第30話 勇者無双
広大な敷地面積を誇るメカチックシティ内は八つのブロックに分かれている。
ポシェットたちが拠点としている建物はDブロックと呼ばれる場所に位置しメカチックシティの中で最も超古代文明の名残が残る場所でありエルグランディス計画が実行されていた地区でもあった。
機械兵が観測されたのはそのすぐ横のCブロック。機械兵は隠れていた訳ではなく
その活動とは当然、勇者殲滅である。
「ワレワレノ目的ハ勇者エルグランディスノ掃討デアル」
「勇者エルグランディスハDブロックヲ拠点トシテイルトノ情報有」
「コレヨリ一斉攻撃ヲ開始スル」
ウィーンウィーンと機械音を鳴らしながら戦車のような形をした百体近い機械兵が規則正しい動きでホバーリングしながら路面を突き進む。
「目的地マデオヨソ十分……進行方向ニ異常無シ」
「コチラモ異常無シ……イヤ、前方ニ障害物ヲ……」
ドゴォォォォン!!!!
先頭を走っていた機械兵が粉々になって宙を舞う。
「何事ダ?」
ドゴォォォォン!!!!
ドゴォォォォン!!!!
隕石が衝突したような爆発音をあげて地面もろとも機械兵が吹っ飛んで行く。
「クレスタ~、だからやり過ぎだって! また使えない道が増えちゃうでしょ~」
「分かってるよ。これでも加減してるってのー」
機械兵の遥か前方、周りの景色が一望できるような高い建物の屋上で言い争うポシェットとクレスタ。横には大きなバケツが一つ、中身は手の平サイズの大量の石ころである。
「……何機か道を変えてこっちに向かってきてるの……」
「あっ、ほらーポシェットが隣で色々言うから敵がばらけちゃったじゃん」
「ひどっ!? 私のせい~!?」
「しょうがないなぁ」
クレスタは右手を目一杯広げて持てるだけの石ころを鷲掴みにする。
そして左手人差し指で前方に四角い窓のような形を縁取る。空中に描かれた四角形の外線の縁が白く光る。そしてその小窓のような四角形目がけて持っていた石ころをぶん投げる。
「
隕石と見間違うような速度の石の散弾銃が機械兵に襲い掛かる。
ドゴゴゴゴゴゴォォォォォォン!!!!!!
小規模なクレーターがあちらこちらに出来上がる。
「ちょ、ちょっとぉ~。駄目だってば~」
「敵も分散してるんだからしょうがないっての!」
「……相変わらず命中率悪すぎなの……」
「うっさい
再び大量の石ころを鷲掴む。
「数打ちゃ当たるだ!!」
ドゴゴゴゴゴゴォォォォォォン!!!!!!
目の前から建物という建物が消えて行き片っ端から瓦礫の山へと変貌していく。
「もう止めてクレスタ! Cブロックが壊滅しちゃうよぉ~」
「……町の被害を抑えようという気が微塵もないの……」
「もう! あるよっ! うるさいなー。本気でやったらこんなもんじゃないっての!」
「ああ、もう~」
その圧倒的な無双っぷりを少し後方から見ている軍師が二人。
「はは……圧倒的じゃないか我が軍は……」
「そうじゃのぉ……」
共に目を丸くして機械兵殲滅の様子を眺めていた。
「ところでスクエア殿、北の地にはこんな魔法もあるのですな」
「いや、わしも見た事ないのぉ。120の魔法は文献などで全て把握しておるはずじゃったが」
「はは、スクエア殿もお歳を召しておりますからな。物忘れも激しいのでしょう、最近夜は少し冷える。暖かくして寝床につく事をお勧めしますよ」
「ほほ、優しさが目に染みるのぉキュービック」
そんな時、一機の機械兵が石ころの流星群を辛くも突破する。そしてポシェット達に狙いを定めると備え付けられた旋回砲塔から火砲を打ち出す。
ヒューっと大型の火球がポシェット達がいる建物の屋上目がけて正確に飛んでくる。
「来たよー
「……お任せあれ、なの……」
「……
その様子を見ていた二軍師は「おおー」と感嘆の声を上げる。
「これも見た事がない魔法ですなぁ。スクエア殿はご存じで?」
「いや、わしも見た事ないのぉ」
「はは、スクエア殿もお歳を召しておりますからな。そういえば最近二人で飲みに行ってないですな。どうですか今晩あたり?」
「なんじゃ? 珍しいのぉ」
「実は城から上等な酒を持って来ておりましてな」
「ほほ、いいのぉ。久々に軍師談義に花を咲かせるとするかのぉ」
「北の大地に乾杯と洒落こみますか」
ワイワイと盛り上がる二軍師。
その様子を冷ややかな目で見る少女たち。
「……ところで勝手について来たあいつ等は何やってるの?」
「……雑談なの……」
「ポシェットー。あいつらに
「いや駄目だよ! 死んじゃうよ!? 別に私たちが迷惑してる訳でもないしいいんじゃないかな~?」
「居るだけで結構邪魔なんですけど」
「……それよりあまり時間がないの。先生来ちゃうの……」
「あ、そりゃまずいわ。とっとと終わらせちゃお!」
ドゴゴゴゴゴゴォォォォォォン!!!!!!
再び鳴り響く爆音。
荒野と化して行く景色。
二軍師が今夜の酒の肴を決めるよりも早く、ポシェット達は百近い機械兵を掃討してしまうのであった。
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