第10話 いざ魔王城

「……真裕。起きてください、真裕」


 そう言われるが俺はぼんやりとした意識で夢うつつの状態だった。


「……起きませんね。今ならいいでしょうか……」


 メアがそう言うと少しして頬に柔らかい感触を感じた。


「今はこれくらいしかできませんが、真裕、あなたは必ず私のものにします」


 そうぼんやりした意識でその言葉を聞いていると、だんだんと意識がはっきりしてきた。俺は目を完全に開くと目の前にいたメアにこう言った。


「……おはよう、メア」


「おはようございます。どうやら二人揃って眠ってしまっていたようですね」


 メアのその言葉に、俺は立ち上がって背伸びをしながらこう言った。


「そうみたいだね。今からどうやって帰ろうかな……歩くか」


 スマホに目をやると時刻は十二時を回っていた。もうバスなどは動いていないだろう。この広場から俺の家まではまあまあ距離があるが、バスなどがと動いていない以上、歩いて帰るしかないだろう。


「もしよければ家に来ますか? 乗り物は用意しますから」


 そう言われ俺は一瞬、思考停止しかけた後でこう尋ねた。


「メアの家ってもしかして魔王城……?」


 魔王が住む場所は異世界の門の近くにある魔王城だ。魔王城は一際大きく、ここらであれば大抵どこからでも見ることができる。


「もちろんです。真裕、あなたを魔王城へ招待します」


「……本当に行ってもいいの?」


 俺がそう尋ねるとメアは当然といったふうにこう言ってきた。


「当然です。真裕の家には行ったのですから私の家に来ても大丈夫です」


 そういう問題なのだろうか。まあ、魔王であるメア本人が言っているのだからいいのかもしれない。うん、もう考えないようにしよう。


「……なら行かせてもらおうかな」


 思考停止した俺がそう言うとメアは満足そうにこう言ってきた。


「はい、それでいいのです。それでは乗り物を呼びましょう」


 そう言うとメアは空中に巨大な魔法陣のようなものを展開した。次の瞬間その魔法陣から巨大なエメラルドグリーンのドラゴンが出現した。


「これってドラゴン⁉︎ ってか今のって魔法⁉︎」


 俺が驚きながらそう言うとメアはこう返答してきた。


「本来ならこんな所では使わない方がいいのですが今は夜も遅いですから大丈夫でしょう」


 そう言って出現したドラゴンに視線をやると、ドラゴンはスヤスヤと眠っていた。


 ……まあ、ドラゴンもこの時間なら寝てるか。ってか寝てても無理やり呼び出せるんだ。


 俺がそう思っているとメアがドラゴンの頬をペチペチと叩きながらこう言った。


「ネム、起きてください」


 ネムと言われたドラゴンはゆっくりと目を開くとメアに向けてこう言った。


「あれ? 魔王様? こんな時間にどうしたの〜?」


 眠そうな声でそう言ってくるネムにメアはこう言った。


「魔王城まで連れて行って欲しいのです。眠いとは思いますがお願いできますか?」


「……しょうがないなぁ。魔王様の頼みなら別にいいよ」


 その言葉を聞いてメアは微笑んでこう言った。


「ありがとうございます。そこにいる真裕も一緒にお願いします」


「? 誰、その人」


 そう言ってこちらを見てきたネムに俺は一瞬、たじろいた。


「この人は私の大切な友人です。振り落としたりしたら許しませんからね」


「え? もしかしてこのドラゴンに乗るの?」


 メアのその言葉からそう判断した俺がそう尋ねるとメアは頷いてこう言った。


「はい。紹介します、ドラゴンのネム、私の配下です」


「よろしく〜、君の名前は〜?」


 さすがは魔王。ドラゴンも従えているのか。


「俺は星月真裕。真裕って呼んでくれ」


「真裕ね。覚えたよ〜、ボクのこともネムでいいからね〜」


 そう言って自己紹介が終わるとメアはネムに向けてこう言った。


「それではさっそく魔王城へ向かいましょう。ネム、お願いしますね」


「はいはい〜。乗ったら教えてね〜」


 こんな巨大なドラゴンに乗るだけで大変そうだが、そこはメアがなんとかしてくれた。


「真裕、私の手を握ってください」


「う、うん」


 俺は一瞬の硬直の後に、差し出されたメアの手を握った。手触りの良いしなやかな手は俺の鼓動を少し早くさせた。


「では乗りますよ」


 そう言ってメアは俺を引っ張り上げながらジャンプしてネムの背中に乗った。


「……落ちないように風を受けにくくする魔法をかけて……ネム、準備OKです」


「は〜い、魔王様。出発するよ〜」


ネムはそう言うと勢いよく翼をはばたかせて飛び上がった。先程、メアが言っていた風を受けにくくする魔法のおかげか風は勢いに反して気持ちいいくらいだった。


「……まさかドラゴンに乗る日が来るとはな」


「ドラゴンに乗るの、初めてなんですか?」


 そう尋ねられ、俺は正直にこう答える。


「初めてだね。っていうか乗ったことある人の方が少ないでしょ」


 俺がそう言うとネムが俺たちに向かってこう言ってきた。


「そうだよ〜、魔王様。ボクたちドラゴンが背中に乗せるのは特別な人だけだからね〜」


「そうだったのですか!? 今まで知らないで乗っていました」


 驚いたようにそう言うメアにネムは眠そうな声でこう言った。


「まあ、魔王様は大体のドラゴンより強いからね〜、それだけで特別だね〜」


 さらっとそう言ったネムの言葉に俺は内心驚いていた。


 さすがは魔王だけあってメアはドラゴンより強いのか……この可憐な見た目からはとても考えられないな。


「……ん? メアはいいとして俺はネムに乗っても良かったのか?」


 俺がそう尋ねるとネムはあきれたようにこう言ってきた。


「真裕は魔王様の大切な人なんでしょ〜? だったら十分特別でしょ」


 その言葉に幸福感を得ている俺にネムは続けてこう言ってきた。


「っていうか真裕は魔王様とどういう関係で友達になったの~? 魔王様にそこまで言わせるってただものじゃないよね〜」


 そう言われ俺がメアとの関係を話そうとしたところでメアが俺に耳打ちしてきた。


「すみませんが、ゲームのことは黙っていてください……その、内緒でやっているので」


 それを聞いて俺はネムに誤魔化すようにこう言った。


「……まあなんというか戦友的な?」


 ……うん。嘘は言っていない嘘は。


「戦友? 真裕そんなに強そうじゃないけど、ほんとなの?」


 そう言って疑ってくるネムに俺はこう言って反論する。


「何も戦闘能力が全てじゃないからな」


 そう言う俺にメアも賛同する。


「そ、そうですよ、ネム。私と真裕は間違いなく戦友というやつです」


「ふーん。ま、別にいいけど〜」


 そんな会話をしていると魔王城が近づいてきた。


「そろそろ魔王城に着きそうですね」


「こうしてみると魔王城ってほんとにでかいんだな」


 俺が思ったことをそのまま言うとネムがこう言ってきた。


「そうだよね~、ボクも魔王城で迷うことあるもん」


 そのネムの言葉を聞いて俺はメアが魔王城の中を把握しているのかを尋ねた。


「メアは魔王城の中を把握してるの?」


「はい。私は大体把握しています。ですが魔王城にいる多くの者は把握しきれていないでしょうね」


 さすがは魔王様というべきだろうか。というかこんなに大きい魔王城の中ってどんな部屋があるんだ?


「今度にでも魔王城の中を紹介してあげますからまた来てくださいね」


「う、うん。でもどうやって来たらいいの?」


 今回はネムに乗って来たからいいものの、魔王城は結構高いところに立っているからくるのが大変そうだ。っていうか俺の体力では無理だろう。


「その時は私が迎えに行きますから安心してください」


 そう言っていると魔王城に到着した。ネムはゆっくりと魔王城の前に着陸するとこう言った。


「着いたよ〜」


「真裕、手を握ってください」


 俺はその言葉通り手を握るとメアと一緒にネムから飛び降りた。


「それじゃ、魔王様。ボクは眠いから寝るね〜」


「はい。眠い中ありがとうございました。ゆっくり寝てください」


 その言葉を聞くとネムはどこかへ飛び立っていった。


「ネムは魔王城に住んでないの?」


「いえ、住んでますよ。今日は少し用事を頼んでいたので別の場所で寝てもらってますけど……」


 大きさ的に住んでいないのかと思ったけど住んでるのか……ドラゴンも住めるなんてすごいな魔王城。


「では真裕。さっそく魔王城に入りましょうか。時間が時間なので裏口から入りましょう」


 そう言ってメアは正面の大きな門ではなく少し離れた場所の小さな扉に入っていった。


「さあ、真裕も早く来てください」


「う、うん。分かった」


 俺は若干ためらいながらも魔王城の中へと入っていった。中に入るとそこには大きな廊下が広がっていた。こんなところにいていいのだろうかと不安になるが、メアは先に進んで行く。俺は慌ててその後についていった。


 しばらく歩いていると大きな魔法陣が書いてある場所に辿り着いた。


「? この魔法陣みたいなものは何?」


 俺がそう尋ねるとメアがこう答えてくれた。


「これは転移魔法陣です。ここから魔王城の色んな場所に飛ぶことができるんです」


「まじか。なんか今日は驚いてばっかりな気がする」


 俺がそう言っているとメアが俺の手を引っ張ってこう言った。


「さあ、早く行きますよ。私から離れないでくださいね」

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