第11話 強襲
カナン山の麓まで辿り着いた俺達は昨日の勢いそのままに魔物たちをなぎ倒して行く。まだ魔物の亡骸もそこらに転がっているため足場は良いとは言えないが、得意の炎熱魔法で亡骸ごと吹き飛ばす。
「
じっくり休んで回復した魔力を存分に使いながら山を駆け上る。
「ルナホープ、前に出過ぎだぞ。ジャックスの後ろから援護を頼む」
ファーウェルさんが陣形の指示を出す。俺は後方に下がりジャックスさんの大盾に身を隠す。
「絶好調じゃないかルナホープ! この調子で俺の前の魔物も焼き払ってくれよ!」
「でも、ジャックスさんここから魔法を放つとまたジャックスさんの頭が……」
「構わん! 撃てぇぇ!!」
「
必殺の
「よぉし! 視界が開けた。突き進むぞ!」
「ジャックスさん頭から火が……」
「おぉ!? これはいけない、スフィア頼んだ」
一人後方待機していたスフィアが魔物がいない事を確認し走り寄ってくる。
「もう、ジャックスさん、またですか。
「悪いなスフィア、さあ行くぞルナホープ!」
意気揚々とジャックスさんが前に出る。
「ジャックスさん……スフィアの
「なっ! ……いや、スフィアの回復能力はグングン伸びている。諦めるな!」
(諦めてくださいジャックスさん……この戦法は貴方のリスク高すぎますよ)
「
ファーウェルさん得意の高濃度に圧縮された雷撃の魔法が唸りをあげる。眼前の敵を焦がし尽くしたかと思うと次の瞬間には一足飛びで魔物の群れに飛び込む。そして流麗な剣技で次々と魔物を倒し自ら道を切り開いて行く。
(相変わらず凄いな。でも、この分なら本当に今日関所突破できるかも?)
確かな手ごたえを感じつつカナン山を登る。
――――「はぁ……はぁ……」
流石は多くの勇者が成し遂げる事が叶わなかった関所越え、という事か。今日だけで三百近い魔物は倒した。それでもまだ倒した魔物たちと同じくらいの数が関所までの道中にひしめいていた。
「これ以上は危険だな……」
「弱気になるなファーウェル。まだまだ行けるぜ!」
「いや、焦る必要はない。ジャックス、お前も右手が吹き飛んでいるじゃないか。それにルナホープとスフィアの魔力もそろそろ限界だ。今日は引こう」
「ちっ、仕方ねぇ。ルナホープ悪いけど俺の右手探してきてくれ。回収次第撤退だ!」
潮時か。だがファーウェルさんの言う通り無理する必要はない。かなり魔物の数も減らした、次で必ず関所は攻略できる。
(しかしジャックスさんも無茶するよな、アドレナリン出て痛くないって言ってたけど何度腕や足を切り落とされても懲りないんだから凄い精神力だよ……)
ジャックスさんの右手を探す為キョロキョロと魔物たちの残骸を見渡す。すると後方支援に回っていたスフィアが血だらけのジャックスハンドを持って駆け寄って来る。
「はい、ルナちゃん。探し物はコレでしょ?」
ジャックスハンドは切られて間もないせいか人差し指と薬指がまだピクピクと動いていた。
「う……スフィアよく平気で持てるなぁ」
「だって私たちを守ってくれてる手だもん、平気だよ」
「まあ、そうなんだけど。最近スフィアの回復力に頼って無茶しすぎだよジャックスさんは」
「でも私をそれだけ信頼してくれているって事だから、やっぱり嬉しい……かな」
笑顔で答えるスフィアに少し焦れた気持ちになる。
「……俺はあんまり回復してもらわないよな……スフィアに」
「ルナちゃんは私と同じで耐久力低いからね。ジャックスさんみたいに無茶はできないよ」
「どうせ貧弱だよ俺は」
嫉妬心からプイッと顔を背ける。
「ふふ。昔から変わらないなぁルナちゃんは、そういうとこ可愛いよね」
「……ほっとけ」
関所越えは次でできると思う。そしてミックスベリー将軍を倒すまでにはスフィアに一番信頼される男になってやる。
「さあ、グリエルタウンに戻るぞ。周りの魔物たちも今は襲って来れる距離にはいない。ルナホープ、疲れている所すまないが頼んだぞ」
ファーウェルさん達と合流した俺たちはいつものように手を取り合って円のように輪を作る。次来るときには必ず関所を超える。目前に迫っていた関所を見上げながら呪文を唱える
「
俺たちは球体の光に包まれ天高く舞い上がると矢のように空を駆けグリエルタウンへと戻るのであった。
「くそう。もう少しだったのにな……」
「ジャックス、高速移動中に喋るな。下を噛むぞ」
「でも、数も大分減らせましたし次でなんとかなりそうですね」
「あぁ。そうだな、皆の平和の為にも早く将軍の城まで辿り着かなくてはな……」
「そうですね……あ、見えてきましたよ、グリエルタウン」
「流石に
「魔法もそこまで万能ではないですよ……って……あれっ? あれなんですかね?」
スフィアが目配せでグリエルタウンの方向に視線を誘導する。確かにグリエルタウンの周りでなにやら黒い影がモソモソと動いている。なんだあれ?
「あ……」
「なにぃ!!」
その影の正体に気づき一瞬にして青ざめる俺たち。
黒い影の正体は……魔物。
しかも千を超えようかと言う大量の魔物であった。
「馬鹿な!? カナン山よりも遥かに魔物の数が多いぞ! まさかグリエルタウンが攻められているのか?」
「……いえ……どうやら違うみたいです」
ギャギャギャ……
プシュープシュー……
グゲゲゲ……
多種の魔物の不快な声と呼吸音が耳をつく。
やられた! 俺は唇を噛む。
(まさか狙っていたというのか!?)
「グリエルタウンは周りの環境から町としてほとんど機能はしていない、当然軍などの配備もない……町からの援軍は難しいな」
ファーウェルさんが静かに呟く。そして
「ルナホープ、スフィア。俺とジャックスで町までの道を開く、お前たちだけでも逃げろ」
「そんな!? ファーウェルさん! 俺たちも戦います!」
「そうですよ! 私たちは勇者様を……ファーウェルさんを守るためにいるんですよ!?」
「いいから言う事を聞け!!」
普段温厚なファーウェルさんの怒号が響く。
「いいか、二人とも。勇者は特別ではない、それに守られるのではなく守るために存在するのが勇者なんだ。頼むから生きてくれ」
「そうだぞ二人とも、たまには年長者に恰好をつけさせろ!」
「そんな嫌です。ファーウェルさん……ジャックスさん……」
スフィアが涙を堪えながら訴える。
「おっと、俺の右手は返してくれよ。魔物に投げつける武器くらいにはなるからな」
「ふっ……ジャックス。久しぶりに後先考えずに暴れるとするか」
「おうよファーウェル!」
ファーウェルさんとジャックスさんは二人で町への道を切り開くように魔物に突撃する。
「行けぇぇぇ!!!!」
ファーウェルさんの叫びとともの俺はソフィアの手を引きグリエルタウンへ向けて走り出す。
「そんな!? ルナちゃん!?」
「黙ってろ! ファーウェルさん達の気持ちを無駄にする気かぁ!!」
町はすぐそこだ、助ける! スフィアだけでも必ず助ける!
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