第18話 ゆるふわ系ドラゴン(きぜつ)

 その後、なんとか着せ替え人形化を回避した俺はメアたちと服屋を後にした。


 香恋と気まずい雰囲気の中、ショッピングモールの中をふらついていると、ネムがその雰囲気を察したのかこう言ってきた。


「二人ともさっきからあんまり喋ってないけど何かあったの〜?」


「確かにそうですね……」


 そう言われ、香恋は先程の出来事を隠すようにこう言った。


「い、いや、別に何もないよー!」


 俺もそれに賛同するようにこう言った。


「ごめんごめん、俺もちょっと考え事してて……」


「ふ〜ん、ま、いいけど〜」


 ネムがそう言ったタイミングでネムが何かを発見したように前方を指さした。


「! 見てください、お化け屋敷です……!」


 メアが指さす先には言葉通りお化け屋敷のコーナーがあった。


「あー、そういえば期間限定で来てるって聞いたかも」


「お化け屋敷か……俺は長らく行ってないな」


 そう言っているとネムが少し不自然な様子でこう言ってきた。


「へ、へ〜お化け屋敷ね。さ、先を急ごっか〜!」


 そう言ってお化け屋敷を通り過ぎようとするネムに香恋がこう言った。


「えーせっかくだからよってみない? メアも行きたそうにしてるしー」


「はい! お化け屋敷……! 前から気になっていたんです」


 そう言って行く気満々の二人にネムは視線を泳がせながらこう言った。


「え〜、ぼ、ボクは遠慮しておこうかな〜」


 これは、明らかにお化け屋敷が苦手なんだな。うん、まあ俺も怖いけど……。


 そんなネムに香恋が遠慮なしにこう問いかける。


「ネム、もしかし怖いのー?」


 するとネムは焦った様子で少し早口にこう言った。


「まま、まさか〜ボクはドラゴンなんだよ〜? お化けなんて怖くないよ〜」


「では行きましょう! これは魔王命令です!」


 メアのその言葉にネムは諦めたようにこう言った。


「う、わ、分かったよ〜」


「一回に入れるのは二人までみたいだけど……どういう組合わせにする?」


 俺が張り紙を見てそう尋ねると香恋が何かを取り出しながらこう言った。


「こんな時は……これを使おー!」


 そう言って取り出されたのは四本の棒だった。うち二つには赤い印がついている。


 なるほど、これでペアを決めるのか……てかなんでそんなもの持ってるんだ?


 そう思いながらも俺たちは一斉に棒を引いた。


「「「「せーの!」」」」


 結果は俺とネム、メアと香恋のペアになった。


「じゃあ、先に私たちが行くねー」


「行ってきます!」


 そう言って二人がお化け屋敷の中に入って少しすると中から二人の絶叫が聞こえてきた。それを聞いてネムが青ざめた顔になる。


「……ネム、ほんとは怖いんじゃないの?」


 そう尋ねるがネムは頑なにそのことを認めようとしない。


「そ、そんなことないよ〜? ボクに限ってそんなこと……」


「別に笑ったりしないから。俺もほんとは怖いし……」


 俺がそう言ってネムが何かを言いかけた時、スタッフの人が中へ案内してくれた。


「次の方どうぞー!」


 中に入って少し進んだところで大きな音が最初の仕掛けとして襲いかかってきた。それを聞いたネムは俺の腕に抱きついてきた。


「ま、真裕……じ、実はボク、霊的なものは苦手なんだ……! だ、だからボクからぜーったい離れないでよ……‼︎」


「分かった分かった、離れないから、ゆっくり進もう」


 ネムは俺の言葉にただコクコクと頷いた。


 さらに先に進んで行くと突然青白い手が飛び出してきて俺たちを引きずり込もうとしてきた。


「ひっ⁉︎」


 そう言ってネムは俺の背中にうずくまってこう言った。


「ま、真裕……! ボクもう無理だ! あっちの世界に連れて行かれちゃうよ‼︎」


「大丈夫。俺がいるから、離れないって約束したでしょ?」


 俺がそう言うとネムは少し安堵した表情でこう言った。


「……う、うん。そうだったよね」


 そうして安心したのも束の間。次の瞬間、次の仕掛けが俺たちを襲ってきた。


「ッ! ……」


 ネムはそのショックでフラフラと地面に座り込んだ。


「ネム⁉……気絶してる」


 仕方がないので、俺は気絶したネムを背負ってお化け屋敷の中を進んで行った。いくつもの仕掛けにビビりながらも、俺が出口付近に差し掛かった時、気絶したままネムがこんなことを呟いた。


「お父様……ごめんなさい……」


「お父様……?」


 なぜ気絶しながら父親に謝っているのだろうか。過去に何かあったのかな……?


 俺がそう疑問に思っているとネムが目を覚ましたようだった。


「……あれ? ここは……?」


「あ、ネム。起きた? もう出口だよ」


 俺がそう言ってネムを背中から下ろすとこうお礼を言ってきた。


「そっか〜真裕がおんぶしてくれたんだ〜。ありがとね〜」


 出口だと安心したのかネムはいつもの様子に戻っていた。そうして出口が見えたところで凄まじいスピードで白いワンピースの女が俺たちを追ってきた。


「「⁉︎」」


 俺は急いで出口から外へと飛び出した。


「ふ〜、なんとか逃げ切ったよ〜」


 出口から出ると香恋たちが俺たちのことを待っていた。


「二人ともお疲れー。どうだったー?」


「すっごい怖かったよ。もうお化け屋敷は勘弁だね」


 俺が正直にそう言うとメアがネムにこう質問した。


「ネムはどうでしたか? 入る前は怖そうにしていましたが……」


 それに対しネムはいつもの調子でこう返答した。


「思ったより大したことなかったよ〜。ね、真裕?」


「あ、うん。まあ確かにネムは悲鳴一つあげてなかったし……」


 と言っても驚きすぎて悲鳴が出てこなかっただけなのだが。


「そうなんだー。私たちは叫びまくりだったよねー」


「そうですね。いい経験になりました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る