第34話 二人の異能

「カラクリ兵たちよ、二人を捕えよ!」


 俺の号令のもと、カラクリ兵が一斉に二人の少女に襲い掛かる。

 四方を囲っている為二人に逃げ場はない……はずだった。


加速乃窓ペールギュント


 キャップ帽子の女がそう言って自分達の真上に四角形を指で描く。白く光るその四角形に二人が飛び込むと一瞬にして目の前から姿が消える。


(な、なんだ!? 瞬間移動テレポート?)


 きょろきょろと辺りを見渡すが二人の姿はない。


 どうなってるんだ? 

 勇者ファーウェル一行が使っていたような瞬間帰還サトガ・エリでもないぞ。こんな魔法があるのか?


「こっちだよっ!」


 困惑する俺の頭上から声が聞こえる。

 その声に反応し空を見上げると遥か上空に二つの影が見える。


(マジか!? 一瞬であんなところまで移動したのかよ!?)


 そして先ほどと同じように白く光る四角形が上空にて描かれる。


 な、何かヤバイ!!


「レオナルドォ!! 俺を連れてここから退避だ!」


 俺の横できょとんとしている赤獅子のレオナルド。


「早くしろぉ!!」


 いつになく切羽詰まった声にビクッと反応した赤獅子のレオナルドは俺を素早く抱きかかえるとカラクリ兵の傍から大きく離れるように一足飛びに駆ける。


 程なくして上空から一筋の閃光のような物が地面目がけて……


「チョっ!?……クレスタ! それハ危ないっテ……」


 ドゴォォォォン!!!!


 突き刺さった。


 凄まじい爆発音と共にカラクリ兵たちがぶっ飛び、爆風でプラムジャム将軍も後方へ吹き飛ばされる。

 そしてその衝撃で爆心地の一番近くにあった中層の建物も根元からなぎ倒される。


 ズンッ……


 建物に何体かの兵たちが下敷きとなり押しつぶされる。今の一撃だけで恐らく三十近い兵力を失った。


(あ、危ね~……なんだあの帽子女は。落ちこぼれの勇者もどきじゃなかったのか!?)


 さっきまでの場所にいたら多分俺も巻き込まれてた。

 背筋が凍りつくような思いをしたが取りあえず無事危機回避できたことにほっと胸を撫で下ろす。


 そんな脅威の一撃をお見舞いしてくれた二人の少女がもの凄い勢いで地上へと落下してくる。


(さっき飛び降りた高さの比じゃないぞ。足がへし折れるくらいじゃすまない高さだ……)


 当然そんな自滅などしてくれるはずもなかった。

 遥か上空から地に降り立つ直前、今度は自分たちの下方に四角形を描く帽子女。そして地面に出来た小規模クレーターの中にストンッとまたしても見事に着地を決める。


 ちっ、なるほどな……どうやらあの四角形で加速と減速を使い分けているらしい。だがこんな魔法聞いたことないぞ?


「ちょっとクレスタっ! ショーグンに当たったらどうするの!!」


 ポシェットが怒り気味に大声をあげる。


「分かってるってー。だから少しずらして投げたじゃん!」

「も~! でも危ないよ~」

「……巫女姫みこひめは今加速乃窓ペールギュントジーでトホホなの。クレスタよくいつも平気でやってるの……」

「そりゃ私、学級でもずーっと体育の評価5だったからね!」

「……そういう問題ではないと思うの……」

「ショーグーン!! 大丈夫~?」


「……」


「……ありゃ? 気絶しちゃったかな? 先生もだらしないなー」

「怒るよ! クレスタっ!」


 緊張感無くやりとりする少女三人。


 ……しかし帽子女はヤバイ。下手したらポシェット以上にやっかいだぞ。ここは大人しそうな巫女装束の女の方を……って、えぇぇ!!


 目の前の光景に目を疑う俺。


 今しがたなぎ倒された中層の建物を軽々と片手で持ち上げる巫女装束女の姿がそこにはあった。


(何トンあると思ってんだ!? どんな怪力だよ!?)


「……えい! なの……」


 一塊になっていたカラクリ兵に向かって建物丸ごと放り投げる巫女装束女。フワフワと羽のように巨大な建物が宙を舞う。


(あれ? なんだ? 意外と軽い材質だったのか?)


 そんなわけなかった。

 カラクリ兵たちの真上まで来ると急に元の重さを取り戻したかのように勢いよく落下する建物の残骸。


 ドズンッ……


 全く同じ映像を見ているかのようだった。

 放り投げられた建物に無残に押しつぶされるカラクリ兵たち。


(こ、こいつ等やべぇぇぇぇ!!)


 今まで殺ってきた勇者たちとは一体なんだったのか? そのくらいレベルが違うぞ!?

 ……いや、単純なレベルはそれ程でもないはずだ。こいつ等がエルグランディス計画の落ちこぼれ組だとすれば、二年前の時点でレベルは10そこそこのはず。


(つまり厄介なのは能力の方か……帽子女と、多分巫女装束女もポシェットと同じ異能持ち……クソッ! あのブリキ将軍そんな事一言も言ってなかったぞ!)


 だが素の身体能力だけで圧倒されているわけでないとすれば特性が分かってしまえば手の打ちようはあるはずだ。幸いあの二人もブリキ将軍にご酔狂のようだしな。だが今は情報が少なすぎる……か。


 ここは一旦撤退しかないな……


「レオナルド!」

「なんでしょうピクルス様」

「ここは任せる。頼めるな?」

「……仰せのままに」


 俺に向かって一礼すると赤獅子のレオナルドは二人の少女の方へ猛然と向かって行く。

 従順な奴だ。本来なら別の使い方をしたかった。


 現状最大戦力である赤獅子をここで失うのは惜しいが仕方ない。

 今は俺の安全確保と……対勇者ポシェット一行への最大の切り札であるポンコツブリキ将軍の回収が最優先だ。

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