第17話 機械都市

 俺の隣に座っていた危険度Aの勇者エルグランディスは死体だった。


 それに妙な事も言っていたな……俺は隣を気にしながら恐る恐る将軍達に質問をぶつける。


「申し訳ございません。一つ質問しても宜しいでしょうか?」

「なんだ? 申してみよピクルス」


 横目でチラリとエルグランディスを一瞥し話を切り出す。


「今、会議で議題にあがっております勇者エルグランディスの件ですが……その……すでに死んでいるようなのですが……」


 おかしな事を言っているのは分かっている。ついさっきまで喋り、動いていた。いや、今も俺の話に耳を傾けているようにも見える。でも確かにこいつは死んでいる。


「なんだミックスベリー、お前軍師さんには今回の内容を伝えてなかったのクェ?」

「うむ、すまん。ビックリさせては申し訳ないと思い伏せていたのだ。悪かったなピクルス」

「相変わらず頭が沸いているなミックスベリー……急に死体の隣に座らされる方がビックリするに決まっている」


 んん? やはり将軍達は隣の勇者が死体である事を知っているようだ。


「困惑させてしまっテ悪かったナ。私が傍にいる限り危害ガ及ぶ事は無いカラ安心したマエ」


 四つん這いのプラムジャムが辛そうな表情で話す。かなり態勢がキツイのだろう。


「えっと……聞きたい事がいくつかあるのですが……」

「うむ。なんなりと申してみよ」

「まず今回の主題である危険度Aランクの勇者エルグランディスの対策案についてですが、当人がすでに死亡しているのであれば対策を練る必要があるのでしょうか?」


「ま、当然そう思うわな」


 少し間をおいてアールグレイ将軍が答える。


「端的に答えるとそこのソレはただの傀儡だ」


 紅茶をすすりながらレモンバーム将軍が続ける。


「哀れな勇者もどきの成れの果て。自我と呼べるものはないただの人形がソレだ」


 死体を……操っているというのか? 誰が? それに確かこういうのって……


「……死霊魔術師ネクロマンサー?」

「ほう、少しは頭が回るじゃないか。いいネズミを飼っているなミックスベリー」

「ピクルスは我が軍の軍師で同胞だ。飼っているなどと言う言葉を口にするなレモンバーム」

「ふん……で、その名軍師様はここまでの話の情報からどう推察しているのかな?」


 疑問形で逆に質問を投げかけてくる。

 隣の勇者は死体……。それにその死体はさっき妙な事を言っていたな。『私は勇者エルグランディスの一人でしかない』と。そして会議の議題とここまでのやり取りから考えて……。


「勇者エルグランディスは複数いる。そしてその全てが死体の傀儡人形として魔王軍の脅威となっている……という事ですか?」


 一瞬の沈黙が流れる。

(あれ? まさか全然違ったか?)


 パチパチパチ。

 レモンバーム将軍がエルフ耳をピンッと張って一人で手を叩いてこちらを見ていた。


「成程、大したものだ。当たらずといえども遠からず、と言った所だ。お前のような者がいれば多少は会議らしくもなるかもしれんな。馬鹿共の相手は退屈でな」

「おい、言われているぞプラムジャム」

「ガガ……私の計算ニよるト今の発言は80%の確率でアールグレイに向けられた物ダト思わレル」


 睨み合う二将軍を無視してレモンバーム将軍に問う。


「では、間違っている部分もあるという事ですね?」

「そうだな。概ねは正解だが一番根本的な部分が違えている」


 俺は会議で話されていた会話の内容を思い返す……。

 確か反転重力場アンチグラビディがどうだとか、北の領土を吹っ飛ばすとか……えっと……後は……


「……お嬢様?」

「ふん。本当に察しがいいな、その通りだ。勇者の本名はポシェット=エルグランディス、年齢は十四歳の正真正銘の少女だよ。外見だけ若い私と違ってな」


 名前だけは知っていた。以前『勇者観測記』に目を通した際に危険度Aの勇者はその戦歴や内容は一切載っていなかったが名前だけが記されていたからだ、男っぽくはない名前だと思ってはいたがまさか少女とはな。


「しかし根本的な間違えというのはそこではないのだよピクルス殿」

「え?」

「問題は勇者ポシェット=エルグランディスが死霊魔術師ネクロマンサーなんて可愛い能力者じゃないって事さ」

(いやいや死霊魔術師ネクロマンサーは全然可愛くねーだろ!)

「私の軍は仮にも呪術軍だからね。確かに死体操作は高位能力ではあるが動かすだけなら私の軍にも何人かできる者はいるよ……問題は」


 キッ! と俺の隣で四つん這いになっているプラムジャム将軍を睨みつける。


「ヒッ……マ、マダ怒っているのカ。建設的ではないナ。未来の話をしようじゃあないカ」


 ふぅ……と一息入れると呆れたような口調でレモンバーム将軍は続ける。


「問題は勇者ポシェット=エルグランディスがとんでもない能力を有した危険度Aの勇者だという事と……それを作ったのが事もあろうにそこのポンコツロボが支配する機械都市メカチックシティだってことさ」

「つ、作ったとは失敬な!? ポシェットの天真爛漫な才能を開花させたと……」


 ズバババァァンッッ!!


 会議室の長テーブルが真っ二つに割れ突風のような真空刃がプラムジャムの鼻先をかすめる。


「黙れ……ブリキ……死にたいのか」

「ス、スミマセン」

(て、いうか隣にいる俺も危なかったんですけど!?)


「まあまあ、レモンバームも落ち着いてくれ。あれは事故だったと言ってもいい。それに計画の事は我々も知っていた訳だしプラムジャムだけでの責任ではないよ」

「ミ、ミックスベリー……」


 プラムジャム将軍の目から油が零れる。


「プラムジャムよ。皆で打開策を考えよう。その為にもピクルスに勇者エルグランディスの事を説明してやってくれないか?」


 プラムジャム将軍はまぶたの下からワイパーのようなもので自分の涙(油)をふき取りながら答える。


「分かっタ。口で説明するよりも映像ヲ見て貰った方が早いナ」


 ウィーン……

 四つん這いになったプラムジャムのケツが割れカメラのようなものが出て来た。そして会議室中央の上空に向け光が放たれると鮮明な映像が映し出された。


(おぉ……技術力高ぇな……)


「サア、では見ていただこうカ。危険度Aの勇者ポシェット=エルグランディス誕生秘話ヲ……」

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