第39話 仮説

 四大将軍会議で勇者ポシェットの強制交友フレンドの話を聞いた時から疑問に思っていた事がある。


 それはポシェットが何故まだ魔王を倒せていないのか? だった。


 会議の時のレモンバーム将軍の話ではポシェットの異能が発現したのは二年前の近隣の町で殲滅訓練を行った時。そこから反転重力場アンチグラビディが展開されるまで約一年……しかも強制交友フレンドに掛かった者は脳の機能さえ完全に破壊されていなければ行動できるというオマケ付きだ。


 普通に手駒を増やしていけば数十万じゃ済まない程の膨大な量の強制交友フレンドがいるはずだ。それこそアトランティス大陸に存在する生物すべてが強制交友フレンドでもおかしくないほどに……

 だが実際にはそこまでの数はいない。


 考えられる可能性は二つ。

 一つ目はポシェットの強制交友フレンドにはキャパシティーがある可能性。

 そして二つ目はポシェットが積極的に強制交友フレンドを行っていない可能性……


 一つ目の仮説は馬鹿軍師二人が強制交友フレンドに堕ちた時にほぼ否定された。異能の発現から二年経った今でもその効力は健在であり数の上限キャパシティーは無いと推測できる。

 二つ目の仮説だがこれはポシェットの生い立ちを考えると寧ろ当然かもしれない。


 まずポシェットは、いやポシェットたちは通常の勇者とは異なる性質を持っている。それは先の戦いで見せつけられた異能の力という事ではなく「魔王軍に育てられた勇者」という性質だ。


 幼い時からエルグランディス計画のモルモットとして教育されて来た彼女たち。そのほとんどの時間をプラムジャム将軍と共にしてきて「魔王軍は悪」などと教わるはずがないのだ。つまり自分たちを襲って来る魔物ならいざ知らず、「仲間」と定義付けされた魔物たちを不要に強制交友フレンドに掛ける意味はないという事になる。


 では何故彼女たちは今、魔王軍に牙を向いているのか。


 それは大好きなプラムジャム将軍を苛める魔王様、という図式なのだろう。

 ポシェットたちにしてみれば慕っている担任を権力を笠に着ていびり倒す校長先生みたいなものか?


 二年前に起こったという事件でとち狂っている可能性も考えたがプラムジャム将軍への信頼感からその可能性は薄い。もしそうならば計画の加担者であるプラムジャム将軍もまたポシェットたちの敵意の対象になるはずだ。それに実際に話をしてみても割と普通の生意気な少女たちという印象だったしな。


 三つ子の魂百まで……まあ三歳は超えていたかもしれないが幼い時から十年に及ぶ教育はそう簡単にひっくり返るものではない。どちらにしても世界を守るために巨悪を倒す、といった大層な目的意識は持ち合わせていないはずだ。


(……だからこそ勝てる……)



 細心の注意を払いながらゲートで開いた穴まで到着した俺。

 随分遠くまで流されてしまっていたようで元の場所に戻って来るまで丸一日を要していた、


(見張りは……ここにもいない、か……ポンコツ将軍の言った通り基本的には反転重力場アンチグラビディを発生させている建物周辺で待機しているらしいな)


 だが、それでも唯一の逃げ道であるゲートの周りにすら人員を配置していないとは……ポンコツ将軍に対する信頼の盲目度合いが尋常じゃないな……


(まあ、俺はこんな危険な場所に長々と居るつもりはないんで。後は責任を持ってポシェットたちを処理してくださいよ……プラムジャム先生・・


 俺は一人ポシェットたちの元へ向かったプラムジャム将軍を尻目にメカチックシティから脱出するのだった。

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