第9話 仲直り
俺は家の中に入り、シャワーを浴びながら思考を巡らせていた。
間違いなくこれで良かったはずなのだ。しかし、先程のメアさんの言葉がぐるぐると頭の中を回り続ける。
「……友達」
まだ二回しか会っていないのにもかかわらずメアさんは今まで会った誰よりも魅力的で、かわいくて、優しくて、少し抜けてる所もあって……かけがえのない友達で。
俺はシャワーを終えて自室のベッドに倒れ込むように横になった。
目線の先には以前メアさんからもらった深淵の魔導書のレプリカと、山積みになった参考書が隣り合って並んでいた。
「……俺がもっと、ちゃんとした人間だったらこんな風に悩むこともないのにな」
もっと真っ当な人間で、メアさんにふさわしい人間だったら良かったのに……ほんと俺って駄目なやつだな。
俺の頭の中にはメアさんの言葉と去り際の悲しそうな表情がこびりついて離れなかった。
数時間後、俺はどうやら眠りに落ちていたようだ。スマホの電源を入れるとメッセージが届いていた。それはレンさんからのメッセージだった。
『今日は二人とも来ないのー?』
俺は少し悩んでからこうメッセージを送った。
『実はメアさんと仲違いというかなんというかをしてしまって……』
『なるほどね。早く仲直りするんだよー』
俺はそう言われ言うつもりのなかった心の内をレンさんに相談することにした。
『レンさん。俺、メアさんがすごい人だって知ってしまって……自分とじゃ不釣り合いなんじゃないかって……』
俺がそうメッセージを送ると、レンさんからすぐにこう返信がきた。
『まさかとは思うけどそれをメアに言ったの? だったらメアが怒るのも当然だよ』
『やっぱりまずかったですかね……』
しかしメアさんはあの魔王なのだ。何者でもない俺が関わっていい人間だとは到底思えなかった。
『当然でしょ。私たちは友達なんだよ? 立場とかそんなこと関係ある?』
レンさんにそう言われて俺はメアさんの言っていた言葉の意味が分かった気がした。
『たとえメアがすごい人でもいつも通り接して欲しいと思うな。もちろん私もそうだよ?』
『……俺、明日メアさんに謝ってきます』
『うん! それがいいよ、絶対仲直りしてね』
レンさんの言う通りだった。メアさんは魔王だからといって俺を拒んだりはしていなかった。拒んでいたのは俺だ。魔王だからと言ってメアさんはメアさんなのだ。俺がメアさんを友達だと思うのは魔王だろうと関係ない本心だ。
俺はそう決意して次の日に内心ドキドキしながらメアさんにメッセージを送った。
『今日、どうしても会えませんか? 大切な話があるんです』
そうメッセージを送ったのだがしばらくしてもメッセージは返ってこなかった。メッセージ画面を見てみると既読はついていたので俺は再度メッセージを送った。
『一度だけでいいです。本当に会ってくれませんか?』
俺がそうメッセージを送るとしばらくして今度はメッセージが返ってきた。
『分かりました。今日の業務が終わったら連絡します。待ち合わせ場所はいつもの広場でお願いします』
それから俺は業務が終わるであろう夜に待ち合わせ場所の広場付近で時間を潰していた。辺りは既に暗くなっている。そうしているとメアさんからメッセージが届いた。
『今、終わりました。今から向かいます』
俺はそれに了解の返信をすると待ち合わせ場所の広場でメアさんを待った。
「……緊張してきたな。メアさん、許してくれるかな……」
そう言って待っているとメアさんがやってきた。
「お待たせしました……それで話とはなんでしょうか」
メアさんは冷め切った冷たい視線を俺に送ってきた。俺はそれに一瞬、硬直するが、覚悟を決めてこう言った。
「メアさん、昨日は本当にごめん!」
そう言って俺は深く頭を下げる。続けて俺は畳み掛けるようにこう言った。
「メアさんが魔王だとかそんなことは関係なかった! これまでもこれからもメアさんは俺の友達だ‼︎ だから昨日のことは忘れて欲しい。どうかこれからも俺と友達でいてくれ‼︎」
そう言って俺がゆっくりと顔を上げるとメアさんは涙を流していた。
「……嬉しいです。私たちはまだ友達でいられるんですね」
続けてメアさんは涙を拭うと笑顔でこう言った。
「はい、もちろんです。これからもよろしくお願いします」
そう言って微笑み合う俺たちを、月の光が優しく照らしていた。
その後、俺たちは広場にあったベンチに二人で座って、改めて話を始めた。
「それにしてもメアさんが魔王だったなんて本当に驚いたよ」
俺がそう言うとメアさんは少し不満げにこう言ってきた。
「私たちは友達なのですからさん付けは不要です。私のことはメアと呼んでください」
「分かった。メ、メア」
若干恥ずかしがりながらそう言うとメアは満足そうにこう言った。
「はい。それでいいのです」
「……そう言えばメアの本名だけ知ってるのって不公平かな。俺の名前は星月真裕って言うんだ」
俺がそう言って本名を明かすとメアは納得したようにこう言った。
「なるほど名前に星が入ってるからステラなんですね。それでは真裕と呼んでもいいですか?」
「もちろん」
俺がそう言うと、メアは満足そうに笑った後でこう言ってきた。
「……真裕、突然なのですが一つお願いがあります。少し肩を貸していただけませんか?」
「え? どういうこと?」
俺がそう尋ねるとメアはこう答えた。
「実は昨日あれから一睡もできていなくて、少しだけ眠らせてください」
一睡もできなかったって……昨日のことがよほどショックだったんだな。ほんとに悪いことをしたな。
「……ほんとにごめん。なんなら膝の上に頭を置いて横になってもいいよ」
俺がそう言うとメアさんは緊張の糸が緩んだように、俺の膝に頭を預けて横になった。
「少し眠らせて頂きます……」
そう言ってメアはすぐに眠りについてしまった。しばらくはぼーっとしていた俺だったが次第に今の状況に動揺してきた。
……俺、今こんな美少女を膝枕しているのか。欲を言えば俺が膝枕されたかったな。
そう考えた瞬間、俺は自分の頬を叩いて邪念を払おうとする。
いかんいかん。俺とメアはあくまでも友達で、決してそういう関係ではないのだ。
そう言ってメアに目をやると、メアはスヤスヤとかわいい寝顔をして眠っていた。思わず頬をつついてみたくなる衝動に駆られるが俺はその衝動を抑え込む。だが、気がつけば抑えきれずについメアの頬をつついてしまっていた。
「本当にかわいいな……」
そうして俺はしばらくの間メアの頬をつついていた。しばらくすると俺は気がつかぬ間に眠っていたようで、メアにつつかれて目を覚ました。
「……真裕。起きてください、真裕」
そう言われるが俺はぼんやりとした意識で夢うつつの状態だった。
「……起きませんね。今ならいいでしょうか……」
メアがそう言うと少しして頬に柔らかい感触を感じた。
「今はこれくらいしかできませんが、真裕、あなたは必ず私のものにします」
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