第11話 魔王城にお泊り
「これは転移魔法陣です。ここから魔王城の色んな場所に飛ぶことができるんです」
「まじか。なんか今日は驚いてばっかりな気がする」
俺がそう言っているとメアが俺の手を引っ張ってこう言った。
「さあ、早く行きますよ。私から離れないでくださいね」
そう言って転移魔法陣に乗ると辺りの景色が一瞬で変化した。転移した先はどうやら誰かの部屋のようだった。部屋の中は広く、それでいて大量にあるものが綺麗に整理されている。そして真っ先に目に留まったのはたくさんのぬいぐるみだった。
「ここは?」
俺がそう尋ねるとメアはこう答えた。
「……私の部屋です」
言われてみれば、俺があげたエンジェルスライムのフィギュアが、ベッドの枕元に置かれていた。
「そうなんだ。ぬいぐるみ好きなんだね」
というかさらっと来たけど、俺、メアの部屋にいるのか。なんというか、心の準備が……女の子の部屋とか来たことないし……。
そう意識した瞬間、部屋の中のほのかないい香りが鼻をくすぐる。急展開に心が追いついてきた瞬間に少し鼓動が早くなる。
「……はい。気がついたら集めてしまっていて」
「はは、いいんじゃない? かわいらしくて」
そう言った俺の言葉にメアは少し顔を赤らめてこう言った。
「かわいらしい……ですか?」
「うん。いい趣味だと思うよ」
俺がそう言うとメアは顔を隠すように後ろを向いてこう言った。
「……ではもう少し集めてみます。それよりもう夜も遅いですから眠るとしましょう」
そうか。一晩泊まるために来たんだもんな。でも、まさかメアの部屋で眠るなんてことはさすがにないよな?
「俺はどこで寝ればいいんだ? 他の部屋とか?」
俺がそう尋ねるとメアは首を傾げてこう言った。
「? この部屋でいいですよ。私のベッドを使ってください。私は適当な場所で寝ますから」
そう言ってくるメアに俺は慌ててこう言った。
「さ、さすがにそこまではさせられないよ。俺はあそこにあるソファに横になるから」
俺が近くにあった大きめなソファに近づくとメアが何か言う前にソファに横になった。
「それじゃおやすみ!」
俺がそう言って目を瞑るとメアは諦めたようにこう言った。
「真裕……おやすみなさい」
そう言って眠ろうと目を瞑った俺だったが、徐々に今の状況に心が追いついてきたせいで、ドキドキして眠れなかった。
しばらくして体を起こすとメアは既に眠ってしまっていたようだった。抱き枕のようなものに抱きつきながら眠るメアの寝顔は素晴らしくかわいらしかった。
俺はそんなメアに一瞬ドキッとしたものの、すぐに体をソファに戻す。そうして横になると俺はやることもないので目を瞑ってひたすら沸いてくる雑念を振り払っていた。すると、俺は次第に眠りに落ちていった。
翌日。いつもと違い、今日はかわいらしい声で起こされた。
「……真裕……真裕。朝ですよ、起きてください」
「う、うーん。あと五分だけ」
俺が寝ぼけながらそう言うとメアがやれやれというふうにこう言った。
「それはさっきも聞きました。早く起きてください」
そう言われ俺は寝ぼけながら体を起こした。
「……あれ? メア?」
「はい。メアです。よく眠れましたか?」
そう言われぼんやりした意識の中で俺は今の状況を理解する。
「そっか、俺、魔王城に泊まって……」
俺がそう言うとメアは近くにあったテーブルに座ってこう言った。
「さあ、朝ごはんを用意しましたから一緒に食べましょう」
そう言ったメアの前のテーブルには二人分の朝食が置かれていた。魔王城の朝食というくらいなのだから豪勢なものかと思ったが用意されていたのは思いっきり和食だった。
「……魔王城って和食が出るんだね。なんか意外」
「……少しでも日本文化を知りたくてたまに和食を食べるようにしているんです」
そういえば前にこっちの世界の文化を学んでるって言ってたな。
「それでは食べましょうか。冷めてもいけませんし」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」
そう言って俺たちは朝食を食べ始めた。
「料理はどうですか? 何か食べられないものがあったりしませんか?」
そう言って心配してくれるメアに俺はこう言った。
「大丈夫。すごく美味しいよ」
俺がそう言うとメアは安心したようにこう言った。
「それは良かったです……実は今日の朝食は私が作ったんです」
「そうなの⁉︎ メアは料理もできるんだね」
魔王様でも料理をするんだな。意外だ。
「それでもさすがに魔王城の料理人たちには及びませんが、これでも色々練習したんです」
「そうなんだ。すごい美味しいよ、これなら毎日でも食べたいくらいに」
俺がそう言うとメアは若干照れながらこう言った。
「……ではまた機会があればご馳走しますね」
「うん。楽しみにしておくよ」
そんな話をしながら俺たちは朝食を食べていった。朝食を食べ終わると少し休憩した後でメアがこう言ってきた。
「まだ朝は早いですが、家まで送りましょうか? 私も今日の業務があるので」
そう言ってくるメアに俺はこう返答する。
「それなら途中まででいいよ。ある程度のところまで行けば帰れるから」
「そうですか? なら途中まで送っていきます」
そう言ってメアの部屋を出ると俺たちは昨日乗った転移魔法陣まできた。
「それでは、これで出入り口近くまで行きましょう」
「うん」
そう言って俺は転移魔法陣の上に乗った。その時ふとこんなことを思った。
そういえば魔王城って他にどんなところがあるんだろう。少し気になるな、今度メアに少し聞いてみようかな。
そう思った瞬間、景色が変わって魔王城の違う場所に転移する。しかし、転移したのはいいもののたどり着いたのは昨日の出入り口付近の転移魔法陣ではなかった。それどころかメアとはぐれてしまったようだった。
「……これ、まずいよな。ちょっとメアに連絡してみるか」
そう言ってメアにメッセージを送ろうとした瞬間にこんな声が聞こえてきた。
「貴様、何者だ! この城の者ではないな⁉︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます