第37話 核

「で? なんで私たちを無視して勝手に貯水場ダム破壊したわけ?」


 水雷の道大作戦によってプラムジャム将軍を見失ったポシェット一行はメカチックシティDブロックに位置する拠点の建物まで戻って来ていた。


 ったく、この馬鹿たちのせいで完全にあのネズミを取り逃しちゃったじゃないか! カラクリ兵も痛んで動けないし、先生の行方も分からなくなっちゃったし最悪っ!


「なんで? と言われても。見事ピクルスたちを撃退したではないか。8はち


 すっ呆けた表情でカードを切るキュービック。


「そうじゃのぉ。何が不満なのじゃクレスタ? 9きゅー、3枚」


 こいつ等、反省とかしてないのかな……どう考えてもしてないよなぁ……


「……それダウトなの……」

「やりおるのぉ、巫女姫みこひめ

「……クレスタが言いたいのはそういう事ではないとおもうの……10じゅう……」

「…ジャック

「はは、驚かせてしまったという事かな。名軍師たるもの一度棄却された策でも改良を加えて非の打ちどころのない策へと昇華させる事ができるものなのだ。クイーン

「ほほ、キュービック再生工場とは良く言ったものじゃの。まあ今回はわしも少しばかり知恵を貸したがのぉ。キング、4枚」

「……それダウトなの……」

「やりおるのぉ。巫女姫みこひめ、お主その洞察力軍師の資質があるやもしれんぞ」

「……三順目だから普通に分かると思うの……」

「取りあえずあんた達ダウトをやめーい!!」


 クレスタの怒声が響く。


 まったくもう! なんでダウトに興じてんのよ。大体ポシェットも巫女姫みこひめも一緒になって……って……

 一人浮かない表情でトランプを見つめるポシェットに気づくクレスタ。


「……ポシェット?」

「はは、ポシェットよ。手札によいカードがないのが丸分かりだぞ。もう少しポーカーフェイスというものをだな」

「黙ってろキツネ!」


 キュービックをひと睨みした後視線をポシェットに戻す。


「大丈夫? ポシェット?」

「あ、うん……大丈夫だよクレスタ」

「先生なら心配ないよ。あのくらいで死んじゃうような先生じゃないことくらいポシェットが一番良く分かってるでしょ?」

「うん、それもそうなんだけどね。あのネズミさんが言ってたことが本当ならショーグンはやっぱり戦って欲しくないんだね私たちに……」


 そう言って小さくうずくまる。

 ポシェットはたまにこうして思いつめた表情をする。……自分の罪に殺されてしまいそうな儚い表情……


二年前のあの日。

 勇者になる為の最終実地訓練という名目で近隣の町に派遣された私たち。もう思い出したくもないけれど、そこで私と巫女姫みこひめ、そして最も幼かったポシェットは学友の死体の山の中で能力に覚醒した。

 学友といっても年齢も時期もほとんど被ってないエル達が多かったし、性格も一緒に勉強していた時のそれとはまるで違っていたけれど、それでも人道に反して強制交友フレンドで屍を動かしたポシェットの心は多分あの時に一度壊れた。


 そのポシェットが今でも明るく笑って生きて来られたのは間違いなく先生のお蔭だ。

 ううん、ポシェットだけじゃないか。私たちも助けられて、そして今でも守られている。


 ポンッとポシェットの頭に手を乗せるクレスタ。

 

「ポシェット、ここで待とうよ。先生はきっとすぐに来るよ」


 そう先生は絶対にここに来るんだ。

 この建物の一階から屋上まで支柱として突き刺さっている白い柱。その白柱に埋め込んである黒い球体は、反転重力場アンチグラビディの発生場でもあり先生の命とも言える核なんだから。



 ――スリープモード解除――


「……あア、よく寝タ」


 薄暗い倉庫のような建物の中でプラムジャム将軍は目を覚まし辺りをきょろきょろと見渡す。


「ウン? ココは何処ダ? 確かクレスタが空を飛んデ……エート、それカら……」


 ウーン……スリープモードが長かったセイか思い出せないナ。


「マア良いカ」

「良くねーよ」


 ン? 暗がりカラ聞き覚えのある声ガ……


「……オォ軍師クン! オハヨウ!」


 ガシッ!

 右手で顔面を鷲掴みにされるプラムジャム将軍。


「い、痛い痛イ! 何をするんだ軍師クン!」

「いいから黙って聞けやこのブリキ」


 ア、アレ? なんかいつもと軍師クンの言葉づかいガ違うようナ……


「勇者と癒着とはいいご身分だなぁ? お蔭でこちとら死ぬところだったぞ?」


 ナ、何か怒ってル。


「オ、落ち着いて話し合おウ」

「裏切り者の報告をされたくなかったらこっちの質問に正直に答えるんだな。そうすればお前の望み通り勇者ポシェットが戦わないですむように知恵を貸してやるよ」


 ……エッ、何か喋ったっケ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る