第41話 勇者達の鎮魂歌②
「ちくしょー! このままじゃ先生が! 何か方法はねーのかよ!」
「……! ポシェット。魔王が
「……無理だよ! 私だってそんな事ができるならとっくにやってるよ!
ショーグン……ショーグンが死んじゃう。私のせいで――――――――
……二年前、ショーグンの学級を卒業して、ワクワクしながら勇者特別カリキュラムに参加できるようになった私たち。
でもそこは思い描いていた場所とは全然違ってた。
何も話さず、誰も笑わず、ただ黙々と戦う方法だけを教えられる毎日。私たちと一緒の学級にいた顔なじみも自分の名前さえ覚えていなかった。
そして最終実地訓練……確か肌寒い雨の日だった。
私たちは時期的に勇者特別カリキュラムをほとんど受ける事無く訓練に参加する事になった。
そこで目にしたのは町の人たちを次々と殺して行くエルたち。
確かに悪い勇者を倒すために勇者の勉強をしていた私たち……だけど普通に暮らしてる人たちを、無抵抗の人たちを襲うなんて絶対におかしい!
必死に止めた。でも止まらなかった。
そして……町の人たちを守ろうとする私たちをエルたちは襲ってきた。敵……と思われたんだ。一緒に勉強して来たのに、友達もいたのに。
レベル30近いエルたちに抗う術はなかった。私の人生これで終わりか~って思った。
……でもそんな時ショーグンが
「ポシェットたちニ手を出すナァ!!」
助けに……来てくれた……
最初はエルたちを説得していた、でもそれでも止まらないエルたちをショーグンは……一人ずつ殺して行った。
泣きながら、謝りながら殺していったんだ。自分の教え子たちを……
降りしきる雨の中動かなくなったエルたち。その場に立ち尽くすショーグン。
私は近くで事切れた、昔友達だったエルの手をそっと握った。
最初は蘇生魔法が使えるようになったのかと思った……
私が手を握ったらエルは動いてくれた、喋ってくれた。無我夢中で皆の手を握ってまわった。起き上がった皆は一人としてニコリともしなかったけれど、それでもあの冷たい雨の中に放って置けなかった、エルたちもショーグンも。
皆が死んでいる事にはすぐ気付いた……でももう引き返せなかった。
そして私は雨の中笑ってショーグンに言ったんだ。
「えへへ~ショーグン。皆元気だよ!」
――――――――その時、ここまでプラムジャム将軍達に同行して来た青髪のエルグランディスが手に持ったトランプを捨てると、自分の顔に手をやって何かの呪文を詠唱しはじめた。
ドグチャ……
「え……?」
目の前で自らの頭を吹っ飛ばした青髪のエルグランディス。
いや、青髪のエルグランディスだけではなく同様に近くにいたエルグランディスが次々と自分の頭を呪文で吹っ飛ばし自害していく。
「な、なにしてんだよお前等!」
「……危ないから止めるの……」
止めに入るクレスタと
「私たちが生きている限りポシェットが幸せになれない。彼女が望むなら私たちのやる事は一つ」
そう言って躊躇う事もなく自分の首から上を爆発系の魔法で破壊する。
青く光った目玉がポシェットの前にポトリと落ちる
「いやぁぁぁぁ!! 嫌だぁ! やめてよ! 皆ぁ――!!」
確かに私には
「でもこんなの望んでたわけじゃないよ!!」
ガシッ……
エルグランディスたちの動きが一瞬止まる。
「やめておけ。そんな事をしたら……痛いぞ?」
「ほほ、これだから今時の若いもんはいかんわい」
振り向くとエルたちの手を握って自殺を阻止する二人の軍師さんの姿があった。
その二人に向かってエルたちは無機質に答える。
「邪魔をしないで頂きたい。私たちはポシェットの為に動く」
フウ、と溜息をつく二軍師さん。そして烈火のごとく怒りだした。
「
「ほほ、この老いぼれより先に逝く気か? 年長者を差し置いて無礼なことじゃ、順番は守らんとのぉ……わしの目の黒いうちは命を粗末には扱わせんぞい!」
目……あ……
ポシェットは二人の異変に気付く。
キツネさんもヤギさんも目の色が……青くない……
……じゃあ
「キツネさん……ヤギさん……どうして……」
「はははー何を言っているか分からんぞぉポシェット! 友達が困っていたら助けるのは当然だろうがぁ!」
「友達から始まる恋もある……わしはその可能性に賭けとるぞぉ!」
あ……
「さて、と。では行きますかなスクエア殿」
「そうじゃのぉキュービック」
二軍師さんはパンパンと腰を叩くとクレスタの方へ歩いて行く。
「あんた等……何を」
「クレスタよ、ちょっと
プラムジャム将軍が己の命をかけて収縮作業を行っている超重力場の柱を指差すスクエア。
「ちょ!? 体当たりする気!?」
「……駄目なの……二人とも死ぬの……お願いだからやめてほしいの……」
「はははー
「ほほ、そうじゃ、甘くみるでないぞ。わし等の頭は世界最高の文化遺産……あんな重力場なぞに負けはせんわい」
トントンと頭を指差す。
「いや!? あんた等、頭突きで行くつもり!?」
「当然じゃが?」
「……頭の使い方がおかしいの……」
「駄目だよ!!」
会話に割って入るポシェット。二人の軍師に駆け寄り両手で袖をギュッと掴む。
「……ふ、安心しろポシェットよ。私たちは死んで友達を悲しませるような事はせん」
「ほほ、そういう事じゃ……ブリキの玩具もちょちょいと助けてくるから心配するでない」
そう言ってポンッと両肩に手を乗せる二軍師。その場で泣き崩れるポシェット。
「さてと、じゃあお願いできるかのぉクレスタ」
「……あんた達って本当に変わってるよ。なんのメリットがあってこんな事するのさ。なんでか知らないけど、目……青くないじゃん。もう
クレスタは白い柱に向かって
「ほほ、野暮な事をいうのぉ」
そして二軍師さんは助走をつける為に四角い窓から距離を取りながら真面目な顔でこんな事を言うのだ……
「友達の笑顔は!」
「プライスレス!」
そして
「クレスタァ! わしは友達からでも構わん! 友達からでも発展する恋もあると信じていいよねぇぇ!!」
「うるさい……馬鹿ヤギ」
「はははー
「……望むところなの……」
最後に二軍師さんは私に向かって無言で親指をグっと立てる。
そして
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