第16話 涙もろいよ勇者様

「……そういえばみんなって異世界に行ったことあるっていうか、異世界がどんなものなのか知ってるんだよね?」


 この世界と異世界は繋がってはいるのだが、普通の人は異世界に行くことは許されていないのだ。魔法とか魔剣とかある訳だし、よく本とかで見るような剣と魔法の世界なのだろうか。


 俺がそう尋ねると、メアがこう答えてくれた。


「もちろんです。真裕はあっちの世界に興味があるんですか?」


「うん。どんな世界なのかな、と思って」


 俺がそう言うと香恋が異世界についてこう説明してくれた。


「うーん、そうだねー。よく本とかで見る剣と魔法の世界って感じー? 結構面白いとこだよー!」


 どうやら異世界は俺の想像に通りの世界のようだ。一回くらい行ってみたいなとも思うが、さすがにそれは叶わぬ願いだろう……。


 俺がそう思っているとネムがこう言ってきた。


「そんなに気になるなら真裕も来たらいいのに~。魔王様も許してくると思うよ~?」


「! え、ほんとに……?」


 そう言ってメアの方へ視線をやるとメアは少し悩んだ後でこう答えた。


「……ほ、ほんとは駄目ですけど、真裕は特別に許可します。あっちの世界のことを知ってもらいたいですし……」


「! ありがとう、メア! まさかほんとに行けるなんて……!」


 俺がそう喜んでいると香恋がこう言ってきた。


「じゃ、そろそろ映画館つくから予定はまた後日。あ、グループ誘っといたから入っといてねー」


 そう言って俺がチャットのグループに入ったくらいで映画館へ到着した。


「ここが映画館ですか! なんだかワクワクしてきました……!」


「そういえばなんの映画見るの?」


 俺がそう尋ねると香恋がスマホをこちらに向けながらこう言ってきた。


「これ! スカーレットメモリーの劇場版」


「スカーレットメモリーってゲームのやつですか?」


 メアの言う通りスカーレットメモリーは最近人気のゲームのことだ。以前にメアたちとやったこともあったな……。


「そうそう。映画化するって話題になってたから気になってたんだよねー」


 そう言う香恋にネムが少し不満そうにこう言った。


「え~、それってゲームやってなくても楽しめるの~?」


「もちろん! ゲームのこと知らなくても面白かったって呟きよく見るよ?」


「そうなんだ~、それだったら安心だね~」


 そうして映画のチケットを人数分発行した後で香恋が思い出したかのようにこう言った。


「あ! あと、ポップコーンと飲み物買わないと!」


 その言葉にメアがこう反応する。


「! ポップコーン……! 映画にはポップコーンですよね! さすがの私でもそれくらいは知っています」


「じゃあメア、ポップコーンとか買うからついてきてー」


「はい! もちろんです」


 そう言って二人でポップコーンを買いに行くことが決定したところで、香恋がこの場に残る俺たちにこう尋ねてきた。


「二人はポップコーン何味? あと飲み物も聞いとくよー」


「ボクはキャラメル〜。飲み物はホワイトウォーターで。よろしく〜」


「俺はストロベリーとメロンソーダで」


 それを聞くと香恋はこう言ってメアを連れてポップコーンを買いに行った。


「オッケー。じゃあ二人ともそこで待っててねー」


 そうして二人で待っていると、ネムがこう尋ねてきた。


「そういえば真裕たちはどのくらいの付き合いなの〜?」


「そうだな……二年くらいかな。ドラシルYでたまたま知り合ったんだよね」


 俺がそう言うとネムは少し不満そうにこう言ってきた。


「え〜、いいな〜。みんな仲良しで〜……」


「大丈夫、ネムもこれから仲良くなればいいよ。しかもネムは俺以外の二人とは知り合いなんでしょ?」


「ま〜、そうだけど〜」


 ネムはあまり納得がいっていないようだったが、次の瞬間、それが嘘かのようにニヤニヤしてこう言ってきた。


「そういえば〜、よく考えると真裕って今、ハーレムってやつだよね〜」


 それに対して俺は少し困ったようにこう言った。


「……みんな美少女だから心臓に悪いよ」


「確かに二人とも綺麗だよね〜」


 ちょうどポップコーンを買っている二人を眺めながらそう言ったネムに俺はさらっとこう言った。


「ネムもね」


 事実、ネムも紛れもない美少女なので謙遜はしないでほしい。


「……真裕って女たらしって呼ばれてたりしない?」


「それ、今まで彼女できたことのない人に言うセリフじゃないでしょ」


 俺がそう言うとネムはからかうようにこう言ってきた。


「え〜、真裕って彼女できたことないの〜? やっぱりボクがもらっちゃおうかな〜」


 そう言ったところで二人がポップコーンと飲み物を買って戻ってきた。


「おまたせー。何話してたの?」


「俺たちがどうやって知り合ったのかとか色々」


 俺がそう言うと香恋は俺たちにポップコーンと飲み物を渡しながらこう言った。


「そっか、ネムは知らないもんね。それじゃ、入場始まってるからシアターに入ろっか」


「映画、楽しみです……!」


 そうして俺たちはシアターに入り、スカーレットメモリーの映画を見る。内容はゲームが元だったこともあり、バトルアクションと恋愛要素が詰まった映画だった。もちろんネムのように知っていなくても楽しめる映画だったが、知っていると興奮する仕掛けがいくつもあって非常に楽しめた。俺としては大満足だ。


「映画面白かったね〜」


「そうだね。ネムも楽しめたようで良かったよ。メアはどうだった?」


 俺がそう尋ねるとメアは目を輝かせてこう言ってきた。


「すっごく面白かったです! 映画ってこんなにすごいものなんですね……!」


「香恋とかボロ泣きしてたもんね〜」


 そう言うネムに未だに泣きそうになっている香恋がこう答えた。


「うー、だって、だって……」


 そう言って香恋は再び涙を流してしまった。


 香恋ってすごい涙脆いんだな……俺とかはあんまり映画とかで泣かないけど、確かに今回の映画はそんな俺でも涙が込み上げそうなほど感動する話だった。


 俺がそんなことを思っているとネムがこんなことを言ってきた。


「次はどこか行く予定あるの〜? ないなら服を見に行きたいんだけど〜」


「服……! いいですね、私も見たいと思っていました」


 そう言う二人に俺はこう返答する。


「俺は別にいいよ。でも、とりあえず香恋が落ち着くまで待とっか」


 そうして香恋の感情がある程度落ち着いたところで俺たちはショッピングモールの中の服屋に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る