第25話 オペレーション「バニッシャーハンド」

 メカチックシティ付近の港に船を泊めてアトランティス大陸に上陸した俺たち。


 北の大地と言うのでどれほど極寒の地かと思えば少し涼しいくらいで寧ろ過ごしやすいくらいの気温だ。港は本当にただ船を泊めるだけの殺風景な場所で人の姿も魔物の姿も見当たらなかった。


「出迎えとかないんですね」

「アレ……おかしいナ。普段はこんな事無いんダ。本当ダ、本当に本当なのダ!」


 こんなはずではないと急に焦り出す。

 そう言われると嘘くさい。人望ないのかなこの将軍。


「出迎えとかないんですね」


 面白そうなのでもう一度復唱してみる。


「ソ、ソウダ! 予定よりも早く着いてしまっタから出迎えが間に合わなかッたのだダ! 

チョットそこら辺を見てくるカラ軍師クン達は待っていてくれたまエ」


 そう言って勇者エルグランディスを連れて一人先へ行くプラムジャム将軍。

(おいおい、大丈夫かよ。あんまり先に行くと危ないぞ~……ん? なんだあれ)


 プラムジャム将軍の進行方向に馬鹿でかい黒い球体が見えた。

 少し遠目なので球体という事が視認できるが近くに行くとただの黒い壁と勘違いしてしまいそうなその球体は微かに唸りをあげていた。

(あれが反転重力場アンチグラビディか……想像以上にでかいな)


 とても気軽に出たり入ったりできるような代物じゃなさそうだ。確かにあれならば複数の勇者を閉じ込めているというのも納得だな。


「ピクルス! 貴様ぁ!」


 後ろから馬鹿キツネの声がする。


「どうかしましたかな? キュービック殿」


 先ほどまで船酔いで青い顔をしていたのに今は真っ赤になって怒っている。


「何故先に行くのだ貴様ぁ! 見知らぬ土地で置いて行かれて、私が迷子になったらどう責任を取るつもりなのだぁ!」


 俺も知らない土地なんですけど。


「いえ、船に酔っていたようなので危険がないか先に周りを見ていただけですよ。まだ船室で寝ていても良かったのに」

「う、嘘をつくなぁ! どうせ抜け駆けしてプラムジャム将軍閣下に取り入ろうという魂胆だろうがそうはいかんぞ」

「本当だよキュービック殿。今回も本来であれば私一人で来ても良かった。だがキュービック殿とスクエア殿にわざわざ来ていただいたのは何故だと思いますか?」

「う……そ、それは……」

「貴方達の力を借りたいのです、いや今回の作戦には貴方達の力こそが必要なのですよ」


 ズガガーン! 

 と稲妻に打たれたような衝撃を受けた様子のキュービック。


「ピ、ピクルス……貴様と言う男は……」


 そして一呼吸置いた後そっと俺の肩に手をやる。


「貴様という男は私がいないと何もできないのだな! 本当に仕方のない奴だ! だが安心しろ、無知な貴様に変わって今回の勇者討伐の件、私の力で見事成し遂げて見せようぞ!!」


 本当にウザったい奴だ。海に捨てて来た方が良かったか?


「ほほ、ピクルスもまだまだ軍師として半人前、甘えたい盛りという事か。いいじゃろう久方ぶりにわしの知恵を貸してやることにしようかの」


 いつの間にかヤギ爺のスクエアも加わっている。長い事目を覚まさないので船室で天寿を全うしたかと思っていたが生きていたのか。


「時にピクルスよ、今回の勇者ポシェットの件。私も内容は概ね把握しているが何か策はあるのか?」


 得意げに聞いてくるキュービック。


「いや、まだ策と言う程の物では……」

「そうかそうか! 本当にどうしようもない奴だな貴様は!」


 そう言って嬉々としてウンウンと頷く。


「キュービック殿は何か策があるので?」


 どうせまた得意のオペレーション『毒沼』だろ。


「ふふ、すでに船上にてプラムジャム将軍へは進言済みなのだがな。今回の私が考えた究極の策、オペレーション『バニッシャーハンド』にて勇者どもは一網打尽だ!」


 おぉ……『毒沼』じゃないんだ。


「ちなみにどんな策なんじゃ?」


 コホンと一つ咳払いを入れて饒舌に喋り出すキュービック。


「勇者ポシェットの特異な力は『握手』によって発動すると聞いている。脅威なのはその『握手』によって軍の手駒が全て相手の手駒にすり替わってしまう事だ」


 なんだ? まともな事言ってるぞ? 少しはこいつも進歩してるのか?


「つまりこちらの軍の魔物の手首を全て切り落として特攻をかける! これぞ究極の策、オペレーション『バニッシャーハンド』だ!」


 こいつ怖ぇぇぇぇ!! 進歩どころか退化してやがった。いや、確かにその発想はなかった。なかったよ? でも勇者に行きつく前に出血多量で死ぬから。戦う前に全滅するから!


「ほほ。まだまだ青いなキュービック……」

「な、なんですと!? スクエア殿」


 ヤギ爺がジリッとキュービックに歩み寄る。


「今の策……大きな欠点があるぞ……」

「ば、馬鹿な……この策に穴などある訳が」


 ニヤッと笑いスクエアは呟く。


「手首を切り落としたら……痛い」


 ズガガーン! 

 と、またも稲妻に打たれたような衝撃を受けた様子のキュービック。


「わ、私としたことが……も、盲点だった」


 ガックリと肩を落とすキュービック。


 そういう問題じゃねーから。いやそういう問題だけど、そこには気づいてなかったんだ。

 勝ち誇り勝利の拳を振り上げるスクエア。

 迷軍師二人の知恵合戦は辛くもヤギ爺に軍配が上がったようだ。

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