第17話 試着室の中には……

「あ、ここ、ここ。私のおすすめの服屋」


 到着した服屋の店内を見てみると様々なジャンルの服が売っていた。


「お〜、色んな服があっていいね〜」


 そう言いながら香恋とネムが店内に入っていくのを見て俺は服屋に入らず、反対方向へ行こうとする。


 さて、俺はそこらにでも座っておくか……。


「真裕も行きますよ」


 そう言って俺はメアに手を引かれて店内へ連れて行かれた。


「ちょ、分かったから。行くから、引っ張らないで」


 そうして店内に入るとメアたち三人が各々服を持って試着室に入った。


 ……みんなどんな服を着て出てくるんだろうか。全員美少女だから大抵の服は似合いそうだけど。


 そう思いながら試着室の前にあった椅子に座って待っていると、最初にネムが出てきた。


「どう〜? ボク、あんまりこういう服着ないんだけど……似合ってるかな〜?」


 そう言ってネムが着てきたのは香恋が着ていたようなギャルっぽい服装だった。


「ネムのふわふわした雰囲気とマッチしててかわいいと思うよ」


 俺がそう言って褒めるとネムは得意げにこう言った。


「ふふ〜ん、そうでしょ〜。ボクに惚れてもいいんだよ〜?」


 そうしていると次に香恋が出てきた。


「どうかな? メアっぽい感じにしてきたんだけど……」


 言葉の通り、香恋の着ていた服はメアが着ているような地雷系の服だった。あまり合わなさそうな組合わせに思えるが、意外にマッチしている。


「すごい似合ってるよ! なんか、明るい地雷系って感じ」


「ふふっ、それ褒めてるのー?」


「褒めてる褒めてる。かわいいと思うよ」


 そう言っていると最後にメアが出てきた。メアが着ていたのはネムが来ているような大きめの萌え袖パーカーだった。


「ど、どうですか? 似合ってますかね……?」


 メアの体の小ささからか、独占したくなるような、守ってあげたくなるようなかわいさだ。


「……」


「あの、真裕……?」


 そう言われ俺は硬直していた思考を動かし始める。


「あ、ごめん。つい見入ちゃって。似合ってると思うよ。メアの体格とふわふわした感じが合わさってすごいかわいい」


「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです……」


 そう言いながらメアは少し恥ずかしそうにもじもじする。


「やっぱり真裕って女たらしだと思うんだけど。香恋はどう思う〜?」


「分かるー。サラッと言ってくるところが特にねー」


 そうして三人が元の服に戻ると、ネムが俺に向けてこう言ってきた。


「じゃ、次は真裕の番ね〜」


「え⁉︎」


 そんな話は聞かされていない。メアたちはいいかもしれないが俺なんかの姿を見てどうしようというのだろうか。


「そうですね。服は私たちが選ぶので真裕は着てみてください」


 俺が香恋の方へ視線をやると、香恋は微笑みながらこう言ってきた。


「私は他の服見とくねー」


 ……どうやら逃れられないようだ。


 俺は二人の着せ替え人形化し、様々な服を着せられた。俺はその途中でたまらず逃げ出してしまった。追っかけてくる二人から隠れるため、俺は別の場所にあった試着室の中に慌てて逃げ込んだ。


「ふ、ふう。ひとまずこの中に。……!」


 俺が一息ついて顔を上げるとそこには香恋がいた……下着姿の。


「ご、ごめん! すぐに出るから!」


「待って……!」


 慌てて外に出ようとした時、香恋に腕を引っ張られ、俺は香恋にダイブする形で倒れこんだ。


 俺はその中で柔らかな感触に包まれていた。その意味を理解した瞬間に離れようとするのだが、香恋がそれを阻止するかのように俺の頭を抱き抱えた。


 え⁉︎  今どういう状況? この感触、間違いなく俺、香恋の胸の中にいるよな……?


 その状況に俺の心臓の鼓動が早くなる。


「しー、静かにして」


 その言葉通り、抵抗を止めると外からネムたちの声が聞こえてきた。


「う〜ん。真裕いないねぇ〜」


「どこへ行ったんでしょうか。この試着室の中とか……?」


 俺がその言葉に焦っていると香恋が外のメアたちに向けてこう言った。


「私が入ってるんだけどー」


「香恋でしたか。では別の場所を探しましょう」


 そう言ってメアたちはこの場から去っていたようだった。少しして俺が香恋の胸の中から解放されると、俺は背を向けて香恋に謝った。


「ほ、ほんとにごめん。逃げることに精一杯になってて……」


「見たよね……私の下着姿」


 香恋のその言葉に俺は言い訳をしようかとも考えたが、諦めてこう言った。


「み、見ました……」


 俺が素直にその事実を認めると香恋は少し黙った後でこう言った。


「……だったら責任とって私とキスして」


 なんでそうなるのかなどはこの時の俺の頭の中には全く存在せず、驚いて振り返ると目の前に香恋の顔があった。


 香恋は徐々に俺の唇へ距離を詰めてくる。俺の脳内はパニック状態となり何も考えられなくなりただ体を硬直させた。


 唇と唇が触れそうになった時、突然香恋が俺から離れる。そして笑顔でこう言った。


「やっぱなし! こんなやり方ずるいもんね」


「……?」


 俺にはなんのことか分からなかったが香恋の言葉で我に帰った。


「さ、真裕も早く出ていって。じゃないとメアたちにこのこと言うよ?」


 俺は慌てて、試着室から飛び出した。


「香恋。ほんとにごめん……」


「だ、大丈夫。私は気にしてないから」


 そう言う香恋だったが声が若干うわずっていたのだった。

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