第7話 日本文化と異世界文化
「「ごちそうさまでした」」
手を合わせてそう言ったメアさんを見て俺はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「そういえば、メアさんが来た世界って、日本みたいに手を合わせていただきますみたいな文化あるの?」
よくよく考えてみれば、当然のようにメアさんも合掌してたけど、異世界にも同じ文化があるとは考えにくい。
そう思っているとメアさんがこう答えてくれた。
「いえ、私の世界にはありませんよ? 日本の文化については香恋(かれん)――勇者が教えてくれたんです」
それを聞いて俺は素直に驚く。
「メアさんって勇者と面識あるんだ。ってことは勇者って日本人なんだね」
「そうですね。勇者は私の世界に転移してきた日本人です」
……ってことは、勇者はこの日本から異世界に転移したってことか。一昔前だったら信じられなかったな。
「……ついでに言うとこの世界と私の世界が繋がったのは勇者とわた……魔王様が戦った影響なんです」
「え? そうなの? ってかそれって言ってもいい情報だったの!?」
そんな話は全くもって聞いたことがなかった。メアさんは魔王軍の重要人物っぽいから知ってるかもしれないけど、それを俺に話していいものなのだろうか。
「ステラさんなら大丈夫ですよ。言いふらしたりしなさそうですし」
……それってつまり機密情報ってことなんじゃ……うん、あまり考えないようにしよう。
「な、なるほど……でも今は勇者と魔王様って別に敵対してないよね?」
「そうですね。色々あってお互いに勘違いしてただけですから」
……じゃあ、今は勇者と魔王軍の仲は良好ってことか。良かった、大きな戦いとかにならなくて。
「……それで、世界が繋がってからはこちらの文化を勉強しようと思って、日々色々学んでるんです」
……なるほど。だからメアさんの服装とかって地雷系なのか……そこを学ぶ必要があったのかは謎だが。
「そうなんだ。なんかこっちの文化を学んでくれて嬉しいよ……もし良かったらメアさんの世界の文化も教えてほしいな」
俺がそう言うとメアさんは嬉しそうにこう言ってきた。
「ほ、ほんとですか!? 嬉しいです。何を教えましょうか……」
メアさんはそう言って少し悩むとこう口を開いた。
「……こちらの世界のプロポーズって指輪を左手の薬指にはめるんでしたよね?」
「そうだよ」
なぜ急にプロポーズの話になるんだ? 異世界のプロポーズ法でも教えてくれるのかな? ……まあ、今からの時代、人間と魔族の異種族婚もあるかもしれないし、知っておいて損はないか。
「私の世界……っていうか魔族は結婚する際にお互いの魂を繋げるんです。ですから、魔族は人間とは違って一度結婚すると離れることはできないんです」
魂を繋げる……さすがは異世界だな。
「え、そうなんだ。もし嫌いになったりしたらどうするの?」
「魔族は人間と違って、一度好きになると嫌いになることはほとんどありませんから大丈夫です」
そうなんだ……だとしたらメアさんの意中の人は既に決まっている可能性があるのか……いや、まあはなから恋人になれるとは思っていませんけど……。
「さすがに魔法がある世界は色々すごいんだね」
「私からしたら、こちらの世界の方がすごく感じますけどね……。? あれは……」
そう言ったところでメアさんは俺の部屋にあった据え置き型のゲーム機を指さしてこう言った。
「もしかしてあれはゲーム機ですか?」
「そうだよ。一緒に遊ぶ?」
俺がそう問いかけるとメアさんは嬉しそうにこう言ってきた。
「いいんですか!? 私、パソコンゲーム以外はしたことがなくて……」
「そういえば持ってないって前言ってたね」
俺は結構時間があるから色々ゲームをしているが、メアさんは魔王軍の仕事で忙しそうだし、あまりゲームをする時間がないのだろう。それを考えるといつも俺とゲームをする時間を確保してくれて嬉しい限りだ。
俺がそう思いながらゲームの電源を起動してからモニターの前に座った。するとメアさんも俺の隣に座ってこう言った。
「なんのゲームをするんですか?」
「そうだね……レースゲームとか二人でできるし、どう?」
そう言って俺がコントローラーを渡すと、メアさんはそれを受け取ってからこう言った。
「レースゲーム……いいですね! でも、操作が分からないので教えてください」
「えっと、Aボタンで進んで、Bボタンは……」
そう言って俺はゲームの操作説明をしていく。
「……って感じ。後は実戦で慣れていくしかないね」
「分かりました。頑張ってみます……!」
そうして俺たちはレースゲームを始めた。機体の性能が色々あるのだが、今回は楽しむのが目的なのでガチ装備ではなく見た目で決めた。
「うぬぬ……難しいですね」
曲がる時に体も一緒にそらすメアさんを見て、俺はなんだか微笑ましい気分になった。
「まあ、最初だからね」
そう言ってゲームをやっていくと、最初は当然俺の方がうまく、一位を連発していた。しかしメアさんは急激な速度で上達していき、ついには一位を取られてしまった。
「や、やりました! 一位です!」
跳ねる勢いで喜ぶメアさんに俺は驚きながらこう言った。
「す、すごいね。こんなに早くうまくなるとは思ってなかったよ」
その後は一位を取って取られての白熱したバトルになった。
「ふー、ゲーム楽しかったですね」
「そうだね。メアさんの上達速度が早くて驚いたよ」
しばらくゲームで遊んだ俺たちはコントローラーを元あった場所に戻しながらそう言った。
「それはそうと少し喉が乾きましたね……」
「それなら何か飲み物を取ってくるよ」
俺がそう言って立ち上がろうとすると、メアさんがそれを引き止めてきた。
「それには及びません。飲み物持ってきましたから」
そう言ってメアさんは亜空間から少し大き目のティーポットと二つのティーカップを取り出した。
「ステラさんも飲みますよね? ……あ、でもこの紅茶結構甘めですけど大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫大丈夫。ありがたく頂くよ」
俺がそう言うとメアさんは上機嫌にティーカップへ紅茶を注ぎながらこう言った。
「そっか、そういえばステラさんも甘いのお好きでしたよね」
そう言って紅茶を注ぎ終えるとメアさんは俺にティーカップを手渡してくれた。
「はい、ステラさんの分です」
「ありがとう。さっそく頂くよ」
そうして一口紅茶を飲むと、俺はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「そういえばその収納魔法? ってなんでも入れられるの?」
「基本的にはなんでも入りますよ? 容量はその人の魔力量によりますけど……」
そう言ってメアさんは亜空間の中に手を突っ込むと、そこから一つのアイテムを取り出した。
「例えば……こんな物とか!」
「これは……剣?」
メアさんが取り出したのは黒色の剣だった。
「そうです。これは私が使っている魔剣です!」
誇らしげなメアさんの言葉に俺は反射的に驚いてしまう。
「ま、魔剣!? 魔剣ってあの!?」
「ふっふっふ、こう見えて私、結構強いんですよ」
まさか、ファンタジーの物だと思っていた魔剣を見れる機会が来るとは夢にも思わなかった。っていうかメアさん頭がいいだけじゃなくて戦闘面でも強いんだね……さすがは魔族だ。
「そうなんだ。じゃあ、もしも魔物とかに襲われたらメアさんに守ってもらおうかな……普通は逆だけど」
「もちろんです。ステラさんは命に替えても守りますよ!」
高らかにそう宣言するメアさんに俺は笑いながらこう言った。
「はは、まあ魔物に襲われることなんてなさそうだけどね」
「……ふふ、それが一番いいですよ」
メアさんはそう言って微笑みながら亜空間に魔剣を収納した――その時だった。
「「!?」」
突如、亜空間から大量のアイテムが部屋に流れ出したのだ。部屋の中は溢れ出したアイテムでごちゃごちゃになってしまった。
「……ご、ごめんなさい」
「……何が起こったの……?」
俺がそう尋ねるとメアさんはこう説明してくれた。
「え、えっと、魔剣を収納する時に制御を誤っちゃって……」
「中の物が溢れ出しちゃった、と」
俺がそう言うと、メアさんは泣きそうな顔でコクコクと頷いていた。
「だ、大丈夫だから。とりあえず一緒に片付けよっか」
「はい……」
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