第6話 甘々なのはケーキだけ?
「あ、えっと……メアさんがいいなら来ても大丈夫だよ」
「ほ、本当ですか! 嬉しいです」
そう言って俺の家に向かったのだが、正直なところ内心気が気ではなかった。女性を家に招いたことすらないのだ。ましてやこんな美少女を家に招く日が来るとは思わなかった。
家に到着すると鍵を開けて自室にメアさんを案内した。
「ここがステラさんの部屋なんですね! グッズでいっぱいです!」
テンション高めにそう言ったメアさんを見て、俺の部屋が悪い印象を与えていないことに安心した。
「これでも片付けたんだけど、やっぱりごちゃごちゃしてるね」
「いえ、とても片付いていると思いますよ。これだけのものを管理するのはなかなか大変そうです……」
そう言って部屋の中を見回すメアさんに俺は苦笑いをしながらこう言った。
「はは、実際、結構な頻度で部屋が散らかるんだよね……」
俺はそう言ってメアさんと一緒に床に座ると話を変えるようにこう尋ねた。
「それで、漫画が読みたいんだったっけ?」
「はい。私、漫画というものをあまり読んだことがなくて……この間、アニメラボに行った時に読んでみたいなって思ったんです」
たしかに魔族の人って異世界の人だからあんまり漫画とか知らないのか。
そう思った俺はメアさんにこう提案した。
「そうなんだ。だったらいくつか漫画を貸してあげるから持って帰ったら?」
「いいんですか⁉︎ ありがとうございます。何かおすすめとかあったりします?」
そう尋ねられ、俺は本棚の漫画を眺めながらこう尋ねた。
「どういうジャンルが読みたいかによるけど……ラブコメ――つまり恋愛系の話とかがいいかな?」
俺がそう提案するとメアさんは嬉しそうにこう言ってきた。
「はい、それでお願いします」
それを聞いた俺は何種類かの漫画の一巻を本棚から取り出してメアさんに渡した。
「とりあえず一巻だけ読んでみて。気に入ったのがあったら全巻貸すよ」
「分かりました。帰ったら読んでみます」
そう言うとメアさんは真っ黒な亜空間? を出現させてそこに漫画を入れた。
「え、え⁉︎ 何それ⁉︎」
俺が驚きながらそう言うとメアさんはこう解説してくれた。
「あ、これですか? 収納魔法って言ってこの中にものをしまえる魔法なんです」
「魔法……そっか、異世界から来たんだもんね。魔法くらいあるか」
よくよく考えてみればメアさんたち魔族は異世界の種族なのだ。当然、異世界といえば魔法があるのだろう。こっちの世界では全く普及していないので忘れていた。
俺がそう言っているとメアさんが何かを思い出したかのようにこう言ってきた。
「そうだ! 今日美味しいケーキを持って来たんです。一緒に食べませんか……?」
「そうなんだ。ありがとう、頂くよ」
俺がそう言うとメアさんは気分良さそうに亜空間からケーキの入った箱を取り出した。
「今日のケーキは頂き物なんですがせっかくならステラさんと一緒に食べたいな、と思いまして」
そう言ってメアさんが箱を開けると中にはフルーツタルトとガトーショコラが入っていた。
「おお、美味しそうだね」
「ステラさんはどっちがいいとかあったりしますか……?」
俺はそう尋ねられ、迷わずこう答える。
「俺はどっちも好きだからメアさんから選んでいいよ」
「で、でしたらガトーショコラの方をもらいます……!」
そう言ってメアさんは再び亜空間から二人分の食器とフォークを取り出した。メアさんはフォークを器用に使ってフルーツタルトを皿の上に乗せると、俺に渡してくれた。
「はい。これはステラさんの分です!」
「ありがとう」
そう言って俺がフルーツタルトの乗った皿を受け取ると、メアさんもガトーショコラを皿に乗せて自身の前に置いた。
「で、ではいただきます」
「いただきます」
そう言って俺たちは手を合わせた後で各々のケーキを食べ始めた。
俺はフルーツタルトを口に入れた瞬間、美味しすぎで驚いてしまった。
「! うま……」
「こっちも美味しいですよ。一口食べますか……?」
そう尋ねられ、俺はこんなに美味しいならガトーショコラも食べたいな、という欲求に襲われる。
「……ならもらおうかな」
俺がそう言うとメアさんは自身のフォークでガトーショコラを一口分突き刺して、俺の口の前に差し出してきた。
「はい。あ〜ん、です」
その行動に一瞬動揺しながらも、俺が口を開くとメアさんはガトーショコラをその中に入れてくれた。
俺は口を閉じて、しっかりとガトーショコラを味わう。
こんな美味いケーキを、こんなかわいい美少女にあ〜んして食べさせてもらうなんて……もしかして今夢を見ているのか……?
そう思ってしまうほどに至福なひと時だった。
「どうですか……?」
「うん、こっちもすごく美味しいよ。メアさんがあ〜んしてくれたからなおさら」
俺がそう答えるとメアさんは嬉しそうに笑いながらこう言った。
「ふふっ、嬉しいです。で、でしたら私にもあ〜ん、してください」
その言葉に、俺があ〜ん、して美味しくなるのだろうかという疑問が湧いてくるが、その頼みを断ることはできなかった。
「いいよ。はい、あ〜ん」
そう言って俺はフルーツタルトを一口メアさんの口に入れてあげた。
「ん〜! ほんとですね! ステラさんがあ〜んしてくれたからかより美味しく感じます!」
そう言って笑うメアさんを見て、俺はなんだこのかわいい生物は、と思ってしまった。まあ、メアさんがかわいいのは今に始まったことではないのだが……。
そんな嬉しいことがありながらも俺たちはケーキを食べ終えた。
「「ごちそうさまでした」」
手を合わせてそう言ったメアさんを見て俺はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「そういえば、メアさんが来た世界って、日本みたいに手を合わせていただきますみたいな文化あるの?」
よくよく考えてみれば、当然のようにメアさんも合掌してたけど、異世界にも同じ文化があるとは考えにくい。
そう思っているとメアさんがこう答えてくれた。
「いえ、私の世界にはありませんよ? 日本の文化については香恋(かれん)――勇者が教えてくれたんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます