第13話 勇者撲滅会議

 勇者ファーウェル一行全滅の一報を受けた翌日。

 ミックスベリー将軍と俺を含む三軍師とそしてサイ君、いつもと同じメンバーがいつものように大聖堂会議室に集まっていた。一つ違うのは今回は俺が提案した会議であるという事だった。


「で。話とは何かな大軍師ピクルス殿。私は忙しいので話は手短にお願いするよ」


 俺の活躍が面白くないのだろう、すねた表情でキュービックが突っかかって来る。


「いや、キュービックよ。これは流石に認めねばならんぞ。我が軍が危険度Bランクの勇者をミックスベリー将軍の手を煩わせる事なく撃退できたのは過去を遡っても数回しかない偉業なのじゃからな」


 ヤギ爺のスクエアがキュービックを窘める。


「そ、そんな事はわかっておりますスクエア殿! しかし私は本当に忙しいのです。祝いの花束の手配に料理の注文、サプライズプレゼントの用意など多忙を極めておりピクルスの自慢話を聞いている暇はないのです!」

(そうか……大変だなキツネ男も。でも本人の前でサプライズプレゼントとか言ったら駄目だぞ。今度から気を付けような)


「しかし相手の帰還先への待ち伏せとはな。本当に見事な策であった。改めて礼を言うぞピクルス」


 ミックスベリー将軍が先日と同じように俺に深々と頭を下げる。


「し、しかしミックスベリー将軍! 今回の作戦における我が軍の被害も甚大ではありませんぞ、私にお任せいただければもう少し効率よく勇者を仕留められたもの……」


 ギロッとキュービックを睨む俺。


「……を……いや、まあピクルスにしては悪くない手際だったかな」


 小心者のキツネだ。

 だが俺が睨んだ理由は別にキュービックに怒った訳ではない。今回に関してはこいつの言う通りなのだ。


 カナン山での勇者ファーウェルとの一度目の攻防戦は兵力の消耗を覚悟で様子を見た。相手の現戦力をこの目で確かめる事と、今回の策の鍵であった瞬間帰還サトガ・エリと呼ばれる帰還魔法の詳細確認を行うためだ。


 事前に「勇者観測記」で帰還魔法がある事は知っていた。そして戦闘履歴からその帰還魔法がどこの町でも自由に飛べるタイプの代物ではないという事も分かっていた。もしどこの町でも自由自在に移動できるのであれば船など使わなくても一度訪れた場所であれば大陸間の横断が可能という事になる。しかし勇者ファーウェルたちのここ一年の戦闘履歴は全て本土であるミルウォーキー大陸でのものであった。

 また瞬間帰還サトガ・エリを使ったと思われる戦闘履歴後は必ずと言っていいほど最寄りの町に帰還している節があり、特定条件下での移動魔法である事は明らかだった。


 今回の作戦を成功させる上で重要なポイントはその特定条件を探る事……ではなく、勇者ファーウェルたちがカナン山での戦闘後どこに戻るか、だった。


 一度目の戦闘の際、事前に先遣隊を送りカナン山から近い順に町を三つほど監視させていたが予想通りカナン山から一番近いグリエルタウンの部隊から移動魔法での勇者帰還の報告があった。

 そして一番知りたかった、戻るのは「町中」か「町外」かであったがこれも戦闘履歴から推測した通り「少し離れた町外」であった。

 また現地調査から印を打った場所へ帰還するという事実も把握する事ができた為、より正確に町付近を取り囲むように魔物を配置することもできた。


 作戦自体に問題はない。

 短い期間で準備を行い勇者ファーウェルたちを倒すためには最善だったと言えるだろう。


 ……だが。



 俺はミックスベリー将軍の方を見て話を切り出す。


「キュービック殿の言う通りですミックスベリー将軍。今回失った我が兵力は七百を超えております。勇者ファーウェルは危険度B。もし同レベル以上の勇者が同時に攻めて来た場合今回の策では対応できません」


 真剣な顔つきで将軍に訴える。


「むぅ……確かにな。しかし今の所我々の管轄地にはレベルB以上の勇者はファーウェルだけであった。今は皆を労わる意味でも祝杯をあげようではないか」

「そ、そうだぞ、ピクルス。今は延期になった祝賀会の再準備で忙しい時。優先順位を考えろ!」

「そうじゃのぉ……来賓の魔物もそろそろ来る頃じゃし、嫌な事は酒でも飲んで忘れようじゃないか」


 ドンッ!


 俺は思いっきり机を平手で叩きつける。ビクンと反応する軍師たち。


「ちょっ!? またかピクルス! 無礼だぞ!」

「そうじゃのぉ、ちょっと心臓に悪いからそれはやめて貰いたいのぉ」


 何を呑気な事言っているんだこいつ等は。

 勇者アルティの時も今回も最終的には「数」の力押しで勝っている。

 俺たちにレベルアップという概念もなければ装備強化という手段もない。こちらが持っている勇者へのアドバンテージは「数」と「勇者たちが知らない事」だけだ。

 

 二度の勇者との戦闘を経て分かったが、勇者たちは頭がいい訳ではないが極端な阿呆でもない。こちらの策が嵌るのは奴等に魔物が罠を仕掛けてくるという耐性がないから、または罠を張っても陳腐すぎるものばかりであるという先入観があるからに過ぎない。

 もし戦略的に戦う事が相手に知られたらそのアドバンテージも消失しかねないのだ。だからこそ根本から考えを改める必要がある。



「……ピクルス。何か考えがあるのだな」


 ミックスベリー将軍が場を制するように口を開く。その言葉で少し冷静さを取り戻した俺は将軍に進言する。


「はい、ミックスベリー将軍。今度はこちらから打って出ます。勇者たちを撲滅する為に」

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