第22話 ダンジョンボスは突然に

「シャァァァァァ‼」


 俺が振り返るとそこには巨大な蛇のような魔物がいた。俺はまずいと思い、扉の方へ戻るが扉は固く閉ざされ開きそうにもない。


 そんな俺に魔物は連続攻撃を繰り出してきた。攻撃は障壁に弾かれるが、あまりの連速攻撃に一枚目の障壁が割られてしまった。


 くそっ! どうしたらいい……!


 そうして俺は周囲に目を向けるが利用できそうなものは何も見つからない。そんなことをしているうちに俺は障壁ごとその牙で噛みつかれ、身動きが完全に取れなくなってしまった。


 俺はただ歯を食いしばることしかできなかった。その牙で徐々に障壁が削られていき、二枚目の障壁が破壊される。


 ……なぜ俺には力がないんだ。なぜ自分が死にゆく過程をただ眺めていることしかできないんだ! 俺に、俺に戦う力さえあれば……!


 そうして三枚目の障壁がメキメキと音を立て始めた時、この部屋の大きな扉が斜めに切り裂かれた。切り裂かれた扉の先には香恋の姿があった。


「真裕……!」


 香恋は俺を見つけてそう言ったかと思うと瞬時に姿を消した。次の瞬間、俺を捕らえていた魔物の首を、持っていた剣で両断した。そして俺を魔物から引き剥がして体を抱えてくれた。


 きれいに着地すると香恋は俺を降ろしてからこう言って抱きついてきた。


「真裕……! 良かった、生きててくれてほんとに良かった……‼」


「香恋……ありがとう。助けに来てくれて」


 俺はあまりに早い展開にまだ脳が追いついてきていなかった。しかし、口からは自然に感謝の言葉が出ていた。そんな俺に香恋は震えた声でこう言ってきた。


「……ほんとにごめん。もう少しこのままでいさせて」


 そう言った香恋はしばらくの間、俺を離してはくれなかった。


 その後、落ち着いてから俺たちはこのボス部屋の先にあった正真正銘のセーフティゾーンで休息を取ることにした。


「……セーフティゾーンってほんとに魔物が来ないんだね」


 今いるセーフティゾーンには先ほどのダンジョンが嘘のようになんの魔物の影もなかった。


「そーだね。だからダンジョンで夜を明かす時にはセーフティゾーンを使うんだー」


 そっか、長いダンジョンになってくるとダンジョン内で夜を明かすこともあるのか。


「……そうだ! メアたちに連絡取らないと!」


「連絡? どうやって取るの? 近くにいるとか?」


 俺がそう尋ねると香恋はこう答えてくれた。


「ううん、真裕がどこに流されたか分からなかったから手分けしたんだ。だから魔力を使って通信するの。真裕にも聞こえるようにしてあげるねー」


 魔力を使って通信……そんなことできるんだ。魔力って便利なんだな。


「……あ、もしもしメア? 真裕発見したよー」


『ほんとですか⁉︎ 真裕は、真裕は無事ですよね⁉︎』


 メアの様子は完全にテンパった様子でどれだけ焦っていたのかが伝わってきた。


「大丈夫大丈夫。無事だから、でも結構下層の方だったからこのまま下に降りてから脱出するねー」


『わ、分かりました。ひとまず真裕が無事で良かったです。では外で合流しましょう』


「うん、じゃーねー」


 そうして香恋が通信を切った後に俺はこう尋ねてみた。


「下に降りてから脱出するってどういうこと? 出口って上にあるんじゃないの?」


「確かにそうなんだけど、ダンジョンのボス部屋には上に繋がる転移陣があることがあってねー。ここになかったから次の層にはあると思うんだよねー」


 なるほど、確かにそれなら上に上がるよりも下に下がった方が早く脱出できるのか。


「あ、ネムにも連絡とってあげないとね……あ、もしもしネム? 真裕発見したよー」


『ほんとに⁉︎ 良かった〜、どこにいたの〜?』


 ネムは香恋の言葉を聞いて安心したようにいつものふわふわした声でそう言った。


「結構下層の方。だからこのまま下に降りて脱出するから」


『りょうか〜い、じゃあ、外でね〜』


 そう言って通信を切った後で香恋がこう言ってきた。


「たぶん、みんなこっちに来て早く真裕に会いたいんだろうねー」


「そうなの?」


 俺がそう尋ねると香恋はこう答えてくれた。


「うん、そんな感じがしたから。少なくとも私があっちの立場だったらそう思うし。でも、このダンジョンの流砂とかって流れが変わるから時間が経ったら同じとこ来れないからねー」


「ってことは流砂に呑まれて俺の所まで来てくれたの?」


 香恋の口ぶりからして順当に階層を降りてきたとは考えづらい、しかもここが下層だとしたら普通そんなに早くは来れないだろう。


「うん、じゃないと間に合わなかったから。でも途中で流砂が分岐してた時はちょっと焦ったかな」


 なるほど、それで手分けをしたのか。俺のためにそこまでしてくれたのはなんだか嬉しいな。


「なんにせよほんとに無事で良かったよー。それじゃあ、今日はここで夜を明かすからその準備をしよー!」


 そうして俺たちはまるでキャンプのようにセーフティゾーンで寝るための準備を行った。ちなみに道具は香恋の亜空間に入っていたものを使った。香恋も収納魔法使えるようだ。


「準備終わりー! ごめんね今日中に出れなくて、下層のボスを倒すためにも魔力を回復しておきたかったから」


「いやいや、謝らないで。元はと言えば俺が悪いんだし……」


 そう、元々俺がダンジョンに行ってみたいと言ったのが原因なのだ。それでわざわざ下層まで助けに来てくれた香恋が謝る必要は全くない。


「……ふふ、真裕らしいね。でも、真裕が全部悪いわけじゃないんだからお互い様ってことで」


 そう言って香恋は用意した横長の椅子に座る。そして、空いている椅子のスペースを叩きながらこう言った。


「さ、まだ夜まで時間あるし一緒に話でもしよう?」

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