第36話 魔王を蝕む呪い

「メア⁉」


 俺は急いでメアに駆け寄る。するとメアは苦しそうな声でこう言ってきた。


「す、すみません。朝から体調が優れなくて……今日の業務は任せる形に……」


「大丈夫、それは任せて。それより安静にしないと! ひとまず、俺のベッド使って」


 そうして俺はメアを抱えてベッドに運んで寝かした。メアの額に手を当てると明らかに発熱していた。


「熱っ、とりあえず二人に連絡しないと」


 そう言って俺はメッセージアプリの俺たち四人のグループにメッセージを送った。


『メアが体調悪いみたいだから今日は業務できそうにないって』


 すると二人からこう返信が届いた。


『りょ~か~い、魔王様がそんなこと言うなんて相当だね~。業務はボクが回しておくから真裕は魔王様の側にいてあげて~』


『私もちょっとしたらそっちに行って仕事手伝うねー! 真裕はメアの看病よろしくー』


 どうやら仕事に関しては問題さそうだ。俺は二人の言葉通り、メアの看病に徹することにしよう。


「メア、準備してくるからちょっと待っててね」


 そうして俺は看病に必要そうなものを魔王城の中から集めてきた。俺は熱冷ましのシートをメアの額に貼るとこう言った。


「基本的には俺がここにいるから何かあったら言ってね」


「あ、ありがとうございます……すみません、迷惑をかけてしまって」


 そう言ったメアの様子は酷く苦しそうで、俺は思わず手を握ってこう言った。


「ううん、迷惑だなんて思ってないよ。にしても魔王でも体調崩したりするんだね」


 俺が冗談交じりにそう言うとメアは少し黙り込んだ後でこう言った。


「……真裕、少し聞いてほしいことがあります」


「何?」


 俺がそう聞き返すと、メアは真剣な様子でこう言ってきた。


「……実は、私の体は呪いによって蝕まれているのです」


「呪い……?」


 俺はその瞬間、以前にメアが書いたであろう呪いに関する研究資料を思い出した。


「そうです。以前からなんとか解呪する方法を探していたのですが、それを見つける前に限界が来たようです……」


「限界って……」


「以前から症状は少しずつ出てきていたんです……今まで隠してすみませんでした。魔王である私が呪いに蝕まれていることを知られるのは色々問題があったんです……」


 今までのメアを見る限り、呪いに蝕まれているなんて思いもしなかった。いや、思いもしないようにメアが我慢していたのか。


「メア、気づいてあげられなくてごめん。今まで一人で無理してたんだね……」


「あ、謝らないでください。全部私のせいですから……」


 メアは俺が以前、無理していた時に気がついてくれた。それなのに俺はメアの無理に気づいてあげることができなかった。それが何よりも悔しい。


「……二人はこのこと知ってるの?」


「いえ、誰にも話していませんでしたから」


「そうだよね」


 俺はそう言うと二人に至急俺の部屋に来るように伝えた。そして二人にもメアが呪いに蝕まれているということを伝えた。


「……っていうことらしいんだ」


「メアを蝕む呪いって相当だねー。分かった、私とネムで呪いの研究資料を元にどうにかできないか考えてみる」


「そうだね~、仕事はボクらがいなくてもある程度回るし、そうしよっか~。真裕は引き続き魔王様の看病をよろしく~」


 話を聞いて即座にそう言った二人にメアは驚いたようにこう言った。


「みなさん……ありがとうございます。もっと早くに頼っておくべきでしたね……」


 落ち込むようにそう言ったメアに俺はこう言って慰める。


「そんなに落ち込まないで。別にみんなメアを攻める気はないから」


「そーだよー。そんなことしてる暇があったら解呪のための方法探さないとねー」


「魔王様は安静にしておいてね~、これ以上無理しちゃ駄目だよ~」


 そう言って二人は俺の部屋を後にした。


「さ、メアはこれから休むのが仕事だからね。何かして欲しいことある?」


 俺がそう尋ねるとメアは少し言いづらそうにこう言ってきた。


「で、では体を拭くのを手伝ってくれませんか……? その、昨日の夜から結構汗をかいたので……」


「え、あ、うん。分かった、お湯とタオルを持ってくるね」


 俺はそう言ってあったかいお湯とタオル、それからメアの着替えを準備したのだが……。


 ……体を拭くのを手伝うって何したらいいんだ? もしかしてメアの体を俺が拭くってこと⁉︎ いや、まあ確かに背中には手が届かないから俺が拭くという可能性は十分あり得るか……なんか緊張してきたな。


「で、では真裕は背中をお願いします……」


そう言うとメアは俺に背を向けてから服を脱ぎ始めた。


 ……なんかすごいドキドキするな。別にやましいことをしている訳ではないのだが、それでも女の子が服を脱ぐのを見るのはこう、背徳感がある。


 メアが服を脱ぎ終わると透き通った肌があらわになり、俺はますますドキドキしてしまう。


「じゃ、じゃあ、背中拭くよ?」


「はい。お願いします……」


 俺はお湯で濡らしたタオルで優しくメアの背中を拭く。こうしてみるとメアの体格の小ささがよく分かる。メアは守られるようなか弱い存在ではないけど、それでも守ってあげたくなるかわいさがある。最も、俺にその力はないが。


「……このくらいでいいかな?」


「はい。後は私がやりますからタオルをもらえますか?」


 タオルを渡すと、メアが下の服も脱ぎ始めたので俺は慌てて体と視線を別の方向へやる。


「ご、ごめん。あっち向いとくね」


「べ、別にいいですよ。真裕になら見られても……」


 ……信頼してくれているのは嬉しいのだが、俺も一人の男なのだ。少しくらい警戒してほしい。まあ、もしもそんなことをしたらメアに返り討ちにあいそうだけど。


 さすがにメアが下着姿で体を拭くのをジロジロと見ている訳には行かないので、俺は黙って別の方を向いていた。しばらくすると体を拭くのが終わったようでメアがこう言ってきた。


「……もう大丈夫ですよ。体、拭き終わりましたから」

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