勇者達が侵略を開始したとき、前方のかなり離れた場所に黒い渦ができる。その渦から現れるのは、触手で構成された気味の悪い人型の生物だった。


「前方に反応あり!何者かが近づいてきます!」


魔力察知のスキルを所持していた一人の兵士がそう叫ぶ。だが、


「索敵には反応しないぞ。気のせいじゃないのか?」


索敵のスキルを所持していた兵士がそう返す。魔力察知を持っていた兵士はその言葉に対し、何も言うことなく、再び歩き出した。少し歩いていると一番前にいた兵士が声を上げる。


「前方に人影あり!魔王軍の兵だと思われる!全体警戒せよ!」

「はっ!そんな雑魚一匹くらい、俺が一撃で殺してやるよ!」


大道がそう言うと、意気揚々に大剣を抜き走り出す。触手の生物を見つけると


「気持ちわりぃな。手っ取り早く倒すか。大剣流斬鉄切りぃ!」


いつものを使い、触手の生物に切りかかる。その生物はすんなり切られ、緑色の体液とをまき散らしながら崩れ落ちる。


「やっぱり大したことないな。この世界で最強なのは俺だからな!」


大道が侵攻している軍隊のところに戻ろうと生物に背中を向けて走り出す。大道の姿が見えなくなると、触手の生物の触手がウニョウニョと動き出す。そのまま融合して復元される。触手の生物は、再び黒い渦を生成すると、そこから魔道具を取り出す。その魔道具に魔力を注ぐと先ほど出した黒い渦より、さらに大きい渦が発生した。その渦の大きさは、侵略している軍隊の一番後ろの兵士でもはっきりと渦だと分かるほどだ。そこから現れたのは、球体とも、立方体ともとれるが、円柱ではない。そんな感じの何とも言えない形をしている物体だった。なんとなく気持ち悪い。そんな印象を持つ生物だった。


「おい!なんだあれ!」

「索敵に反応ありません!」

「魔力察知に特大の反応あり!おそらく前方の超巨大物体だと推測されます!」


兵士たちは混乱状態にあった。いきなりこんなに大きな物体が現れ、しかも魔力の反応しかない。正真正銘未確認物体となるわけだ。

勇者たちは一瞬だけ恐怖の表情を浮かべたが


「俺たちは世界最強の勇者だぞ!こんなデカブツごときに負けるわけねぇだろぉが!」


と言うと巨大物体に向かって走っていった。



勇者が巨大生物に攻撃を仕掛けたころ、軍隊の後ろ側に一人の少年がいた。一見するとそこら辺のなんてことない村にいる少年に見えるが、状況が違う。アンデットがうじゃうじゃいるこの地でただの少年がいるというのは異様なことだった。だが、兵士たちは何も反応しない。さっきまでは程度遠くにいた、が今は近くにいる。その点でも異様だった。少しすると一人の兵士がその少年に気が付いた。


「おい!ここにガキがいるz……」


だがその兵士は最後まで言葉をつづけることができなかった。初めからそこにいなかったかのように消えていた。近くにいた兵士がそのことに気が付く。


「このガキ!索敵に反応がないぞ!」

「魔力察知にも反応がない!どうなってやg……」


その兵士たちも周りに情報を伝える前に消えてしまった。


「……うるさいな」


最後に少年がそうつぶやいた。周りの兵士は、全員消えていた。



勇者たちが巨大物体に攻撃を仕掛ける。といってもがむしゃらにおのれの武器を振るっているだけで、その攻撃が巨大生物にあたることはない。巨大生物から触手のようなものが発生する。その触手で地面をたたく。その瞬間。勇者たちがまるでプツンッ・・・と切れてしまったように倒れる。勇者たちは死んでいた。



後ろから少年が近づく。巨大生物は攻撃せずに静止したまま少年を見つめている。


「……第一次任務完了。第二次を開始する」


少年がそう言うと、体から黒い物体が沸き上がる。その物体が晴れると、そこにはぼろぼろの大道がいた。


「じゃ!そういうことで!」


と怪我を感じさせない声色でそういうと、大道は踵を返した。その後巨大生物ももとの魔法陣を通って帰っていった。


「縺薙l縺ァ縺セ縺溘?√@縺ェ繧翫♀縺後☆縺吶?」


大道が国に帰る。虐殺から二日後のことだった。あまりにも早かった帰宅に王たちは困惑したが


「急にでけぇバケモンが現れたんだ!ほかの奴らはっ!それで、俺一人で」


という言葉と聞いて王たちは顔色を変えた。あの勇者ですら勝てない化け物がいる。この事実に驚愕せざるを得なかった。だが


「でも!ほかの勇者たちが相打ちという形で倒してくれた。俺はホントにかろうじて生き延びることができた」


と大道が話すと。王たちはほっと息をついた。そして再度、進行について話し始めた。

大道の笑みに気づかずに。

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