第42話 エピローグ・ポシェット

 勇者ポシェットたちとのメカチックシティでの戦闘から二週間……

 俺は再びアトランティス大陸の地に降り立っていた。


「ピクルス様~。Hブロックも異常無しです」


 サイ君がブンブンと手を振りながら七つ目のブロックの「安全」を俺に報告する。


「よし、ではDブロックの点検作業に入れ。くれぐれも注意するのだぞ」

「はい。かしこまりました」


 そう言ってビースト軍を引き連れ瓦礫を進むサイ君。



 ――――結局あの日、俺がメカチックシティから離れて間もなく反転重力場アンチグラビディは異常運動を起こし縮小していった。

 周りの建物を飲み込みながらグングンその規模を小さくしていく反転重力場アンチグラビディの様子を俺はしっかりと確認した後で船を出した。


 ミックスベリー城に戻った俺はプラムジャム将軍の謀反を報告し、自らの策でプラムジャム将軍もろとも勇者ポシェットを完全に反転重力場アンチグラビディ内に封じ込める事に成功したと説明。

 報告を受けた時のミックスベリー将軍の沈痛な表情が印象的だったが、まあ本当の事だから仕方ない。ブリキ将軍の名誉の為に庇ってやる気もさらさらなかったしな。


 取りあえずその後のメカチックシティの状況確認は他の将軍の部隊に任せていたのだが、気になる一報、いや二報を受けた為こうして自分の目で現状を確かめるべくもう一度この地にやって来たのだ。




「おお……見事に何もないな……」


 サイ君からの異常無しの報告を受けた後、Dブロックに踏み入る俺。

 本来であればこのDブロックにある反転重力場アンチグラビディ発生場周辺に小規模となった重力場が存在しているはずだった。しかし見事に瓦礫の山だ、その惨状は他のブロックよりも更に酷い。


(まるで爆心地だな……)


 俺がミックスベリー城で受けた気になる報告の一つがこれ、反転重力場アンチグラビディの完全消滅という一報だ。完全に隔離した小規模重力場で飢え死にかそれでなくとも永久に閉じ込めておく予定だったのだが……


「ピクルス様! これを」


 そんな時、サイ君が何かを瓦礫の中から発見する。


「これは……」


 そこには青い鎧を纏った首から上がない男の死体が転がっていた。


(この鎧……うちに来たエルグランディスか……どうやら本当に報告通りなんだな)


 そう、もう一つの気になる報告というのは世界各地でポシェットの強制交友フレンドに掛かっていたと思われる者たちが一斉に自らの頭を吹き飛ばしたという報告だった。

 正確な日時までは分からないが報告書によると全く同じタイミングで魔物も、そしてエルグランディスたちも自害をしたようなのだ。


(理由は分からないが、吉報なのは確かだな……)


 ガラッ……


「!?」


 俺の背後で瓦礫が崩れる音がする。そして中から二つの影が飛び出してきた。


(しまった! まさかポシェットたちか!?)


「ピクルスぅ! 貴様ぁ、もっと早く助けに来んかぁ! 寒かった、寒かったぞぉ!」

「ほほ、魔物も寒さに弱い」


 ……なんだ、生きてたのかこいつ等。


「はははーただの瓦礫も考え方一つで寒さを凌ぎ居心地の良い家となる! これぞオペレーション『マイホーム』!」

「ほほ、わし等が気づいた時にはここら一帯すでに瓦礫の山でのぉ。どこに向かって帰ったらいいのか分からず困っておったのじゃ」


 随分と元気が良さそうだ。飢えて死ねば良かったのに。


「それで? ここは何処なのだ?」


 ん? なんだ覚えてないのか?


「そうじゃ、ここは何処なのじゃ? わしは誰なのじゃ?」


 ヤギに至っては記憶喪失じゃねーか!


「勇者ポシェットを倒しにアトランティス大陸まで来たのを覚えてますか? ここは勇者ポシェットが拠点としていた場所の残骸ですよ……」


 ポンッと手を叩くキュービック。


「はははーそうか! よく分からんが勇者を殲滅したのだな! そして私がここにいるという事はきっと私の知略による手柄に違いない!」

「ところでわしの角に突き刺さっとるこの帽子はなんじゃ?」


 ん? この帽子って……いやそれよりもこいつらの目……


 俺は死んだ魚のような目をした二人の軍師の顔を覗き込む。


(やっぱりだ……強制交友フレンドが解けてる)


 やはり反転重力場アンチグラビディの暴走でポシェットたちが死んだ……と見るのが濃厚か? いや仮に死んでいなかったとしても強制交友フレンドをもし意図的に解いたのであれば魔王軍への白旗と見ていい。


(頭が吹っ飛んだエルグランディスたちの件もあるし、どちらにしても危険はない、か)


 フウッと胸を撫で下ろす俺。


「……もうここに用はないから帰りますよ。軍師キュービック、軍師スクエア」


 そう言ってクルリともと来た道を引き返す。


「はははー私は猛烈にホームシックだぞぉ!」

「スクエア……まさかそれがわしの名前か!?」


(め、面倒くせぇ……)


 ガヤガヤとやり取りする三軍師

 

――――その様子を遥か遠くの山中から観察している四人の影。


「……キツネさんもヤギさんも無事帰れそうで良かったの……」

「あの二人ならその気になれば泳いででも帰ったんじゃない?」

「えへへ~これで心配事は無くなったね」


「サア、そろそロ行こうカ」


「えーまだいいじゃん。先生のケチ」

「……心が狭いの、嫉妬してるの……」

「ち、違うゾ! 望遠機能もバッテリー消費ガ激しいんダ! なのニお前達トきたら二週間も連続使用させテ! 頼むカラあんまリ酷使しないデ!」

「まーいいかー。別の大陸にもまだ無事なエルたちがいるはずだしね」

「……世界を巡る大冒険なの……」

「そうだね。ちゃんと本当の友達になって皆を解放してあげないと」


 青い目の少女がブリキのロボに手を差し出す。


「行こう! ショーグン!」


 ブリキのロボが少女の手を取ると溢れんばかりの笑顔で駆けだす。


「あーやっぱりヒイキだ」

「……巫女姫みこひめは嫉妬しているの……」

「い、いヤ。だかラ違うっテ!」

「じゃー複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンやってよ」

「……是非見たいの……」

「あ~いいね~! ショーグンお願い!」

「だかラ複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンはヤメテェェ!」



……fin

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