第5話 現実への侵食

「さて、ゲームでもやりますかね」


 そう言って最近ハマっているゲームにログインすると、仲の良いもう一人のネッ友であるレンさんがメッセージを送ってきた。


『やっほー。オフ会どうだった?』


『とっても楽しかったですよ。今度予定が合えば参加してくださいね』


 俺がそう返信すると、すぐさまメッセージが返ってきた。


『りょーかい。でも最近忙しいから、落ち着いたらねー』


『はい。楽しみにしてます』


 そんなやり取りの後、しばらくしてからメアさんがログインしてきた。


『こんばんは。今日はオフ会ありがとうございました』


『こちらこそありがとうございました。また機会があればしましょう』


 メッセージを送ってきたメアさんに俺がそう返信すると、レンさんがこう言ってきた。


『さっきステラには言ったけど、私も予定が空いたら参加するから、よろしくー』


 ……そう言えばレンさんの一人称もメアさんと同じで私なんだよな。もしかしてレンさんも女性だったりして……まさかね、ゲームは男性プレイヤーの方が多いし、その可能性は低いでしょ。


『はい。楽しみにしてます!』


そう言って俺たちはその後も夜寝るまでゲームをして過ごした。


 翌日、俺は静かに目を覚ました。


「は〜あ、もう昼か」


 一つ大きなあくびをした俺は時計を見てそう呟いた。今日は平日だ。だが俺はどこへ行く予定もない。なぜなら今現在俺は無職だからだ。


 高校を卒業して一年、そして二年目の春がやってきた。ただ自堕落に過ごす毎日に俺は嫌気がさしていた。と言っても現状を改善することはできずに毎日、宿題の終わっていない夏休み最後の日のような感覚で過ごしている。


 そんな俺は現実逃避をするようにゲームに打ち込んでいた。ゲームの中なら仲のいい友人もいるし現実のことをわざわざ気にする必要もない。だが、オフ会をしたことによってメアさんやレンさんに現実の不甲斐ない俺のことがバレるのではないか、そう心配してしまう。


「……朝飯でも食うか」


 そうして俺は自分の部屋から出てキッチンにある冷蔵庫の中から朝食のパンを取り出して部屋に戻った。


 両親は今の俺を許してくれている。焦る必要はないといつも言ってくれる。だが、いつまでも親に縋っている訳にもいかない。ほんと、毎日が焦燥感でいっぱいだ。


「誰か俺を勝手に雇ったりしてくれないかな」


 アルバイトをしようと考えたこともある。だがそんな勇気は俺にはなかった。


 地べたにあぐらをかいて朝食を口に入れる。ふと目を横にやるとそこには長らく使っていない参考書の山があった。


「……勉強、か。した方がいいのは分かってるんだけどな……」


 俺は朝食を食べ終わるといつものようにパソコンを起動してゲームを開始する。


「……」


 ただ無言でゲームに熱中する。もちろんメアさんたちはログインしていないのでソロプレイだ。だが今日はなぜかいつものように気分が乗らなかった。俺は少ししてゲームからログアウトするとベッドに横たわった。


「……はは、メアさん。俺がこんなんだって知ったらがっかりするだろうな」


 そう言って俺はしばらくの間、目を閉じて横になっているのだった。


 いつの間にか眠っていたようであれから三時間が経っていた。ふとスマホを見るとメアさんからメッセージが届いていた。


『今週末の土曜日、二人で遊びに行きませんか? レンさんは予定が合わないようなので』


 そう言ってメッセージが届いていたので俺は即座に返信する。


『いいですよ。またあの広場で待ち合わせしましょう』


 そんなこんなで約束をした土曜日がやってきた。俺は約束の時間よりも少し早めに待ち合わせ場所の広場にやってきていた。


 メアさんを待ちながらスマホをいじっていると、ドラシルYで勇者の呟きが流れてきた。この世界には魔王の他に勇者も存在している。だからと言って別に敵対している訳ではない。


 ……って言うか、勇者も写真撮るの上手だな。


 添付されていた写真を眺めながらそう思っていると、声がかけられた。


「ステラさん、おはようございます」


「あ、メアさん。おはよう」


 俺がスマホをズボンのポケットにしまいながらそう言うと、メアさんは少し申し訳なさそうにこう言ってきた。


「もしかして待たせてしまいましたか?」


「いやいや、俺が勝手に早くきただけだから」


 約束の時間まではまだ数分あるのでメアさんが遅れた訳ではなく、俺が早くきすぎたのだ。


「じゃ、今日はどこに行こうか」


 一応、前もっていくつか行く場所を調べてきたが、メアさんが行きたい場所があるならそこにしよう。


 俺がそう考えているとメアさんがこう尋ねてきた。


「……あの、ステラさんは漫画とかって持ってたりしますか……?」


「? 家にならいっぱいあるけど……」


 俺が不思議に思いながらそう答えるとメアさんは遠慮がちにこう言ってきた。


「で、でしたら、ステラさんの家に行ってもいい、ですか……?」


 そう言われ俺の頭はパニック状態になりかける。


 え? 今、家に来てもいいかって言ったよね? こんな美少女を俺の家に……? いや、何も問題はないはずだ。今日は親もいないし、ちょうど数日前に掃除もしたし、特に深い意味だってないだろう。うん、じゃあ問題ないな。


「あ、えっと……メアさんがいいなら来ても大丈夫だよ」


「ほ、本当ですか! 嬉しいです」

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