第19話 エルグランディス計画②

 プロジェクトレポート№17


 勇者育成プロジェクト『エルグランディス計画』がスタートして一年が経過したが順調そのものだ。

 100名の少年少女を育成していく過程で興味深い結果も出た。

 人間にレベルという概念が存在するのは周知の事実だがその経験値を取得できる量にも個体差があると判明したのだ。


 人間はレベルが上がる時薄い光のようなものに体を包まれるためレベルアップの観測は容易であるが、同じ訓練を施した人間でもレベルの上昇率に大きな差があった。

 結論を言うと男性の方が経験値取得率が高く、またあまりに若すぎるとレベルは上がって行かないという事も判明した。事実今回の被験者である三歳~六歳までのメンバーでレベルが上がったと確認できた者はいなかった。


 また訓練と戦闘での経験値取得率にも大きな差があった。地道な三ヵ月の訓練と魔物との生死を伴う戦闘三回では後者のほうがより早くレベルが上がったのだ。個体差を考慮しても興味深いデータである。一年で被験者は7名ほど死んだが計画に支障はない、引き続き経過を見る事とする。


――――……

――――……


 プロジェクトレポート№46


 計画から三年が経った。

 ようやく勇者候補の中から一名、慈愛バファリンを使える者が出て来た。レベルは10。少し要領の悪い勇者といったところか。彼の事は本日より勇者エルグランディス1と名付け別カリキュラムを組む事とする。

 他にも少年少女合わせて6名がレベル10以上となったが慈愛バファリンを覚える兆候はない。実験効率化の為にレベル12までに芽が出ない者は駆除対象とする。


プロジェクトレポート№49


 残念ながら6名の勇者候補は適正無しと結論付けた。

 勇者の素質を持った人間が思ったより少ない。または選定ができていない。という事は悪い方向に想定外と言える。しかし同じ都市の中で寝食を共にした仲間を勇者エルグランディス1が駆除できるかどうかは今後の研究の為にも興味が尽きない所だ。


 勇者と特定できた時点で勇者エルグランディス1には別カリキュラムを施しており教育は浸透しているはずだ。近接戦闘を得意とする勇者である為、遠距離からの攻撃は苦戦するかもしれない。しかし仮に返り討ちにあって死ぬことになっても構わない。今回の焦点は本カリキュラムによって人を容赦なく襲えるようになっているかどうかである。

 結果は次レポートにて報告する。


 プロジェクトレポート№50


 最悪の結果だ。

 相手の命を奪う事に集中できるフィールドと演出を用意したにも関わらず互いに泣き崩れてしまい勝負にならなかった。これは勇者エルグランディス1に別カリキュラムを施したのが十二歳の時であり教育が浸透しにくかった理由もあると推測される。

 失敗の原因は把握出来た。少し不安はあるが魔物に幼少期の教育を任せる事で人を襲う事に対する抵抗感の減少効果があるかを検証する事とする。


――――……

――――……


 プロジェクトレポート№106


 魔物に教育を任せた意味は全くと言っていい程なかった。しかしそのデータを元に教育計画のカリキュラムを時間を掛けて組み直した結果、勇者エルグランディス4が勇者エルグランディス1を殺害する事に成功した。レベルは勇者エルグランディス1の方が高かったものの勇者エルグランディス4は躊躇なく相手を攻撃し一方的な勝利となった。

 レベルアップの効率的な方法と教育カリキュラムに一定の指針は出来た。ここから先は勇者エルグランディスの量産体制に入れるだろう。



「ちょっと待った! ……あ、いや、ちょっと待って……ください」


 俺は違和感を感じて声をあげる。


「なんだピクルスよ」


 違和感の正体は分かっていた。


「この計画の最高権限者ってプラムジャム将軍なんですか?」

「当然ソウダ! 私以外ニ誰がいると言うのダ」

「……じゃあ、実際にこの計画を発案したのは誰なんですか? ……レモンバーム将軍ですか?」

「いや、私ではない。何故だ?」


 そうか……レモンバーム将軍ならまだギリギリ納得が言ったが……それも違うのか。


 おかしい。

 この計画……魔物らしくない……。

 なんと表現していいのか分からないが計画に何か冷たさのようなものを感じるのだ。


「さっきからレポート報告をしている映像音声の主は誰なんですか?」

「うむ? 誰であったかなプラムジャムよ」

「アア、魔王様お抱えの軍師だヨ、私トハ別働隊でコノ作戦に参加してイタからあまり面識はないのダガ……名前、なんと言ったカナ……」

「ミュゼルワール。『勇者観測記』の著者でもあるな」


 あの勇者観測記の著者……? 


「流石記憶力がいいなレモンバーム」

「お前らが悪すぎるだけだ」


 ミュゼルワール……こいつ何か違う。


――――……

――――……


 プロジェクトレポート№138


 計画から八年が経過した。

 被験者100名の少年少女は残り24名。

 勇者エルグランディスも21体までの作成に成功した。内レベル20以上の素体は10体。じきにレベル30に到達する者も現れる。計画通り目標は達成されるだろう。

 本計画では興味深いデータを取る事もできた。強いてあげれば勇者エルグランディスはどれを見ても変わり映えのしないしか作成できなかったのが心残りという所か。

 

 何体かの素体も残っているがもう十分データは取れた。後はここの魔物達に任せても問題はないだろう。

 予定より少し早いが『エルグランディス計画』は最終フェーズへ移行するものとする。

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