる。


 部活終わりの碧木からの連絡を受け向かったのは、お洒落な装飾を施され穏やかな雰囲気漂う小さなカフェだ。


 普段の休日はゲームか配信の二択、もっと言えば自分の部屋一択の俺にとっては、この店は異世界と変わり無かった。


(……まず、女子と2人きりってのがね)


 ちなみに、家でテレビを見ながらジュースを飲んでいる最中に「私とデートしてくれない?」というメッセージが届いた為、机がびちゃびちゃになる所だった。誘い方よ。


「よし決まり!注文完了!」


 注文用の端末を操作する碧木。どうやらようやく決まり注文が完了したようだ。


「そうだ二十日はつか、明日の準備出来てる?私に勝てそ?」


 唐突すぎじゃない?しかも、王者の風格漂う発言すぎるでしょ。


「……まぁまぁかな。逆にこっちから質問。5セット中、何対何でどっちが勝つと思う?本音で」


 言葉を濁しながら答え、逆に碧木の俺に対する実力の評価を聞いてみる。


「3対1で私が勝つかな」


 碧木は真っ直ぐこっちを見て、迷わずそう答えた。


「多分普通ならストレート勝ちで終わるけど、相手が相手だからね〜!3セット目粘られて落とすと思う!」


 今度はにやりと表情動かした碧木。ちゃんとした理由の中で俺の粘り強さが評価されているのは、素直に嬉しい。

 だけどやっぱり、フルセットになると言って欲しかった思いは強い。まだまだ非力だなと痛感していた。


「全国1位の実力は伊達じゃないぞ〜!まぁそれよりもまずは、楽しも!折角のオフコラボなんだから!」

「……そうだね。ちょっと戦い方も変えるから、面白いと思う。盛り上げよ、2人で」

「うん!」


 お互い健闘を祈り、明日に期待する事に。碧木も力強い笑みで応えてくれた。


 話しているうちに頼んだスイーツが届き、俺の前に1つ、碧木の前に3種類のスイーツが並んだ。


「てへぺろ」


 別に俺は何も言っていないが、碧木は頭に手を当て舌を出しそう言った。結局1つに絞れなかったのね。


 ◇◆


 初めての2人きりデート(仮)は、無事に俺の心を浄化させてくれた。あんな幸せそうにスイーツ食べる子居ないぞ。まじで可愛すぎるだろ。


「……いよいよ、明日の放課後か」


 対戦の前に普通に学校の授業を受けないといけないので、今日は早めに寝てコンディションを整えよう。


「疲れを取る」というのも対戦において重要だ。


 ちなみに、今日は碧木とお風呂場で遭遇したり、夜中に抱きつかれたいする事は無かった。

 今日は何もないのか?と母親に聞かれるくらいだった。いや、何を期待してるんだあの人は。


 ――「_ZERO」こと碧木とのオフコラボ対戦まで、あと1日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る