第29話 癒やしの魔王様
「メ、メア? なんでこんな所に?」
いつまに入ってきたのだろう、それとも俺が入ってくる前からいたのか? どちらにしてもなぜ俺の部屋にいるのだろう。
「……真裕、無理していませんか?」
メアのその言葉に俺は思わずドキッとしてしまう。しかし、俺は何事もないように笑顔でこう答える。
「してないしてない! むしろ楽しいくらいだよ」
事実、この魔王城での仕事は楽しかった。基本的にはメアたちとしか関わることはないし、みんな優しいし、何より役に立っているという感覚が嬉しかった。
何物でもなかった俺が存在してもいい。そんな感覚を与えてくれたのは他ならないメアなのだ。そんなメアの役に立ちたいと思うのは当然のことだった。
「……嘘ですね。顔に書いてありますよ」
メアはそう言うとベッドの上に正座をして俺のことをじーっと見つめてきた。
「……?」
俺が不思議に思っているとメアは太ももを軽く叩きながらこう言った。
「早く来てください。膝枕、という奴です」
「え⁉︎ ちょ、なんで膝枕……?」
「……? 男の人は膝枕をしてあげると喜ぶと聞いたのですが……違いましたか?」
どこからそんな情報を仕入れてきたのだろうか。まあ、確かにメアに膝枕されたら嬉しいけど……。
「それとも、私の膝枕は嫌ですか……?」
不安そうな表情でそう言ってくるメアに俺は慌ててこう言った。
「そ、そんなことはないけど……ほんとにいいの?」
「いいと言っています。早く来てください、これは魔王命令ですよ?」
そう言うメアだったがその瞳はとても優しそうにこちらを見ていた。
俺は覚悟を決めてメアの太ももに頭を乗せる。程よい弾力としなやかな肌触りを感じて俺は少し鼓動が早くなる。
そんな俺を落ち着かせるようにメアは頭を優しく撫でてくれた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。悪いようにはしませんから」
メアのその言葉は俺の心を解きほぐすように、優しく、安心感のある声だった。
「……真裕、ほんとは無理してますよね?」
「……」
俺はメアのその問いかけに答えることができなかった。
「大丈夫です、私は真裕が頑張っているのは知っています。だから、そんなに自分を追い詰めないでください」
「……でも、今の俺じゃ限界なんだ。俺はもっと頑張ってメアの役に立てる人間になりたいんだ」
今の俺じゃ、今のままの普通以下の俺ではメアの役には立てない。みんなのように戦闘能力だって高くはないし、頭を働かせる仕事で役に立つしかない。そのために様々な本を読んだりして努力した。でも、それでも、今は行き詰まりを――自分の限界を感じていた。
「……真裕は色々と勘違いをしているようですね」
「勘違い……?」
俺が一体何を勘違いしているというのだろうか。そもそも仕事のやり方に問題があるとか?
しかし、俺のその考えは全くの的外れなものだった。
「そうです。真裕は今も十分、私の役に立っています」
「……仕事が進んでないのに?」
正直、今の俺がメアの役に立っているとは思えなかった、確かに案は良くなっている気がするが、一向にゴールに辿り着ける気がしないのだ。このままではただ時間を食い潰してしまう。
「仕事は進んでいますし、私は真裕がいるだけで嬉しいです。ネムも香恋もそう思っているはずですよ」
「……」
その言葉はあまりに眩しかった。自分の存在を肯定されたようで少し恥ずかしい感覚を覚える。しかし、決して悪い気分ではなかった。
「でも、真裕はそれでは満足してくれないのですよね? ですから私はそのままでいいとは言いません。むしろもっと変わって私の役に立ってください!」
メアは冗談半分にそう言うと更に続けてこう言ってきた。
「真裕、覚えておいてください。私、メアリア・シャルティールはあなたを必要としています。これはいつまでも変わらない私の想いです」
「メア……」
メアのその言葉は本心から言っているものなのだと直感的に理解できた。それが故に心の内に入り込んで俺を離さなかった。俺はここにいてもいいんだと、本気でそう思えた。
そうしてメアは俺が眠りにつくまで優しく頭を撫で続けてくれた。俺はその優しさに包まれながら夢の世界へ落ちていった。
どのくらいの時が経ったのかは分からないが、俺は心地よく、自然に目を覚ました。ゆっくりと体を起こすと、部屋にある机に一枚の紙が置かれていた。
『真裕、おはようございます。私は一足先に業務に向かいます。仕事が一段落したらまたみんなで遊びに行きましょう。期待していますよ』
「……メアの仕事を一段落させるためにも頑張らないとな」
俺がそう意気込みの言葉を呟いた瞬間、その言葉の何かが俺の頭に引っかかった。
「……? 待てよ、あくまで今の目的はメアの仕事をできるだけ減らすこと。それ以外の問題をあれこれといじくり回しても仕方ないのでは……?」
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