第26話 最強の刺客

 天に向け拳を突き立てるスクエアと地に伏すキュービック。

 彼らの知恵比べに興味はないが安定の馬鹿っぷりには一安心といった所だ。

(メカチックシティまではもうすぐだしそろそろ頃合いかな……)


「メカチックシティに着く前にお二人に話しておきたい事があるのですが」


 俺の言葉に反応し二軍師が同時に振り向く。


「……な、何かなピクルス……今はそっとしておいてくれないか。私は、私はもうおしまいだぁ……」


 ショック受けすぎだろ。


「ほほ、もしかしてわしの策を聞きたいのかのぉ? そうここは北の大地。そして勇者は寒さに弱い……後は、分かるな?」


 分からねーよ。いつまで言ってるんだこのヤギ爺は。

 いちいち二軍師に反応していられないのでいつもの様に無視して話を先に進める。


「二人ともよく聞いて下さい。プラムジャム将軍と行動を共にしている青髪。彼が誰だか知っていますか?」

「いや? あの青髪の人間だろう? ……船上でプラムジャム将軍に聞いても教えて貰えなかったな。ただの腕利きの舵取りではないのか?」

「ほほ、わしは保存食だと解釈していたが……違うのか?」


 ヤギのくせに食うつもりだったのか。その台詞はせめてキツネが言え。

 しかしプラムジャム将軍は今回の同行者である青髪の勇者エルグランディスの件、他言はしていないようだな。まあ一緒に船に乗るメンバーが勇者では騒ぎになってしまうのでと箝口令を敷いたのは俺だが。


「その青髪の人間がどうかしたのかのぉ?」

「えぇ。実は超重要軍事機密の為内密にしていただきたいのですが」


 ヒソヒソっと声を窄めて話す。


「ちょ、超重要軍事機密だとぉ!? な、なんだそれは?」

「もしや赤獅子のレオナルドが雌である事が漏れたのかのぉ?」


 超重要軍事機密だったんだそれ。内緒にする意味あんまりないぞ。


「ピクルス! は、早く教えろ。私の口は貝の殻のように固いぞぉ!」


 教えたら二秒で誰かに話しそうだなこのキツネは。


「……実はあの青髪の青年こそが北の地を統治するプラムジャム将軍なのです」

「なにぃ!?」

「な、なんとまあ……」


 当然嘘だ。


「や、やはりな……おかしいと思ったのだ。ブリキの玩具が将軍など……」


 珍しく気が合うなキツネ。それには異論ない。


「くそ……私は船上で何て無駄な時間を」

「プラムジャム将軍は機械将軍と聞いていたので勘違いしておったわい」

「ええ。パッと見は人にしか見えないのですが超古代文明が生み出したアンドロイド。それがプラムジャム将軍なのです」


 繰り返すが当然嘘だ。


「だ、だがこれは僥倖だ! 先ほどの私の案はプラムジャム将軍の耳には届いていない事になる。もう一度策を練り直して進言できるチャンスがあるという事だ!」


「オーイ、待たせたナ」


 丁度いいタイミングでプラムジャム将軍が勇者エルグランディスを連れて帰ってくる。


「この辺りヲ見回っテ来たのだガ、我ガ軍の兵が何故か見当たらないのダ。……ダガいつもは迎えガ居るんダ、本当ダ!」


 必死になって取り繕うプラムジャム将軍。そんな事はどうでもいいが確かに自軍の港に配備兵がいないのは妙だな。まあ今は打てる手だけ打っておくとしよう。

 俺は横目でチラチラと二軍師の方を見る。察したのかスクエアとキュービックはぐいぐいと俺の前に出てくる。


「ア……君タチもう具合はイイのかい?」

「気安く話しかけるな無礼者がぁ!」

「ヒッ!」


 キュービックが吠える。どうやらブリキに騙されていたと感じているらしい。


「船上ではご挨拶もできず申し訳ございません閣下。私ミックスベリー将軍の第一軍師キュービックでございます」

「ほほ、私めはミックスベリー将軍の第一軍師スクエア。以後お見知りおきを……」


 勇者エルグランディスの前で深々とお辞儀をする二人。

 その様子をジッと見ていたエルグランディスは両手を二人の前に差し出す。


「光栄でございます!」

「ほほ、気さくな将軍様じゃ」


 ガッチリと熱い握手を交わす二軍師と勇者エルグランディス。


「ア……」


 呆気に取られるプラムジャム将軍を横に勇者エルグランディスの両手を伝って青い光が二軍師を包み込む。


「あ? あれぇぇぇぇ??」

「な、なんじゃこれは??」


 光に包まれたまま電流を浴びたようにガクガクと震えだす二軍師。そして二人の目の色が徐々に青色に変わって行く。

(成程……目の色で強制交友フレンドに掛かっているかどうかは判断可能って事か)


「チョ、チョット軍師クン! 何澄ました顔してるンダ! お友達ガ強制交友フレンドに掛かっちゃってるヨ!」

「ああ、いいんですよ。これで」


 アールグレイ将軍は言っていた。

 強制交友フレンドの支配下に置かれた者は自分の頭で考え行動する。そして自分の意志で勇者ポシェット=エルグランディスの為に戦う、と。

 つまりこれでこの二人は勇者ポシェットの仲間として知恵を振り絞って行動するという事だ。


 味方にすると恐ろしいが敵にするとこんなにも頼もしい二人はそうそういない。

 もし勇者ポシェットが彼らの策に耳を貸せば自軍戦力の三分の一は勝手に潰れてくれるだろう。もしかしたら全滅まであるかもしれない。彼らが敵に回る事は百利あって一害無しだ。


 フシューーーー


 湯気のようなものが二軍師から立ち昇る。どうやら完了……か。

 二人はゆっくりと起き上がるとこちらを向いて話し出す。


「我が宿命の強敵ともピクルスよ」

「は?」

「私はこれからポシェットの為に貴様らを地獄に落とす策を練る。軍師としての格の違いを思い知らせてやるわ。だから、私に殺されるまで……死ぬんじゃないぞ」

「ほほ。ピクルスよ。はたしてお主はわしを超える事ができるかのぉ。準備が出来たら掛かって来るがよい、胸を貸してやろう。お前の成長楽しみにしておるぞ」

「はぁ?」

「メカチックシティにて待つ!」


 最後は声を揃えて走り去って行く二軍師。

 予想以上に操られてる感がなかったな……それにちょっと性格が良くなってるじゃねーか。


 予想通りだったのは勇者エルグランディスと違いプラムジャム将軍が近くに居ても勝手に走り去って行ったって事だな。

(頼んだぞ二人とも。いつものように壊滅的な策で仲間を困らせてやれ)

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