第15話 四大将軍カオス会議
サンドイッチ作戦決行の為、ミックスベリー将軍に三日間にわたって本作戦における勇者討伐率向上の予測値、ビースト軍団被害の軽減値、費用対効果における利益率などを提示。それでも急な配属転換に難色を示す将軍。
結果的には配置転換に承諾した魔物には昇給と手厚い福利厚生、そして完全週休二日制を取り入れる事を提案し、ようやく許可が下りたのだった。
(どんなホワイト企業だよ……)
多少手間は取ったもののまず勇者撲滅の第一段階の下準備は完了した。後は結果を見ながら魔物の配置の微調整を行っていけばよい。上手く運用していけば今までの様に危険度の高い勇者が現れる事はなくなるだろう。
後は現存する勇者の始末をどうつけるか……だ。
危険度Bの勇者ファーウェル一行討伐も成功はしたが軍にかなりの被害を出している。それと同等以上の勇者が残り七名いる事を考えると、これはもうビースト軍団だけで対処するのは危険というものだ。
そういう意味でも今日行われる会議は重要な位置づけになる。
何故ならば今日の会議はいつもの様に阿呆と馬鹿を相手にする会議ではなく『四大将軍会議』と呼ばれる全将軍参加の統一会議だからだ。
「ピクルス様~」
いつものようにドスドスと音を立てて俺を呼ぶサイ君。
「各地域の将軍が到着いたしました。四大将軍会議に将軍以外が参加するなんて初めての事ですからね。我が軍の代表としてキチンと身なりを整えて、粗相のないようにお願いしますよ!」
ああでもない、こうでもないと俺の着る服を吟味するサイ君。カジュアルすぎる恰好は品位を問われるとの事で結局一張羅の黒タキシードに蝶ネクタイという夜の正礼装で出席する事となった。
四大将軍会議……
四半期に一度、各地域を統括する将軍が一堂に会して今後の勇者討伐の方向性や支配管轄を決める為に行われ魔王直下の四将軍が顔を合わせる唯一の会議でもある。また重要案件がある際には魔王も出席する事もある最重要会議……らしい。
場所は完全持ち回り制で今回の会議はビースト軍団の拠点たるこのミックスベリー城で行われる順番となっていた。通常は将軍四名でのみ意見が交わされる場となっているのだが勇者ファーウェル討伐の功績を認められてか今回俺はその会議への出席を許可されたのだった。
特にキツネは悔しがっていたが、俺自身これはまたとないチャンスだと思っていた。勇者完全撲滅はビースト軍団だけでは難しいと感じていた所だったからな。
将軍は地域ごとに振り分けられておりその軍にも特徴がある。
主にこの世界の大陸の東側を担当しているのが「ビースト軍団」を率いるミックスベリー将軍。
西側の大陸を担当しているのが『魔王空軍』を率いるアールグレイ将軍。
南側の大陸を担当しているのが『呪術軍』を率いるレモンバーム将軍。
そして北側の大陸を担当しているのが『機械兵団』を率いるプラムジャム将軍。
魔王軍の歴史は長く将軍職も代々その称号を受け継がれて来たものらしいのだが、現在の四将軍も当然確固たる実力あって現在の地位を築いたいずれ劣らぬ実力者だという話だ。
まあ、ウチの将軍がアレだからいずれ劣らぬといわれてもなぁ……。しかもこの話、ヤギ爺から聞いた話だし疑わしいものだ。
勇者の脅威を根絶する為にも四将軍があまり頼りにならないのも困る……が、実はその点はあまり心配していない。少なくとも危険度Aランクの勇者がいる地域を担当している将軍が一人以上はいるはずだ。対処が出来ている事を考えるとビースト軍団より長けた力を持つ軍があるという事だからな。
「ピクルスよ、考え事か?」
そんな事を考えていると、目の前にはもういつもの会議室の扉が迫っていた。
「いえ、ミックスベリー将軍。少し緊張しているだけです……」
と、心にもない事を言う。
「そうか。あまり気負うな。お前の戦略を聞きたいという将軍もいるのだ。我が軍だけではなく魔王軍全体の力になるよう皆に知恵を貸してやってくれ」
そう言ってミックスベリー将軍はニコッと笑うと会議室のドアを開ける。
会議室を開けるとそこには見慣れない顔が三人居た。
……魔物と……人間? が二人……?
「ベリーよ。そいつが噂の軍師かい?」
気取った仕草で言葉を投げかけて来る一人の将軍。
長い足と長い首。大きな体を前後にうねらせてこちらを見据えている。その巨体はビースト軍団に居てもおかしくない風貌……というか、ダチョウ?
「噂は聞いてるぜ。宜しくな軍師さん、俺は『魔王空軍』を束ねているアールグレイって者だ」
アールグレイと名乗るダチョウが手の代わりに首を伸ばして握手を求めてくる。
(……ダチョウ飛べねーだろ!!? なんで空軍束ねてんだよ!?)
「ピクルスよ、アールグレイは将軍の中でも気さくな奴なのだ。そう緊張するな」
(いや、緊張とかじゃなくて、えっ……この首を握ればいいの? なにこれ? 絞め殺せって事?)
恐る恐る首をギュッと握る。
「ぐえっ! 死ぬ~…… へへ、この人殺し……いや鳥殺しめ! 流石は勇者を倒しただけの事はあるな。クエックエックエッーー!!」
一人爆笑するアールグレイ将軍。
(わ……笑えねぇ……)
「相変わらずひょうきん者だな、アールグレイは」
その光景を見ながらミックスベリー将軍も微笑ましく笑う。
「うるさい。黙れ獣ども」
辛辣な言葉を飛んできた方向に目をやると、そこには人間……ではなくエルフ、とでも言うのだろうか。銀髪で耳の尖った幼い少女が座っていた。
「すまぬ、レモンバーム。呪術の邪魔をしたか?」
(……彼女がレモンバーム将軍? 初めて人型の魔物を見たな……ヤギ爺によるとこの子が魔王軍随一の魔法の使い手って話だけど)
「早く座れオタンチン共。会議の開始時刻はとっくに過ぎているぞ」
(言葉使い悪いなぁ……でも見た目は子供だけどしっかりしてそうだ)
ダチョウ将軍のガッカリ出落ち感があったせいか少し安心する俺。
「そうだな、遅れてすまん。ピクルスはプラムジャムの隣に座ってくれるか?」
「あ……はい。かしこまりました」
言われるがままミックスベリー将軍の指さす席に座る俺。
そして、俺の隣にいるこの男がプラムジャム将軍……か。
青い瞳に青い髪、そして青い鎧を身に纏った男がそこには居た。
(まるで人間にしか見えないな、魔族? なのか?)
他の将軍とは一線を画するその雰囲気に圧倒される。
(こいつは凄そうだな……)
「さて、それでは早速だが第三百六十回、四大将軍会議を行う!」
ミックスベリー将軍が会議開始の宣言を行う。どうやら持ち回りになった担当将軍が司会進行を行うのが通例らしい。
「それではまず危険度Aランクの勇者エルグランディスの対策案だが……」
ガタガタ……
会議の議題の発表と同時に隣から物音が聞こえる。隣を見るとプラムジャム将軍が小刻みに揺れていた。
(なんだ?)
ハァ……ハァ……と荒い息遣いも聞こえてくる。
「あの……大丈夫ですか? プラムジャム将軍。ご気分がすぐれないのですか?」
至って健康そうな青い髪の男に話しかける。すると男の椅子から声が漏れる。
「ダ、大丈夫ダ。軍師クン……チョット疲れただけダカラ」
機械音のような声が椅子から聞こえてくる。
いやコレ……椅子じゃ……ない!?
よく見るとブリキロボが四つん這いになって青い髪の男の椅子の代わりになっていた。
「ちょっ!? ちょっと!? な、なんか変なロボが紛れてるんですけどぉ!!?」
ビックリしてガタンッと席を離れる。
「ピクルス? 何を驚いておるのだ。先ほど話したプラムジャムではないか?」
「は?」
「クエックエックエッーー!! プラムよ。はしゃぐのは分かるが会議中は静かにしろよ!」
「黙れプラムジャム……ブリキの分際で会議の邪魔をするな……」
その言葉を受けて四つん這いの状態からブリキロボが言葉を発する。
「ヒ、ヒドイナ皆。ワタシがこうして危険度Aの勇者を抑えているというノニ」
ざわつく会議室。
え? このブリキロボが将軍? じゃあこの青い髪の男は?
状況が理解できない中、咳払いを一つ入れてミックスベリー将軍が会議を進める
「では、危険度Aランクの勇者エルグランディスの対策案についてだが、何か意見がある者は挙手願えるだろうか?」
スッ……と青い髪の男が手を挙げる。
「はい、では勇者エルグランディス」
「この度、北の大陸を魔物の支配から解放したわけですが、この調子で行けば近い内に貴方達全員の首を取る事も可能だと考えております。その際にはできれば抵抗せず運命と受け入れて成敗されてほしいと願っております」
言い終わると勇者エルグランディスはドスッとプラムジャムチェアーに腰を下ろす。
「……」
「……」
「……」
「……って!? 勇者が参加してるじゃねーか!!」
何普通に会議に参加してんだこいつは! そして何平然と会議に参加させてるんだお前等は!!
「軍師クン、考えがカタイナ。敵の意見程参考になるものはナイゾ。支配者を目指すなら多角的なメセンで物事を考えるベキダ」
(お前はすでにチェアーとして支配されてるじゃねーか!!)
「でも、今のは対策案じゃなくてただの宣戦布告よね。言葉が分からないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「アア……レモンバーム……あんまり煽らないデ。尻でグリグリされるカラ」
「クエックエックエッーー!! いい加減にしろよお前等! 四半期に一度の会議だ。真面目にやれ!」
ま、真面目にやるのはお前等全員だぁぁぁぁ!!
こうして四大将軍カオス会議は勇者も交えてスタートするのであった。
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