第37話 魔王の精神世界
「……もう大丈夫ですよ。体、拭き終わりましたから」
そうして視線を戻すとそこにはパジャマに着替えたメアがいた。そのパジャマは青い水玉模様で、ふわふわとしたかわいらしいものだった。
「なにげにメアのパジャマ姿、初めてみたかも。よく似合ってるね」
「あ、ありがとうございます……私はあまりパジャマを着ないのですが、そう言われると嬉しいです」
そう言ってメアは再びベッドに横になると俺に向かってこう言ってきた。
「……真裕。先程のように手を握っていてくれませんか?」
俺は不安そうな表情でそう言ったメアの手をしっかりと握ってこう言った。
「分かった。手、握っておくから安心して眠ってね」
「ありがとうございます……お言葉に甘えます」
そうしてしばらく手を握っていたのだが、メアは変わらず苦しそうに息を上げていた。
……メアがこんなに苦しんでるのに俺は手を握ってあげることしかできないのか。俺にはネムや香恋みたいに呪いに関する知識がない。何も力になってあげられない……。
そんな俺の思いが伝わってしまったのか、メアは俺に微笑みながらこう言ってきた。
「真裕。私は真裕が一緒にいてくれるだけで嬉しいです。だからそんな顔をしないでください……」
そう言われ俺は無意識に顔が歪んでいることに気がついた。こんな時にもメアに気を使わせてしまうなんて……そうだよな、俺は俺にできることを精一杯やらないとな。
「ごめん、不安にさせちゃったよね。俺はもう大丈夫だから」
俺がそう言うとメアは安心したのか、眠りに落ちたようだった。俺は夜までの間、ずっとメアの側で手を握っていた。それでも眠気は来るもので、寝る準備をしようと、メアの手を離した時だった。
「いなくならないで……もう、一人は嫌です……」
うなされるようにそう言ったメアを見て俺は手を握り直した。
そうだった、今はメアの手を握ってあげることの方が重要だよな。
そう思った俺はメアの手を握ったままで眠りについた。
翌日。ちょうど俺が目を覚ましたタイミングでネムと香恋が部屋に入ってきた。
「真裕! 見つけたよ、メアの呪いを解く方法!」
「久しぶりの徹夜で疲れたよ~」
「ほんとに⁉ 二人ともお疲れ様。それでどんな方法なの?」
俺がそう尋ねると香恋がこう答えてくれた。
「メアの研究資料を色々見たんだけど、どうやら呪いの原因は精神にあるみたい。だからメアの精神世界に行って直接対処する必要があるの」
「精神世界……?」
俺がそう疑問に思っているとネムがこう言ってきた。
「精神世界っていうのは~、誰にでもある心の中にある世界のことだよ~。ボクらの力で魔王様の精神世界に送るからそこで呪いの原因を探ってきて~」
「え⁉ 俺が行くの⁉」
俺はネムや香恋のように強くないのだが、大丈夫なのだろうか……。
「いや、真裕以外に適任いないでしょ」
「そうだよ~、それにボクらは精神世界に送った後の維持に忙しいからね~」
「……分かった。俺はどうしたらいいの?」
俺にできることを精一杯やると誓ったのだ。俺が適任だと言うのであれば行くしかない。
「そのままメアの手を握ったまま目をつむってて。後はこっちが真裕の精神をメアの精神世界に飛ばすから」
俺は香恋の言葉通りにベッドに体を預けて目をつむった。
「多分大丈夫だと思うけど、危なくなったらボクらの方で真裕をこっちに連れ戻すから安心してね~」
ネムのその言葉を聞いた瞬間、俺は意識がぼやけ、そのまま意識を手放した。
目を覚ますとそこは先程までいた俺の部屋ではなく、メアの部屋に似た空間だった。ただ、一つ違ったのはどこか暗く、闇のようなものを感じるところだろうか。
「……ここがメアの精神世界。メアの部屋にそっくりだな」
ふと部屋にあったソファに目をやるとそこには黒い衣装を着た、羊のような角を持った赤黒いボブヘアーの女性が座って本を読んでいた。その女性は巨大な鎌を持っており、普通の人間ではないことは明らかだった。
その女性はこちらを向くと、本を閉じて興味深そうにこう話しかけてきた。
「おや? こんな所に人間が来るなんて珍しいこともあったものだね」
「……」
俺が驚いて何も言えないでいるとその女性はこう自己紹介をしてきた。
「おっと、自己紹介を忘れていたよ。私の名前はメルトルカ。悪魔さ。君はなんと言うんだい?」
悪魔……俺が想像している悪魔で間違いないのだろうか。ひとまずこっちも名を名乗っておくか。
「……星月真裕。真裕でいいよ」
「うん、真裕。いい名前だ。それで? こんな所に人間の君が何をしに来たんだい?」
余裕そうにそう言ったメルトルカに俺は正直にこう答えた。
「メアの呪いを解くためにこの精神世界に来たんだ」
「メア……? ああ、この世界の持ち主の魔王メアリア・シャルティールのことか。なるほど、それはご苦労なことだ」
そう言いながらメルトルカはどこからかティーポットとティーカップを二つ取り出した。
「折角来たんだ。お茶でもどうだい? じっくり話でもしようじゃないか」
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