第33話 決戦メカチックシティ

「久しぶりだね~ショーグン」


 建物同士を繋ぐように空中に張られた運搬用の筒状レーン。

 そこにちょこんと座って足をぶらつかせながらプラムジャム将軍に話しかけてくる金髪の青い目をした小柄な少女。


 こいつが勇者ポシェットか……


 どうやら完全に待ち伏せされていたらしい。こんなに早く本体と対面する事になるとは正直想定外だった。

 しかしどうやってこちらの位置を? 情報が漏れていたのか?

 

(まさか馬鹿軍師二人が? ……いやないな。それはない。あいつ等が役に立つ事なんて絶対にない)


 高いところが苦手なのか目を瞑ってプルプルと小刻みに震えている二人の軍師、こちらを見る余裕もないらしい。

 確かにツルツルと滑りそうな透明のレーンは地面から十メートル程の高さに位置しておりしがみつく気持ちも分かる。正直俺でもあの場所にいたらプルプルしちゃうかもしれん。


 そんな足場が悪い場所で平然と立っている少女が二人。

 キャップ帽子の女と……あれは巫女装束というのだろうか、とにかく少女が二人ポシェットを挟むようにして立っていた。

 あれもポシェットの強制交友なかまか? だが目が青くないぞ……?


 遠くて顔はよく見えないがポシェットはここからでも分かるほど綺麗な青い目をしている。それは強制交友フレンドに掛かった馬鹿二軍師も、ここまで行動を共にした死体の青髪エルグランディスも同様の清々しい程の青目を…………あっ……


 俺が「しまった」とプラムジャム将軍の方を向くのとほぼ同時にポシェットが手を振りながら大きな声を出す。


「エル~もういいよ~」


 その声を聞いた青髪のエルグランディスは静かにプラムジャム将軍から離れ、そしてポシェットの方へ歩いて行く。


 場所を教えた犯人はこいつか。


 正直町全体が反転重力場アンチグラビディで覆われて見えなくなっていたから油断していた。こいつ等自分達の位置情報をポシェットと交信する術を持ってやがるのか……ちっ! ミスった。


 ヒュッ……


 青髪のエルグランディスがポシェットたちの真下に着いたタイミングでキャップ帽子の女が巫女装束の女をおぶって高さ約十メートルのレーンから飛び降りる。

 そしてストン、と苦も無く着地を決めるキャップ女。


(うぉ! マジかよ!?)


 人一人背負ってあんな高さから飛び降りて平然としてるとかどんな身体能力だよ。

 ……でもなんか今、落下速度がおかしくなかったか?


 テクテクと歩いてこちらに向かってくる少女二人。将軍の周りを警護するカラクリ兵の前まで来たところで手を振り声を掛けてくる。


「先生ひっさしぶりー。元気してた? 一年ぶりくらいかな?」

「……巫女姫みこひめは元気にしてたの。先生は元気なの?……」


 代わる代わるプラムジャム将軍に声を掛ける。

なんだ? 将軍の知り合いか? 

 しかし近くで見ると二人とも可愛いな。歳は十五歳~一六歳くらいか? 一人は胸もでかいし……うん、捕虜にしたいな……


 はっ! い、いや、いかんいかん。前回はそれで無駄な労力を使ったからな。それにこいつ等は危険度Aの勇者ポシェットの仲間。油断はできん。


「オォ……クレスタに巫女姫みこひめカ……無事で何よりダ。また会えて嬉しいゾ」


 ブリキ将軍の顔が穏やかに緩む。


「私もホラ、この通り元気ダ」


 胸部は砕け散り右腕もない。どこがこの通り元気なんだ?


 しかし、やはり将軍の知り合いみたいだな。で、どうやら強制交友フレンドにも掛かってない……って事は。


(こいつら、まさかポシェットと同じ出来そこないの勇者二人か?)


「もー先生、ポシェットとばっかり会うんだもんなーヒイキだヒイキ!」

「……巫女姫みこひめとも遊んで欲しかったの……」


 口を尖らせながら不満を垂れる二人。


「い、いや。ヒイキじゃないゾ! 先生ハ三人共同じくらイ大切ニ思っテいるのだからナ!」

「ふーん。じゃあ久しぶりに複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンやってよ」

「……あ、見たいの。あれカッコいいの……」

「エッ! い、いヤ。今は少し体調がすぐれなくてナ、また今度の機会にしよウ」

「ほら、やっぱり私たちが言ってもやってくれないんだー」

「……巫女姫みこひめ見たいの……」

「ウウ……」


 おいおいやめて差し上げろ。こんな状態で複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンになれと言うのは酷と言う物だ、ブリキから動かないガラクタに変貌をとげるぞ。


 しかしこのブリキ、もう少し部下の手前って事を考えた方がいいんじゃないか? 何楽しそうに敵と話してんだよ。


 俺は楽しそうにこちらを見ているポシェットと死体の青髪エルグランディスの位置を確認する。


(すぐ加勢に来れるような距離じゃないな)


 敵は眼前に二人……こちらはカラクリ兵が二百体か。……今囲ってしまえば逃げ道はないな。


「えーいカラクリ兵ヨ! スグにトンカチとのこぎりを持ってコイ!」

「その必要はありませんよプラムジャム将軍」


 俺は敵との距離を測りつつ会話に割って入る。


「な、何ダト!」

複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンに変形する必要はない。そういったのですよ将軍」

「な、何故ダ! だが本当カ!? 本当ニカ!?」


 そんなに嫌ならやらなきゃいいだろ。


「……勇者の仲間たちよ。将軍と旧知の仲のようだが我々の指揮官をたぶらかすのはやめて頂きたい」

「何言ってんの、このネズミ?」

「……ネズミさん可愛いの……」

「オイ、手荒な真似ハ……」

「大丈夫ですよ。少し彼女たちの話が聞きたいだけです。……さて少しご同行頂けますかな」


 取りあえず殺す気はない。人質としての価値がありそうな人物が三人・・もいるのであれば有効活用すべきだ。

 決して可愛いから捕虜にしたいとかではない……


 俺はパチンと指を鳴らすとカラクリ兵が少女二人を囲うように陣形を取る。カラクリ兵は自分で考える脳みそは弱いが指揮命令には良く従うから実に動かしやすい。何体か貰って帰ろう。


「……ご同行、頂けますね?」

「え、嫌だけど?」

「……ネズミさん可愛いの、チューチューなの……」

「ほら巫女姫みこひめ。あんたのネズミ好きは分かったからっ! どうもこの人たちが私らの遊び相手になってくれるみたいだよ」

「……楽しみなの……」

「顔面真っ青でチューチュー言わせてあげるよーっ!」


 戦闘態勢に入る二人。


 全く……誰がネズミだ、俺は愛くるしいフェレットだ。

 まあ後からたっぷり教えてやるか。お前らが誰に刃向かっているのかをな。

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