第35話 ゆるふわ系龍王爆誕

「やっほー、そっちは上手くやったみたいだねー」


「? どういうこと?」


 俺が言葉の意味を尋ねると香恋は微笑みながらこう言った。


「みんなのことだから龍王に逆らってでもネムを渡さないだろうなーって思って。私は私で動いてたんだよねー」


 香恋は近くにあった席に座るとこう話し始めた。


「それで、龍族の里に行ってきたんだけど、支援について色々交渉してきた訳」


「具体的にはどのようなことを?」


 メアがそう尋ねると香恋は笑いながらこう言ってきた。


「それがさー! みんな龍王に対しての不満が高まってたみたいで、龍王がいない間に反乱まで起こっちゃったんだよねー」


「……ま~、お父様、みんなから好かれてなかったし~。里にいた頃はボクがなんとか間を取り持ってたけど……」


 ネムが間を取り持っていたのであれば、ネムがいない現在、龍王の民からの好感度が低下するのは想像に難くない。にしても反乱が起きるって相当だな。


「そーそー、みんなネムのことは好きみたいだったから、今回の政略結婚のこと話したら今まで我慢してたことに火がついたみたい」


 なるほど、龍族の民は龍王との間を取り持ってくれていたネムに対しては好意的だったのか。だからネムが無理やり結婚させられそうになったことを聞いて、今までの龍王に対しての不満とともに立ち上がった訳だ。


「それで得た戦果がこれでーす! じゃーん、龍王の契約書ー!」


 そう言って香恋が取り出したのは一枚の丈夫そうな紙だった。ネムはその紙をじっくりと眺めるとこう言った。


「……本物だね。香恋、これ、よく作ったね」


「ほんと大変だったよー。龍王が作成素材を独占してたみたいで探すのに苦労したんだよー?」


「なるほど、ここにネムの名前を書き込めば新たな龍王が誕生する訳ですね?」


 メアのその言葉を聞いて、俺は龍王の契約書がどのようなものかを理解した。


 なるほど、ネムを新しい龍王にすれば、以前と変わらず龍族の支援を受けられると言う訳だ。そのために必要だったのが香恋の持ってきた龍王になるための龍王の契約書だったと。


「……でも、ボクが龍王になってもいいのかな……? ほら、龍王の契約書って民からの同意が必要って……」


 自信なさげにそう言ったネムに対して香恋が元気よくこう言った。


「大丈ー夫! 龍族のみんなからの同意、つまりネムが龍王になるための契約準備はもう済ませてあるから! 後はネムがサインするだけだよー」


 香恋のその言葉を後押しするように俺もこう言った。


「みんなネムが龍王になることに賛成してるってことだよ。反乱だってネムのために起こったことなんだから。もっと自信持っていいんじゃない?」


「そうですね。魔王の私からもネムが龍王になることに対して不満はありません。ネムは龍王たる器ですから」


 次々にそう言った俺たちの言葉を聞いてネムは決心したようにこう言った。


「……分かった。サインする! ボクが新しい龍王になるよ!」


 そうしてネムが龍王の契約書に自分の名前を書き込むと、契約書は光の粒子になって消滅した。


「これで契約完了みたいだねー。どう? ネム、龍王になった感想は」


「う~ん、思ったより変化はないかな~。龍王になってもボクはボクだからね~」


「そういえば、元龍王……えっと、ガルゲイン? はどうするの? ほっといたままでいいの?」


 俺がそう尋ねるとネムがこう答えた。


「多分大丈夫じゃないかな~。龍王じゃなくなったら龍族のみんなを従える能力を失うから、きっとなんとかしてくれると思うよ~」


 龍王になると民に対して従える能力を持つのか……それは普通逆らえないよな。


「それはそれとして龍王であるネムがここにいるとなれば龍族の里は誰が管理するのですか? そのまま放っておく訳にも行かないでしょう?」


「それは大丈夫、私が予め龍王の代理を決めてきたから。一人だと独裁的になったらいけないから何人かいるし、そこら辺は抜かりないよー」


 そうして抱えていた大きな問題、龍族の支援に関しては、香恋のおかげで解決することができた。これで心置きなく、ネムと一緒にいることができるという訳だ。


「香恋もみんなもありがとね~。こんなボクだけど、これからもよろしくね~」


 そんないつも通りの調子を取り戻したネムに俺を含め全員が微笑みを浮かべるのだった。


 ネムが龍王になってから数週間が経過した。俺はいつも通り魔王城の自室で目を覚ました。


「……朝か。もう少し寝たいところだが……」


 そう言いながらふと部屋の入口の方を見るとそこにはメアがいた。


「あ、メア。おはよう」


 俺がそう言うとメアは壁によりかかりながらこう言ってきた。


「……おはようございます。悪いのですが、少し頼み……が……」


 そう言った瞬間、メアはふらりと地面に倒れた。


「メア⁉」

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