第45話 二つの王都
「熱いのでお気をつけ下さい」
透き通るような青い羽根を羽ばたかせ人型の蝶の魔物がお茶を運んでくる。
「どうクェ? 美人だろウチのモルフォは。ちなみにまだ独身だぞ」
俺の隣に座るダチョウの将軍が口ばしでちょんちょんと俺の肩を突っつく。確かに綺麗な羽だ。顔は蝶だから気持ち悪い事この上ないが。
「美しさだけじゃなく礼儀作法も強さも兼ね揃えている俺の自慢の秘書だ。才色兼備とはまさにこの事だな」
「……そうですね」
俺はそっとテーブルの上に置かれた湯呑に視線を落とす。
(才色兼備か……俺のお茶にもお前のお茶にもさっきの蝶の鱗粉が浮いてるんだけどな。客人に失礼だから秘書変えた方がいいぞ)
質に疑問は残る……とはいえ『魔王空軍』で採用している秘書制は素晴らしい試みと言わざるを得ない。俺も将軍になったら秘書制を導入しよう、当然人間の秘書でな。
西の大陸、イーシオカ大陸に到着した俺はアールグレイ将軍の城へと招かれていた。
そして『魔王空軍』の本拠地となるこの城の一室で勇者ノワクロ討伐に向けての作戦会議を行っている真っ最中に文字通りお茶を濁すお茶が目の前に現れたのだった。
「どうした? 冷めるぜ? 遠慮せずに飲めよ」
長い首を湯呑まで伸ばしてそのままチューチューと口ばしからお茶を飲むアールグレイ将軍。
(行儀悪いなぁ……つーかよくこんな鱗粉まみれのお茶飲めるな……)
「ところでどうだ? この『魔王空軍』の感想は」
ダチョウがお茶を飲みながらチラチラとこちらを見てくる。
「そうですね。本当に大きくて立派なお城だと思います。意外だったのはこの城には入口と呼べる門がなかった事ですかね」
「クェクェー!! そこよそこ! この城は『魔王空軍』の本拠地だからな。ここに居るのは全員が飛行能力を持った猛者ってわけだ。出入り口は通常五階の高さに位置する場所に設けられたエントランスのみ。並みの勇者じゃ入る事すらできない要塞ってわクェよ!」
(確かにここの魔物は皆羽根があったな……お前以外は)
「だからこうして客人が来る時の為に入口まで運んでくれる魔物を配備しているくらいだからな。仕方のない事とは言え、たまには自分で飛べよ! って思っちまうぜ」
(そうだなお前も運ばれてたな。『魔王空軍』将軍なのにな。飛べよお前は)
クェクェクェ――と高らかに笑うダチョウの声が癇に障る。
俺は湯呑に入ったお茶をダチョウ将軍の上空に放ち二歩分自分の椅子を下げる。
「熱っ!」
「おっと、これはいけない。大丈夫ですかアールグレイ将軍」
「クェ? 何故空から湯が……」
「流石は『魔王空軍』。お茶まで空を飛ぶのですね、素晴らしい」
「……クェクェ! ま、まあそういう事だな!」
誇らしげに胸を張るダチョウ。
こいつの性格はこの半年で大体把握している。お調子者でおだてに弱い。そのうえ自称兄貴肌であまり人を疑わず、例に漏れず馬鹿だから実に扱いやすい。
「ところでアールグレイ将軍。先ほどの話に間違いはないのですね?」
「ん? あぁ。間違いないぜ。王都ウエディと王都カレンダは昔は争いの絶えない国だったみたいだクェどな。随分前に和睦を結んでからは誰もが羨む仲のいい国になったってわけだ。雨降って地固まるって奴だな」
「そうですか……」
俺はイーシオカ大陸の地図と歴史書を眺めながら考える。
王都ウエディと王都カレンダはカタラニア大平原という平原を挟んだ隣国。和睦は結ばれてから七十年以上……にも関わらず両国の王家を結ぶ血縁関係はなし……か。
これは和睦と言うより軍事協定だな……
もし本当に仲のいい国なら王族の近親同士で婚儀が交わされていてもいいはず。それに両国の間に平原しかないこの距離感……歩み寄る気があるなら平原中央に統合の対魔物用見張所くらい作っても良さそうなものだ。だがそんな形跡も特にない。
つまりこの二国が一番の脅威と感じているのは魔物ではなく互いの国って事だな。
「アールグレイ将軍、この二国へのこれまでの進攻状況はどうなっていますか?」
「クェクェ―。痛いところをつくなぁ軍師さん。実はずっと攻めあぐねてる、何せ軍事力の高い二国が絶妙な位置にあるからな」
「すみません。質問の仕方が悪かったですね、私が伺いたいのはこの二国を襲う魔物の配置比率です」
「クェ? 基本はカタラニア大平原に集めてから半分に分けて両国を攻めさせているな。日によっては片方の国に集中させる事もあるクェど結局もう一方の国から増援が来るから一緒の事なんだよな」
なるほどな。それなら話は早い、少し時間は掛かるが落とせる……確実に。
「しかし軍師さん。さっきから二国の話ばっかりだが今回手伝って欲しいのは勇者ノワクロの件なんだクェどな。どうやって王都ウエディからノワクロを引っ張り出すかを考える必要があるんじゃないか?」
「いえ、逆ですアールグレイ将軍。勇者ノワクロを王都ウエディから引っ張り出してはいけません。彼がそこに居る事が重要なのです」
「クェ??」
「まあ私にお任せ下さい。そうですね……一ヵ月もあれば十分でしょう。勇者ノワクロのねぐらは無くなりますよ」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
(しかし妙なのは勇者ノワクロ。こんなに長く一つの場所に留まっていた事は今までなかったはずだが……)
もしかしたら効率的な狩場が近くにあるのか? いやレベルカンストしているノワクロには狩場なんて意味ないしな……一体どういうつもりだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます