第31話 約束
軍師生活早八年。
様々な策をこの世に生み出し魔王軍稀代の軍師と呼ばれた私が今は立場を変えて勇者側に付く事になったのだから人生とは不思議な物だ。
私の脳みそは世界遺産級である為付いた側に必ず勝利をもたらしてしまう。本当に罪深き男だ。
感慨深げに一人頷く。
機械兵を掃討した後ポシェットたちと共にプラムジャム将軍の元へ向かう事となったキュービックたち。無機質な高層の建物が立ち並ぶ中、所々壊れたアスファルトの上を進む勇者の少女たちと二人の軍師。
「もうすぐだよ~」
相変わらず語尾が伸びた口調でポシェットが手招きをしている。先陣を切ってアスファルトの上をぴょんぴょんと跳ねるように歩く姿はやけに嬉しそうだ。
しかし戦地に赴くというのに少しはしゃぎ過ぎではないだろうか。今度女性としての品という物を教えてやらねばならんな。
……浮かれるポシェットとは反対に私の足取りは少し重い。結果的に恩義あるミックスベリー将軍と袂を別つ事となったからだ。
結局何故勇者側に立っているかは今も思い出せないが
暗くなっても仕方がない。兵法の心得として精神状態は大きく戦局を左右する。常にポジティブに心を落ち着けておくのも軍師の資質が問われる所……
そう! こんな時にはスキップだ!
「るんるん」
「きもっ! 何鼻歌交じりにスキップしてんの?」
「な、なんだと!? 貴様ぁ! 目上の者に対する言葉遣いを知らんのか!?」
「あーすいませんねー。思った事を口にしちゃうタイプなんで」
ぐぬぬ……ポシェットの友達だというこの帽子を被った女。名前はクレスタとか言ったか。
口の聞き方がなっとらん。彼女の今後の為にも教育が必要だな、よし!
「(スクエア殿、今度少女クレスタにきつーいお仕置きをしてやってください。目上の者に対する言葉遣いが乱暴すぎます。彼女このままでは不良娘になってしまいますぞ!)」
「何……? それはいかんのぉ。じゃが大丈夫かのぉ……さっきの高速で飛んでくる石とか投げつけられんかのぉ」
「(だ、大丈夫ですよ。彼女スクエア殿には気を許している様子ですし!)」
「ほほ、やっぱりそうかのぉ。どれ、それでは少し諭してやるかのぉ」
そう言ってスクエアは少し前を歩くクレスタに早足で追いつくとバンッと尻を叩く。
「こりゃクレスタよ! 甘えたい気持ちは分かるがもう少し言葉づか……イブハァ!!」
クレスタの上段回し蹴りに吹っ飛ばされ元の位置まで戻ってくるスクエア。
「ス、スクエア殿ぉ!!」
「ほほ……きょ、教育はいつも命懸け……」
そう言い残し気絶するスクエア。
あ、危なかった……今後も少女クレスタの教育はスクエア殿に任せる事としよう。
鼻血を出しながら幸せそうに気絶するスクエアをおんぶするキュービック。しかし細々とした体躯に似合わずズシリとした重みがある。
「い、意外に重いぞぉ!」
「……大変そうなの……」
一番後方をちょこちょこと歩いていた
「えーと、少女
そう言って必要以上に苦悶の表情を浮かべ何かを訴えかけるキュービック。
「……
「はは……だから必要ないと……だが、本当か!?」
すがる様な表情で問いかけるキュービック。
コクリと頷くと
「……
ふわりとスクエアの体が羽の様に軽くなる。
「おぉ!」
て、天使か!? 天使なのか君は!?
落ち着いた黒髪と巫女装束から漂う気品はただ者ではないと思っていたがこんな気配りができる子だったとは感激だ。
「少女
「……別になりなくないの……」
親指を立てて
「な、なんだこれはぁ!?」
離れて行ったのはキュービック自身であった。風に舞いひらひらと上空を揺れるキュービックとスクエア。
「な、なんだぁ!? 私まで軽くなっているぞぉ!? スクエア殿だけ、スクエア殿だけだ少女
「……そんな器用な事できないの……」
「じゃ、じゃあ降ろしてぇ! た、高い、高いからぁ!!」
キュービックの要望にお応えして左目を開ける
ヒュー……ドスンッ!!
「ぐはぁ!」
上空十メートル程の高さから落下するキュービック。丁度真上から落ちて来たスクエアの下敷きにもなりアスファルトが少し砕けるほどの威力で地面に叩きつけられる。
「……ヤギ軍師さんを庇ってるの……偉いの……」
「ふふ……当然だ……同志だからな……(偶然だが)」
そう言ってフラフラと立ち上がる。
「ちょっと!? 大丈夫キツネさん?」
前方からその様子を見ていたポシェットが駆け寄って来る。
「だ、大丈夫だポシェットよ……」
「ほ、ほんとかな~。少し休もうか?」
「ちょっとポシェットー。そんな暇ないってー」
くっ! この帽子女がぁ。実は全然大丈夫じゃないぞぉ! ……だが。
「さ、先を急ぐぞポシェットよ。我々は行かねばならんのだ」
強打した胸を押さえながらゆっくり歩き出す。
「キツネさん……」
「おぉ、張り切ってるねー」
「……なんだか凄いやる気なの……」
三人の方を見ながらニヤリと笑う。
「当然だ!
そう言って足取り軽くズンズンと一人歩き出す。
ちなみにその約束はつい昨日の話である。
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